Ch_7 競争優位のフィランソロピー【後編】|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #13

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#12では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の前編として、「競争環境の視点から見たフィランソロピー」までの内容を取り扱いました。

Ch_7 競争優位のフィランソロピー【前編】|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #12 - lib-arts’s diary

#13では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の後編として、「競合他社のただ乗りをどう考えるか」以降の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 競合他社のただ乗りをどう考えるか
2. 価値創造のフィランソロピー四原則
3. 競争優位のフィランソロピーに向けて
4. 社会と企業にとっての価値を最大化する
5. 感想・まとめ

 

1. 競合他社のただ乗りをどう考えるか(簡単な要約)
フィランソロピーによって競争コンテキストが改善されると、直接の競合他社を含めそのクラスターや地域に属する他の企業もその恩恵を受ける場合が多い。この際に「ただ乗りによって競争コンテキストを重視するフィランソロピー戦略的価値は打ち消されてしまうのでは」という疑問が生じるが、答えは「ノー」である。
フィランソロピーを実施する企業において、その競争上のメリットはただ乗りされてもなお大きく、以下に五つの理由をまとめる。

1) 競争コンテキストの改善によってメリットを享受するのは主にその場所に拠点を置く企業であるため、競争コンテキストの改善を行った企業は競合他社全般に対して、やはり優位を得ることになる。
2) フィランソロピーは集団活動に向いているため、競合他社も含めクラスターに属する他企業とコンテキストを分かち合えればただ乗り問題は大きく軽減される可能性がある。
3) 大規模なフィランソロピーを最も実践しやすい立場にいるのは業界のリーダー企業であるので、競争コンテキストの改善の大半のメリットを享受しやすい。
4) 競争コンテキストを改善することで得られる優位全てが競合他社にとって等しく同じ価値を持っているわけではなく、フィランソロピーが企業独自の戦略と緊密に調和していればいるほど、メリットがその企業に有利に配分されるようになる。
5) ある地域で最初にフィランソロピーに着手した企業はそれによって優れた評判やリレーションシップが築かれるため、多くの場合大きなメリットにつながる。

上記のように、フィランソロピーのメリットが競合他社にも共有されてしまう場合にも、やはりその活動を先行させた企業は優位に立つことができる。


2. 価値創造のフィランソロピー四原則(簡単な要約)
フィランソロピーと競争コンテキストの関係を理解すれば、寄付を集中させるべき「対象」を確認することができる。そしてフィランソロピーがどのように価値を生み出すのかを理解すれば、寄付を通じて最大の社会的・経済的インパクトを実現する「方法」も浮かび上がってくる。対象と方法は相互に強化し合う関係にある。

1) 最善の寄付対象を選択する
2) 他の寄付者にシグナルを送る
3) 寄付対象者のパフォーマンスを改善する
4) その分野における知識や慣行を進歩させる

6章で、上記のような慈善財団が社会的価値を生み出す四つの方法について取り扱ったが、これらの取り組みは相互にそれぞれの基礎をなしており、1)から4)へと段階を踏んでいくに連れて、ますます大きな価値が創造されるようになる。

3. 競争優位のフィランソロピーに向けて(簡単な要約)
企業が正しい方法で正しい社会的目標を支援すれば、好循環が形成される。競争コンテキストのうち、自らの業界や戦略にとって最も重要な条件に集中していれば、より大きな価値を生み出してくれる寄付対象者を支援するにふさわしい自社の能力を活用することができる。自社の活動分野において、フィランソロピーが生み出す価値を高めていけば、競争コンテキストも大きく改善される。そうなれば、企業自体も企業が支援する社会的目標も重要なメリットを享受することができる。
より「戦略的」に寄付を行うという目標を掲げる企業は確かに増えているが、長期的に見た際に競争力の改善につながる分野と寄付を結びつけている企業はほとんどない。自社の長所を生かして、フィランソロピーを行っている企業は少なく、むしろ社会的責任や社会的配慮を重んじる企業というイメージを培うために自社がどれだけの資金と努力を注いでいるかを宣伝することに気を取られている場合が多い。
フィランソロピーを進めていくにいくにあたっては、下記の五つの段階を経ることが重要である。

1) 重要な地理的拠点における自社の競争コンテキストを検証する
2) 現在のフィランソロピーポートフォリオを見直し、新たなパラダイムに適合するかどうかをチェックする
3) 価値創造の四原則に照らして、現在もしくは将来想定しうる寄付行動を評価する
4) クラスター内の他企業や他のパートナーとの集団的な活動のチャンスを探る
5) 成果を厳密に追跡・評価する


4. 社会と企業にとっての価値を最大化する(簡単な要約)
競争コンテキストの改善と社会の改善に取り組むことに本質的な矛盾は何ら存在せず、実際にはこれまで見てきたようにフィランソロピーが競争コンテキストと密接に結びつけばつくほど、その企業の社会貢献度もますます高まる。
創出する価値を最大化するために体系的な取り組みを目指すなら、競争コンテキスト重視のフィランソロピーは企業に新たな競争ツールのパッケージを与えてくれる可能性がある。


5. 感想・まとめ
#13では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の後編として、「競合他社のただ乗りをどう考えるか」以降の内容について取り扱いました。競合他社のただ乗りに対する考察がなかなか視点として面白い印象を受けました。
#14では第8章の『戦略と社会問題(競争優位とCSR)』の内容について確認していきます。