Ch_5 競争戦略から企業戦略へ(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #10

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#9では第5章の『競争戦略から企業戦略へ』の前編として、「企業戦略が満たすべき三つの基準」までの内容を取り扱いました。

Ch_5 競争戦略から企業戦略へ(前編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#10では第5章の『競争戦略から企業戦略へ』の後編として、「企業戦略の四つのコンセプト」以降の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 企業戦略の四つのコンセプト
2. どのコンセプトを選択すべきか
3. 目指す方向を定める
4. 感想・まとめ

 

1. 企業戦略の四つのコンセプト(簡単な要約)
#9で取り扱った、魅力度基準、参入コスト基準、補強関係基準の三つの基準は、多角化を成功させる上で、いかなる企業戦略においても満たされなければならないものである。一方で、この基準を満たすことは難しく、多角化の試みの多くが失敗に終わっている。多角化の指針となる企業戦略に具体的なコンセプトが欠けていたり、三つの基準を満たしていないコンセプトを追求している企業が少なくない。
企業戦略は下記の四つのコンセプトに基づいて実施されていると考えることができる。

ポートフォリオマネジメント
-> 企業戦略における四つのコンセプトの中で最も広く用いられているのがポートフォリオマネジメントであり、このコンセプトは主に買収による多角化によって成り立っている。企業は健全で魅力的な事業を買収し、ポートフォリオマネジメントに長けた経営者は各事業単位をその将来性に応じて分類する。
-> ほとんどの国でポートフォリオマネジメントが有効な企業戦略であった時代は終わっており、資本市場が発展を遂げる中、まともな経営陣を擁する魅力的な企業は誰の目にも止まるようになり、買収プレミアムを物ともせず投資資金が群がるようになった。一方、開発途上国は大企業が少なく、資本市場が未発達でありマネジメント能力も希少であるため、ポートフォリオマネジメント戦略が有効である可能性がある。

リストラクチャリング
-> リストラクチャリングを企業戦略のコンセプトとして採用する場合、各事業単位の再構築を推し進めるという積極的な役割を担うことになる。新規事業は必ずしも既存事業との関連がなくても構わないが、事業にポテンシャルがあるかどうかである。
-> 適切に実施されるならリストラクチャリングは魅力度基準、参入コスト基準、補強関係基準の三つの判定基準をクリアする有効なコンセプトであると言えるが、事業が成功して好転し始めると事業単位を手放すことが惜しくなり、最終的にはポートフォリオマネジメントと同様になってしまうことがあるので注意が必要である。

・スキルの移転
-> スキルの移転は事業単位間の内部リレーションシップの活用に依拠するコンセプトである。スキルの移転を採用する場合は「シナジー」という概念について考える必要があり、バリューチェーンと絡めて考えると良い。
-> スキルの移転によって競争優位が得られるのは、事業単位間の類似性において、1.各事業単位の活動が類似している場合、スキルの移転が競争優位にとって重要な活動に関係している場合、3.移転されるスキルが受け取る事業単位にとって競争優位の源泉となる場合、の三つの条件が満たされる場合である。

・活動の共有
-> 活動の共有では、バリューチェーンにおける活動を複数の事業部間で共有することに基づく。一方で活動の共有が必ずしも競争優位に結実するわけではないので注意が必要である。

ここで、ポートフォリオマネジメントとリストラクチャリングの二つは各事業単位間の連携を必要としないが、スキルの移転と活動の共有は各事業単位の連携を前提としている。
正常な環境の下であれば、これら四つのコンセプトのうちどれを用いても成功できるが、今日ではそれぞれの有効性には差が生じているので注意が必要である。


2. どのコンセプトを選択すべきか(簡単な要約)
企業戦略のコンセプトが違えば株主価値を創造する手法も違ってくる。四つのコンセプトのどれを選んでも成功することが可能だが、そのためには下記の要件をクリアしなければならない。

・企業の役割と目標を具体的に定義する
・選択したコンセプトの遂行に必要なスキルを揃える
・企業戦略と適合する形で多角化された事業を管理できる組織体制を構築する
・自社にふさわしい資本市場の状況を見つける

どのような企業戦略を用いるのかはその企業の歴史にある程度左右される。また、企業戦略の選択は一発勝負ではなく、将来性のあるビジョンに基づいていなければならない。長期的に望ましいコンセプトを選び、その出発点から現実的な歩みで前進していくべきである。


3. 目指す方向を定める(簡単な要約)
株主価値を創造する上で、企業の方向性を打ち出すことは賢い方法といえる。しかるべき方向性を設定することで、各事業単位の努力をまとめ上げ、事業単位間の協力をより促すだけでなく、これを新規参入すべき事業を選択する時の指標にすることもできる。
競争戦略から企業戦略へという移行は企業にすれば冒険に見えるが、企業戦略が失敗する背景にはほとんどのコングロマリットが「自分たちはどのように付加価値を創造しているのか」という視点を失ってしまっている現実がある。
競争優位を実質的に強化する企業戦略こそ、乗っ取り屋への最善の備えとなる。多角化を成功させる三つの判断基準に十分注意を払い、覚悟を持って企業戦略における四つのコンセプトのいずれかを選択することで、多角化は目に見えて改善されると思われる。

 

4. 感想・まとめ
#10では第5章の『競争戦略から企業戦略へ』の後編として、「企業戦略の四つのコンセプト」以降の内容についてまとめました。どのコンセプトを選択すべきかについてはより詳細な記述があったのですが、具体的には臨機応変に考える方が良さそうだったので飛ばしました(詳しく気になる方は本を参照ください)。
#11では第6章の『フィランソロピーの新しい課題』について確認していきます。