Ch_1 五つの競争要因(前編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #2

f:id:lib-arts:20191028154807p:plain

以前読んだポーターの競争戦略についての本がわかりやすく非常に参考になったので、新シリーズでは「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていければと思います。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#1ではIntroductionとして「新版のための序論」の内容について確認しました。

Introduction_新版のための序論|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #1 - lib-arts’s diary

#2では第1章の『五つの競争要因』の前編として、「競争要因と誤解されやすい要素」までの内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 競争はどこで起こっているか
2. 競争を左右する「五つの競争要因」
3. 競争要因と誤解されやすい要素
4. 感想・まとめ


1. 競争はどこで起こっているか(簡単な要約)
戦略担当者の仕事は、突き詰めれば競争を理解し競争に対処することである。その際、競争を狭く定義して、今直接対峙している企業との間で起こっているものだけを競争と見なす過ちを犯しがちのため、注意が必要である。
利益をめぐる競争は、「業界内のライバル企業」という範囲を越えて、「顧客」、「サプライヤー」、「将来の新規参入者」、「代替品」まで広がる。これら「五つの競争要因(five force)」によって拡張された競合関係によって、業界の構造と競争の性質が決まる。
五つの競争要因が激しく作用する業界(航空、繊維、ホテルなど)では、投資に見合う収益を上げられる企業は稀である。反対に、競争がさほど激しくない業界(ソフトウェア、清涼飲料など)であれば、多くの企業が儲けを手にすることができる。つまり、業界の基本構造が競争と収益性を決め、業界が製造業かサービス業か、新興業界か成熟業界か、ハイテクかローテクか、規制が厳しいか緩やかかということとは関係がない。中長期的な収益性を決定づけるのは業界構造であり、その具体的な表れが五つの競争要因である。
戦略担当者は業界における自社のポジションだけでなく、業界構造が健全に保たれているかということも競争上の関心事とするべきである。戦略上有効なポジションを確保するためにも業界構造の理解は欠かせない。

 

2. 競争を左右する「五つの競争要因」(簡単な要約)
五つの競争要因それぞれの影響力は業界によって異なる。たとえば、商業用航空機市場では、市場を二分する航空機メーカーであるエアバスボーイングのつばぜり合い、及び航空機を大量発注する航空会社の交渉力の二つの要因が優勢で、新規参入者の脅威、代替品の脅威、サプライヤーの交渉力は比較的穏やかである。他にも映画館業界では、映画に代わる娯楽の増加や、不可欠なインプット(投入資源)である映画を供給する映画製作会社や配給会社の交渉力が無視できない。
最も強力な競争要因(複数の場合もある)が、業界の収益性を決定し、戦略の立案において何より重要なものとなる。だがそれが何かは常に一目瞭然とは限らない。
それぞれの業界には各競争要因の影響力を左右する一連の経済特性や技術特性があり、それが業界構造を形作っている。以下それぞれの競争要因についてまとめる。

・新規参入者の脅威(競争要因1)
-> 新規参入者は新たな生産能力を業界に持ち込み、市場シェアを奪取しようとするため、既存企業にとっては価格やコスト、迎え撃つために必要な投資に圧力がかかる。とりわけ新規参入者が他の市場から多角化を図っている場合、確立された能力(capability)やキャッシュフローをてこに競争を仕掛けてくる場合には影響が大きい。

サプライヤーの交渉力(競争要因2)
-> 交渉力の大きいサプライヤーは、他社よりも高い価格を課す、サービスの質を制限する、業界内の各社にコストを転嫁するするなどして、より大きな利益を獲得できる。コストの上昇を価格に転嫁できない業界の場合、交渉力の大きいサプライヤー(労働力の提供者を含む)の存在によって収益性が低下する可能性がある。

・買い手の交渉力(競争要因3)
-> 有力な買い手は有力なサプライヤーとは逆に、値下げを迫り、品質やサービスの向上を求め(コストが上昇する)、供給側の企業を競わせる事で、業界全体の収益性を押し下げ、自らの収益性を高めることができる。

・代替品の脅威(競争要因4)
-> 代替品とは、ある業界の製品やサービスと同等もしくは類似の機能を、異なる形で果たすもののことである。代替品の脅威が大きいと、業界の収益性が低下する。代替品や代替サービスが現れると、価格に天井が生じ、業界の潜在利益は抑え込まれる。

・既存企業間の競合(競争要因5)
-> 企業間の競争の多くは、価格競争、新製品の投入、広告キャンペーン、サービスの改善など、お馴染みの形で展開される。競争が過熱すると、その業界の収益性が制限される。競争によって業界の収益性がどれくらい抑え込まれるかは、第一に企業間競争の激しさの程度、第二にどのような面で競争が行われているかによって決まる。

 

3. 競争要因と誤解されやすい要素(簡単な要約)
五つの競争要因の強さによって規定される業界構造は、業界の長期的な収益性を決定付ける。なぜなら、その業界が生み出す経済価値の分配、すなわち業界内の企業がどれくらい利益を確保し、顧客やサプライヤーにどれくらい持ち去られるか、また代替品や新規参入者によってどれくらい利益を抑え込まれるかは業界構造に左右されるからである。
特にその業界が持つ目につきやすい属性を基本的な業界構造と取り違えるというよくある落とし穴にはまらないことが肝要である。その点を理解するにあたり下記の検討をしておくとよい。

・業界の成長率
-> 急成長を遂げている業界は常に魅力的であると思ってしまいがちだが、よくある誤解である。急成長によってサプライヤーの影響力が増す可能性もあるし、参入障壁が低ければ高成長ゆえに新規参入者を呼び込みやすいことにもなる。そのため、成長性に焦点を絞るのは悪しき戦略意思決定の大きな一因である。

・技術とイノベーション
-> 先端技術やイノベーションはそれだけで業界構造の魅力を高めるわけではなく、ありふれたローテク業界でも、買い手の価格感度が低い、スイッチングコストが高い、あるいは規模の経済のために参入障壁が高い場合には、ソフトウェア業界やインターネット業界などライバルの多い業界よりもよほど収益性が高いことがある。

・政府
-> 政府の介入は本来、業界の収益性にとってプラスにもマイナスにも作用しない。政府が競争に及ぼす影響を理解する正しい方法は、政府の政策が五つの競争要因にどのような影響を与えるかを把握することである。政府は様々なレベルで、様々な政策を通じて活動しており、個々の政策は様々な形で業界構造に影響を及ぼす。

・補完的な製品やサービス
-> 補完品とは、ある製品と一緒に利用される製品やサービスのことである。二つを組み合わせて使った方が、それぞれの製品単独のの価値を合計したよりも顧客が得られる便益が高まる場合、それは補完品と言える。例えばコンピュータのハードウェアとソフトウェアは一緒に使ってこそ価値があるが、別々では無意味である。補完品は業界内の競争を抑制することもあれば、激化させることもある。補完品を見極めることも、競争を分析する作業の一部である。


4. 感想・まとめ
#2では第1章の『5つの競争要因』の前半として「競争要因と誤解されやすい要素」までについてまとめました。ポーターの研究の基本である、「5つの競争要因」を改めて把握する機会になり、非常に有意義でした。
#3では第1章の『5つの競争要因』の後半として、「業界構造の変化」以降について確認していきます。