Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8

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本の選定などの経緯は#1にまとめました。

#1〜#6では第Ⅰ部の内容として第1章〜第3章の内容までを取り扱いました。

#7からは第Ⅱ部に入り、#7では第4章の「価値創造 ー 戦略の核」についてまとめました。

#8では第5章の「トレードオフ ー 戦略のかすがい」について取り扱います。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. トレードオフとは何か?
3. なぜトレードオフが生じるのか?
4. 本物のトレードオフは模倣者を寄せつけない
5. 何をやらないかを選択する
6. 感想・まとめ

 

1. 冒頭部(簡単な要約)
第4章では戦略の第一、第二の条件を説明した。重要な教訓を一つあげるとすれば、戦略には選択が必要不可欠ということだ。競争優位を得るためには、競合他社と異なる選択をすること、すなわちトレードオフを行うことが欠かせない。これがポーターによる優れた戦略の第三の条件であり、トレードオフには競争優位を創出、持続させる働きがある。
トレードオフが必要だという考えも、二つの意味で常識的な考えに反する。一つ目の誤解はトレードオフそのものに対する誤解であり、経営者は一方を犠牲してもう一方を選択すること、つまりトレードオフは弱さの表れと考えがちである。
二つ目の誤解は、昨今の熾烈な過当競争(ハイパーコンペティション)の世界では、競争優位を持続させることなどできないと考えられていることである。あらゆるものが模倣可能であるため、競争で望めるのはせいぜい一時的な優位だという考え方だが、これはおなじみの最高を目指す競争である。
競争優位を何十年も持続させることは可能であり、サウスウエスト航空、イケア、ウォルマート、アップルなどはその例である。こうした多種多様の企業の戦略に共通するものこそトレードオフである。


2. トレードオフとは何か?(簡単な要約)
トレードオフは戦略における道路の分岐点のようなもので、どちらか一方の道を行けば同時にもう一方を行くことはできない。トレードオフが存在するところでは、製品や活動はただ異なるだけではなく、両立し得ない。一方を選択すれば他方は必ず排除されるか損なわれる。競争は経済的なトレードオフに満ちており、戦略はこれらを元に成り立っている。
例えば台湾の半導体製造会社のTSMCは自社製チップの設計は手がけないという選択をすることによって、顧客となる自前の製造設備を持つ余裕のない中小企業が設計の盗用の不安なく製造が行えるようになった。このことにより顧客との利益相反を排除することができた。このように製造に特化することで、低い相対的コストを実現することができた。
堅牢な戦略には一般に複数のトレードオフが組み込まれている。特に優れた戦略はバリューチェーンのほとんど全ての段階にトレードオフが存在する。スウェーデンの家具インテリアの巨大企業イケアがその例である。製品を絞り込み多様性を排除し、フラットパック(家で組み立てる方式)によって輸送コストや配送にかかる時間を短縮できるようにすることでイケアは独自のバリューチェーンを作り出している。
こうしたコストや価値の差の累積的な効果はたった一つのトレードオフに端を発している。特徴ある価値を創出する方法についてイケアが行なった選択の多くはライバル企業の選択と異なるだけでなく、両立し得ない。つまり、ライバル企業はイケアの活動を模倣しようとすれば、顧客のために生み出している価値を妨げるか駄目にしてしまう。

 

3. なぜトレードオフが生じるのか?(簡単な要約)
トレードオフが生じる状況は色々とあるが、ポーターは特に下記の三つを強調している。

1) 製品の特性が両立しない場合
-> つまりあるニーズを最もよく満たす製品が他のニーズをあまりよく満たすことができない。例えばイケアの巨大な店舗は手っ取り早く買い物を済ませたい人にとっては良いものではない。

2) 活動そのものにトレードオフが生じる場合
-> ある種の価値を最もよく実現する活動の組み合わせは、別の価値を同じようによく実現することはない。例えば小ロットの特注品に合わせて設計された工場は、大量生産や規格品の製造には効率が悪い。

3) イメージや評判の不一致が生じる場合
-> 事業拡大熱に駆られた企業は、イメージの不一致に目が向かないことがある。こうしたイメージの不一致は良くても顧客を混乱させ、悪くすれば企業の信用と評判を損なう。

このようにトレードオフは様々な状況で生じ、競争につきまとう。トレードオフは選択の必要を生み出すことで、戦略を実現可能にする。


4. 本物のトレードオフは模倣者を寄せつけない(簡単な要約)
企業が成功すると、競合企業がよほどぼんやりしているのでもない限り、必ず模倣者が現れる。このとき、トレードオフが模倣者の前に立ちはだかる。トレードオフはその性質上、戦略を持続可能にする選択である。なぜならトレードオフは対抗するのも無力化するのも難しいからである。トレードオフが存在するとき、模倣者は経済的ペナルティを被る。
トレードオフは二兎を追おうとする企業に苦境を強いる。他社を模倣するにはリポジショニングという方法もある。既存のポジションが有効でなくなったとき、他社を真似てポジショニングを変更する手だ。だがこれが難しいのはいうまでもなく。新たに評判を築き、それを支える新たな活動やスキルを構築するだけでなく、古いものを排除しなくてはならない。


5. 何をやらないかを選択する(簡単な要約)
トレードオフは「何をやらないか」の選択を「何をやるか」の選択と同じくらい重要なものにする。戦略の策定に当たっては、どのニーズに対応し、どの製品を提供することが重要な鍵を握るが、同時にどのニーズに対応しないかなどやらないことの決定もこのとき重要である。さらに難しいのはここからで、「やらないこと」についての決定を守り抜かねばならない。
企業は顧客基盤と売上の拡大を図ろうとして、時とともにますます多くの機能や特徴を製品に詰め込む傾向にある。「多いことは良いことだ」の哲学に抗うのは難しい。だが皮肉なことに、トレードオフを行い、あらゆる顧客のあらゆるニーズに対応しないことを意図的に選択しない限り、どんな顧客のどんなニーズにもうまく対応することはできない。
戦略とは競争においてトレードオフを行うことであり、戦略の本質とは何をやらないかを選択することである。


6. 感想・まとめ
#8では第5章のトレードオフについて見てきました。個人的な戦略のイメージとしては今回のトレードオフが直感的な感覚に近いものだったので、興味深く見ることができました。
トレードオフ的な考え方は鮮やかな戦略の印象が強いですが、時と場合によっては周囲の説得に時間がかかることと、策を弄しすぎると策士策に溺れる状況にもなりかねないので、ここぞという重要なポイントに絞って適用していくのが重要な気がします。
#9では第6章の適合性について見ていきます。