Ch_2 戦略とは何か(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #5

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#4では第2章の『戦略とは何か』の前編として、「戦略とは他社と異なる活動に宿る」までの内容を取り扱いました。

Ch_2 戦略とは何か(前編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #4 - lib-arts’s diary

#5では第2章の『戦略とは何か』の後編として、「戦略はトレードオフで持続する」以降の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 戦略は「トレードオフ」で持続する
2. 活動の「適合性」が競争優位と持続性を強化する
3. 戦略を再発見する
4. 感想・まとめ

 

1. 戦略は「トレードオフ」で持続する(簡単な要約)
独自のポジションを選択するだけでは、持続的優位は保証されない。高い価値が得られるポジションならライバルが真似ようとする。模倣の方法は次の二つのうちのどちらかである。

1) 自らを好業績企業と重ね合わせるように、ポジショニングし直す
2) 両天秤をかけ、既存のポジションを維持しながら、うまく行っているポジションのいいとこ取りをする

トレードオフは持続性優位の条件
戦略ポジションは他のポジションとの間にトレードオフが存在するものでなければ持続性がない。トレードオフはある活動とある活動が相容れない時に生じるもので、何かを増やすと別の何かが減るという状態のことである。
トレードオフがあるために企業はあれかこれかを選ぶ必要がある。そのため、自社のポジションにトレードオフがあればリポジショニングや両天秤で同じポジションを狙ってくる他社から自社を守ることができる。

トレードオフが生まれる三つの理由
トレードオフが生じる理由は三つあり、下記にまとめる。

1) イメージや評判の一貫性
-> ある価値を提供することで知られている企業が相容れないものを並行して売ろうとすれば信頼を失い、顧客を混乱させ、かつての評判までも傷つけてしまう。

2) 活動の一貫性
-> 他社とは異なるポジションを選択することで、それにふさわしく活動を調整することになり、製品の仕様、設備、従業員の行動、スキル、マネジメントシステムも変わってくるがそこにはトレードオフが存在する。

3) 調整と統制の限界
-> ポジショニングを一つ選べばそれにつれて組織上の優先順位も明らかになる。しかしあらゆる顧客にあらゆることを提供しようとする企業では、社員たちは具体的なフレームワークがないまま日々の業務上の判断を下すことになるため、社内のあちこちで調整と統制の混乱が生じかねない。

ポジショニングのトレードオフは競争にはつきものであり、戦略の本質である。トレードオフゆえに選択の必要性が生じ、自社が提供するものを意図的に制限する必要が生じる。また、トレードオフが存在することで、リポジショニングや両天秤によって模倣しようとする競合他社の戦略が弱まり活動の価値が下がるため、模倣を食い止める効果がある。

トレードオフのない戦略に価値はない
一般的にコストと品質の間にトレードオフがないという状態は、企業の活動に重複や無駄があったり、統制がおざなりだったり、正確さに欠けていたり、調整が不十分だったりする時である。企業がベストプラクティスを実現している時にはコストと差別化はトレードオフとなる。
ここ10年、業務効果の大幅な向上の中で、マネジャーたちは「トレードオフは解消することが望ましい」という考え方を身につけてきたが、実際は逆でトレードオフがなければ持続的優位は獲得できない。その位置に留まるにはますます速く走り続けなくてはならない。

 

2. 活動の「適合性」が競争優位と持続性を強化する(簡単な要約)
どのポジショニングを選択するかによって、どのような活動を行うのか、各活動をどのように組み合わせるのか、またどのように関連させるのかが決まる。業務効果とは、個々の活動や機能を実施する際の卓越性であり、戦略とは様々な活動や機能の組み合わせである。
競争優位の源は各活動を一つのシステムにまとめ、その全体を包含したものであり、単なる部分の寄せ集めではない。この全体のシステムを「適合性」と呼ぶが、この「適合性」によって、各活動が最強度で繋がった強力なバリューチェーンが生まれ、これが模倣者への障壁となる。優れた戦略を有する企業の各活動は、相互に補完し合い、真の経済価値を創出している。このような戦略上の適合性から競争優位と優れた収益性が生み出される。

・適合性の三種類
適合性はポジションの独自性を高め、トレードオフを増幅させることができる。適合性には三種類あり、これら三つは重なり合う部分がある。

1) 戦略と活動のシンプルな一貫性
-> ある活動と戦略と戦略全体の間の「シンプルな一貫性」という意味での適合性

2) 活動の相互補完性
-> 「各活動が相互に補強し合う」という意味での適合性

3) 労力の最適化
-> 活動間の相互補完性を超える、「労力の最適化」という意味での適合性

これら三つの適合性全てに置いて、個々の部分ではなく、全体が重要である。競争優位の拠って立つ基盤は「活動システム全体」である。企業の強みは様々な機能や活動にまたがり、ある強みは他の強みと関連している。

