Ch_8 戦略と社会問題(競争優位とCSR)【後編】|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #15

f:id:lib-arts:20191028154807p:plain

「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#14では第8章の『戦略と社会問題(競争優位とCSR)』の前編として、「CSRをめぐる四つの議論を検証する」までの内容を取り扱いました。

Ch_8 戦略と社会問題(競争優位とCSR)【前編】|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #14 - lib-arts’s diary

#15では第8章の『戦略と社会問題(競争優位とCSR)』の後編として、「事業とCSRを一体化する」以降の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 事業とCSRを一体化する
2. 戦略的CSRを推進する体制
3. CSRを超えて、企業と社会の一体化へ
4. 感想・まとめ

 

1. 事業とCSRを一体化する(簡単な要約)
CSRを推進するにはまず企業と社会の一般的な関係を基本に置きつつ、その上でCSRを戦略や事業と関連付ける必要がある。企業と社会は互いに必要とし合っているという一般論はやはり基本となる真理である。
企業が成功するためには社会が健全でなくてはならないし、社会が健全であるためには企業の成功が欠かせない。政府やNGO(非政府組織)、その他の市民社会の構成員たちが健全な社会を目指す戦いの中で企業の生産性の足を引っ張るようなことをすれば、部分的にうまくいっても全体的には機能不全に陥る。企業と地位ratio記者会の競争力が低下し、賃金が上がらず、雇用が失われ、税金や寄付の源である富も失われるからである。
企業のリーダーも市民団体のリーダーも互いが衝突する部分にばかり意識を向け、利害が一致する接点への関心が足りないと思われる。企業と社会が相互依存関係にある以上、いかなる意思決定も企業と社会の双方に恩恵をもたらすものでなくてはならない。
事業とCSRの一体化にあたっては下記を意識しながら進めていくと良い。

・企業と社会の接点を探す
-> 企業と社会の相互依存には二つの方向があり、一つは企業が日常の事業活動を通じて社会に及ぼす影響である「企業から社会への影響(インサイドアウト・リンケージ)」、もう一つは外侮の社会状況が企業に及ぼすプラスとマイナス両面の影響である「社会から企業への影響(アウトサイドイン・リンケージ)」である。
-> 全ての企業は長期的戦略を実現する能力に影響を及ぼすなんらかの競争環境におかれており、社会の状況は企業を取り巻く競争環境の重要な一部であることは理解しておくと良い。
-> 競争環境にはCSR活動の機会が存在し、例えば望ましい人材を雇用できるかどうかはいくつかの社会的要因に依存するが、企業はこれに影響を及ぼすことができる。

・対応すべき社会問題を選ぶ
-> どんな企業も全ての社会問題を解決することはできないし、全ての社会的コストを引き受けることもできない。従って、CSR活動にあたっては、自社の事業と関連性が高い社会問題を選択する必要がある。それ以外の問題はそれに取り組むのに適したポジションにいる他の業界の企業、NGO、政府機関などに任せれば良い。
-> CSRのテーマを選択する際の指針は、「そのテーマには価値があるか」ではなく、「そのテーマは共通の価値を生み出す機会をもたらすか」でなくてはならない。

・戦略的CSRを企画する
-> CSRは社会にとっての価値を同時に実現し、地域社会の期待を上回るものでなければならない。「迷惑を減らす」というレベルに留まることなく、「社会を良くすることで戦略を強化する」というレベルを目指すべきである。
-> 戦略的CSRとは「善良な企業市民」や「バリューチェーンの悪影響の緩和」のレベルを超えて、社会と企業の両方に独自性のあるメリットをもたらす活動に集中することを意味する。ここにこそ「共通の価値(シェアードバリュー)」を実現するチャンスが眠っている。

・「企業から社会へ」と「社会から企業へ」の一体化
-> バリューチェーンイノベーションをもたらすことも、競争力を制約している社会環境を変えることも。企業と社会の両方に価値をもたらす有力な手段であるが、両方を同時に行うことができればCSRの効果はさらに大きくなる。

・バリュープロポジションにふさわしい競争環境を整える
-> いかなる戦略もその核心には、自社独自のバリュープロポジション(提供価値)が存在する。全ての企業がバリュープロポジションの中心に社会問題を位置付けられる訳ではないが
なんらかの社会的次元を加味するだけでもポジショニングに新たな方向性が生まれて競争力が増す。

 

2. 戦略的CSRを推進する体制(簡単な要約)
企業と社会のニーズを一体化するには、正しい意図と強いリーダーシップだけでは不十分で、それにふさわしい組織構造やレポーティングシステム、然るべきインセンティブが必要である。ラインマネージャーの仕事内容に「自社業務と関連する競争環境に大きな影響を及ぼす社会問題を発見する」ドタキャン とを含めている企業は少ない。
ステークホルダーの満足度を評価指標とする現在のアプローチは、あまり良い効果をもたらしてはいない。評価指標はCSRが社会に与えるインパクトでなくてはならず、そのためにはラインマネジャーたちは外(競争環境)から内(自社組織)への影響についてもっと知るべきであり、CSR担当者はバリューチェーン内のあらゆる活動をきめ細かく理解する必要がある。
戦略とは選択であり、CSRもまた例外ではなく、対象を絞らなくてはならない。企業の前には無数の社会問題があるが、自社が取り組むことによって社会を変革し、同時に競争優位を獲得できる問題はごく一部である。対象を正しく選び、企業戦略と調和がとれたCSR活動を積極的に展開する企業は、そうではない企業との差を次第に広げていくことができるであろうと思われる。


3. CSRを超えて、企業と社会の一体化へ(簡単な要約)
企業は雇用の創出、投資、購買、日々の業務を通じて社会に大きな恩恵をもたらす。企業が社会や地域に対してなしうる最大の貢献は、経済的繁栄への貢献に他ならない。政府もNGOも、この基本的な事実を忘れがちである。
世界中の全ての問題が企業の責任であるはずがないし、企業が全てを解決できるほどの資源を持っているはずもない。一方で企業は、自社が最も貢献できる社会問題の改善が競争優位につながるような社会問題を選び取ることができる。そして共通の価値を創出することによってその社会問題に立ち向かうなら、政府や民間からの補助金がなくても自立できる解決策が生まれるかもしれない。
優れた企業がその豊富な経営資源、能力、マネジメント能力を、十分理解も利害関係もある社会問題の解決のために振り向けるならば、他のいかなる機関、いかなる慈善団体よりも大きなメリットを社会にもたらすことができると思われる。


4. 感想・まとめ
#15では第8章の『戦略と社会問題(競争優位とCSR)』の後編として、「事業とCSRを一体化する」以降の内容について取り扱いました。CSRと事業の一致については現実問題はなかなか実現が難しい印象を受けましたが、考え方としては面白いなと思いました。
#16では第9章の『新任CEOを驚かせる7つの事実』の前編として、「CEOは社内で何が起きているか把握できない」までの内容について確認していきます。