Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9

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本の選定などの経緯は#1にまとめました。

#1〜#6では第Ⅰ部の内容として第1章〜第3章の内容までを取り扱いました。

#7からは第Ⅱ部に入り、#7では第4章の「価値創造 ー 戦略の核」、#8で第5章の「トレードオフ ー 戦略のかすがい」についてまとめました。

#9では第6章の「適合性 ー 戦略の増幅装置」について取り扱います。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. 適合性とは何か?
3. 適合性のしくみ
4. 適合性とコアコンピタンス
5. 適合性は戦略の持続性を高める
6. 感想・まとめ


1. 冒頭部
第6章では優れた戦略の第四条件として、ポーターが「適合性(フィット)」と呼ぶものを取り上げる。適合性はバリューチェーン内の活動をどのように連携させるかについて関わる問題である。よくある誤解として、競争での成功がただ一つのコアコンピタンスによって説明できるというのがあるが、戦略の優位性はたった一つの選択によって成り立つというものではない。
優れた戦略はいくつかの独立した選択から生まれることはまずなく、優れた戦略は多くの物事のつながりに相互依存的な選択を行うことによって成り立っている。

 

2. 適合性とは何か?
第4章では企業が自らの価値提案とバリューチェーンについて行う一連の選択が競争優位をもたらすとされ、第5章ではこうした選択がトレードオフを伴う時、戦略は価値を増すとともに模倣しにくくなるとされていた。第6章で取り扱う適合性は、これらによって確立された競争優位性の効果を高める「増幅装置」と考えると良い。適合性は、コストを下げる、または顧客価値を高めることによって、戦略の競争優位を増幅させる。また適合性は模倣に対する障壁を引き上げることで、戦略の持続性を高める。
適合性は競争において、思った以上に大きく、複雑な役割を果たす。例えばイケアの例においてフラットパックは独立した選択としてイケアの低価格というポジショニングを支えており、また都市周辺部は地価が安いため郊外の立地もコストを抑えている。ここで注意すると良いのが、この二つは独立した選択でありながら相互依存の関係にあるということである。車で行きやすい場所に店があり、購入品を車に積みやすいことが、フラットパックの価値を増幅している。
このように適合性とは、ある活動の価値やコストが、ほかの活動がどのように行われるかによって影響を受けることを言う。

 

3. 適合性のしくみ
適合性にはいくつかの形態があるが、現実にははっきり区別できないことも多い。ポーターがあげる三種類の適合性は、それぞれ少しずつ違う方法で作用して、競争優位に影響を及ぼす。以下に三種類の適合性をまとめる。

1) 基本的な一貫性(第一の適合性)
-> 一つ一つの活動が企業の価値提案と連携して、価値提案の主要なテーマに少しずつ貢献する状態をいう。活動が一貫性に欠けると互いの効果が打ち消し合うので注意が必要である。例えば、営業部門と製造部門の連携不足に悩む企業は珍しくない。数字に表すと一貫性は1+1+1=3のことであり、3未満には決してならない。だが、一貫性に欠けるとき、全体は部分の総和に満たない。

2) 活動が互いを補完または補強する(第二の適合性)
-> 一つ一つの活動の価値が、他の活動によって高められる真の相乗効果である。ネットフリックスの例だと映画の評価システムと膨大な品揃えは補完的な関係にある。レビューは会員の映画の嗜好を広げ、豊富な品揃えの価値をさらに高めている。

3) 代替(第三の適合性)
-> ある活動を行うことで、他の活動を行わずに済む場合に生じる。代替には企業のバリューチェーンを最適化するはたらきがある。

三つの適合性はどれもよく見られ、重なり合うことも多い。一般に優れた戦略を持つ企業では、適合性が随所に見られ複雑である。


4. 適合性とコアコンピタンス
ポーターのいう適合性は、「競争優位はどこから生まれるのか?」という、戦略に関する根元的な疑問に新しい手がかりを与えてくれる。競争優位を模索する企業は、最重要資源(Critical Resource)、中核的な組織能力、主要成功要因(KSF; Key Success Factor)など、様々な名前で呼ばれるものに注目することが多い。これらの用語は厳密には異なるが、経営者は大抵同じ意味で使い、コアコンピタンスという包括的な用語でひとくくりにしている。
戦略でありがちな間違いは、業界内の全企業が全く同じコアコンピタンスを手に入れようとすることである。競争で重要ななのは一握りの要因だと思い込み、その重要なものを我先に手に入れようとしのぎを削る。
適合性とは、どの一部分よりも全体が優先され、一握りの要因が別々にではなく、多くの要因が組み合わさって価値を生み出すということだ。適合性をうまく利用している企業の強みについて分析するにあたっては、一つや二つのコアコンピタンスを探っただけでは答えは見つからない。答えは企業が行う全ての価値創造活動の適合性にあり、一連の選択を同時に行うことでそれは成り立つ。相互に依存する活動が織りなすシステム全体が良い業績を生み出しており、決して一つや二つの強力な部分ではない。
適合性とは、一つ一つの活動、活動に必要なスキル、能力、資源がシステム全体とも戦略とも切り離せない状態をいう。

5. 適合性は戦略の持続性を高める
適合性が競争優位を強化するのは、活動の価値を高めたりコストを引き下げたりするからだけではない。適合性は競争優位の持続性を高める効果がある。トレードオフの存在が成功した戦略を競合他社に模倣されにくくするが、適合性は模倣をさらに難しくする。模倣の恩恵を受けるには、相互依存的な活動が織りなす網の目全体を模倣する必要があるからだ。
ポーターは適合性がいくつかの意味で模倣への障壁になるという。第一に、何を模倣すべきかわからないということだ。企業の内部で行われていることを部外者が理解するのはとても難しい。
第二にたとえ重要な相互関係を理解できたとしても、全てを模倣するのは組織に大きな負担がかかり、至難の技だということだ。製品の機能や営業部隊の手法を取り入れるのは簡単でも、活動システム全体を再現するとなると一筋縄ではいかない。多数の作業グループや部署、職能の全体にわたって意思決定や行動をすり合わせねばならない。適合性は模倣を企てる企業の行く手にいくつもの障害をおくことで戦略を模倣されにくくする。
適合性はどんなに意志の強い新規参入者からも競争優位を守る方法を教えてくれる。企業は独自性を目指せば目指すほど模倣に動じなくなり、優位を長期的に持続できるようになる。優れた戦略は全ての部分が継ぎ目なく組み合わさる複雑なシステムのようなもので、企業の行う活動の一つ一つが他の活動の価値を増幅させる。これが競争優位そのものやその持続性を強化する。適合性は、「活動間の結びつきを強め、最も緊密に結びついたバリューチェーンを生み出すことで、模倣者を締め出す」ものである。


6. 感想・まとめ
#9では第6章の適合性について取り扱いました。強みを一つ一つの要素ではなく要素の相互作用によって生まれるシステム全体と捉えることで、戦略の持続性を高めるというのが非常に面白い考え方だと思いました。トレードオフが伴う意思決定だけでもリスクが伴いますが、その組み合わせまで考えると再現性が一気に落ちるというのは非常に納得でした。
#10では第7章の継続性について取り扱っていきます。