・適合性が持続性を生む
活動間の適合性は競争優位の基礎となるだけでなく、持続可能性の基礎ともなる。競合他社にすれば、相互に関連している活動システムを完璧に模倣するのは、ただ営業手法を真似たり、同様のプロセス技術を導入したり、製品に同じ特徴を取り入れたりするより難しい。活動システムに基づくポジショニングは個々の活動だけに基づくポジショニングよりもはるかに持続可能性が高い。ある企業のポジションが第二もしくは第三の適合性による活動システムに基づくものならば、その優位性は一層持続性が増すように思われる。
最も成功しやすいポジションは、その活動システムがトレードオフの存在で守られ、ライバル企業のシステムと相容れないようなポジションである。個々の活動をどのように構成し、どのように統合するかは戦略ポジショニング次第である。
戦略とは何かという問いへの答えとしては、戦略とは企業の活動間の適合性を作り出すことにある。活動間に適合性がなければ、メリハリの効いた戦略も実現しなければ持続可能性もない。

 

3. 戦略を再発見する(簡単な要約)
「多くの企業に戦略がないのはなぜか」、「マネジャーはなぜ戦略の選択から逃げるのか」、「以前に立案した戦略があってもなぜそれをありきたりなもの、曖昧なものにしてしまうのか」、これらの問いについて以下取り扱っていく。

・戦略の選択から逃げない
戦略への脅威は技術進歩や他社動向など、社外からやってくると一般的には考えられている。確かに外部の変化も問題だが、戦略を脅かすものは実は社内にある。
業務効果の追求はわかりやすくすぐ実施できるという魅力があるため、こちらの方向性に陥りがちだ。業務効果を改善するプログラムが優れた収益性につながるかについては判然としないが、前よりよくなることは間違いない。このような業務効果を競うレースに参加することで、多くのマネジャーがなぜ戦略が必要なのかという理由を見失ってしまう。トレードオフはやっかいであり、間違った選択を下して責められるより、何も選択しないほうが賢いと考えてしまう。自主性を発揮すべく権限委譲された社員たちは改善できるところをもれなく探し出そうと頑張るが、えてして大局観がなかったり、トレードオフを認識する視点が欠けていたりする。

・成長の罠を避ける
様々な理由の中で、戦略を機能不全に陥らせる最大のものはおそらく成長への欲求である。トレードオフやなんらかの制約は成長を阻害するものに見えてしまうため、マネジャーたちはこうした制約を少しでも減らそうとして戦略ポジションを曖昧にしておこうとする。
成長を追求する過程で妥協し、企業としての一貫性が損なわれると、独自の製品や対象顧客によって築いてきた競争優位が崩れてしまう。様々な方法を並行させて競争しようとすると、混乱を招き、組織内のモチベーションと基軸が揺らぐ。この際に利益は落ちるが売上が伸びているため、間違いに気づかないケースが多いので注意が必要である。

・利益を伴う成長を追求する
成長だけに注力すると、しばしば独自性が曖昧になり、妥協を生み、適合性を低下させ、ついには競争優位が弱体化していく。反対に戦略を維持し、強化する成長策は、戦略ポジションを掘り下げることに集中し、拡大したり妥協したりしないことである。
そのための一つの方法としては、現在の戦略の延長線上での活動をさらに強化し、競合他社が不可能だと諦めるか、コスト負担に耐えられないと思うような特長やサービスを提供することである。ポジションを掘り下げるとは、活動をより特徴的にし、適合性を高め、価値を認めてくれる顧客に向けて的確に戦略を伝えることに他ならない。

・リーダーシップの役割を再認識する
明確な戦略を考案したり、再構築する仕事は、組織を挙げて取り組むべき課題であり、その成否のカギを握るのはリーダーシップである。組織内に戦略の選択やトレードオフを拒む反対勢力が多数いる状況にあっては、これらに対抗し、戦略を正しい方向へと導く明確かつ知的なフレームワークが必要である。
ゼネラルマネジャーの仕事は個々の職能を管理する以上のものであり、その核となるのは戦略である。すなわち自社ならではのポジションを定義し、これを伝え、トレードオフを生み出し、活動間に適合性を作り出す。
リーダーの仕事の一つは組織のメンバーに戦略について教えることであり、「No」ということである。


4. 感想・まとめ
#5では第2章の『戦略とは何か』の後半の「戦略はトレードオフで持続する」以降についてまとめました。トレードオフ、適合性、持続性と戦略の遂行にあたって重要なポイントについてまとまっており有意義でした。
#6では第3章の『情報技術がもたらす競争優位』について確認していきます。