Ch_3 競争優位 ー バリューチェーンと損益計算書_前編|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #5

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本の選定などの経緯は#1にまとめました。

#1では「はじめに」で記述されていた、本の概要について、#2では第1章の内容として「競争 ー 正しい考え方」についてまとめました。

#3、#4では第2章の内容として「五つの競争要因 ー 利益をめぐる競争」についてまとめました。

#5、#6では第3章の内容として「競争優位 ー バリューチェーン損益計算書_前編」を取り扱います。
#5では冒頭部〜経済の基本原理について取り扱います。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. 経済の基本原理
3. 感想・まとめ


1. 冒頭部(簡単な要約)
競争優位はポーターと非常に関わりの深い言葉だが、ポーターが意図した意味で使われていることは少ない。一般的には組織が得意だと自負することを意味し、経営者がライバル企業に打ち勝つために使う武器という意味が暗にこめられて使われることが多い。
上記は肝心な点でずれており、ポーターのいう競争優位とはライバル企業を下すことではなく、卓越した価値を生み出すことと関わるものである。競争優位には具体的で明確な意味があり、真の競争優位を持つ企業は、競合他社に比べて低いコストで事業を運営しているか高い価格を課しているかもしくはその両方である。他社を凌ぐ業績をあげるにはこうするしかなく、戦略を意義のあるものにしたいなら、財務業績と直接関係づけなくてはならない。そうでない戦略はただの空論でしかない。

 

2. 経済の基本原理(簡単な要約)
競争優位は相対的な概念であり、他を卓越した業績に関わるものである。競合優位とそれに必要な卓越性を見極めるにあたっては、同業他社、つまり似た様な競争環境に置かれているか、五つの競争要因の構成が似ている競合他社との比較で、収益を評価しなくてはならない。
この時、業績は事業ごとに測定して初めて意味を持つ。なぜなら競争要因が作用するのはそれぞれの事業においてだからである。ポーターのいう戦略は事業における「競争戦略」を指し、企業全体をスコープとする企業戦略(複数の事業を有する多角経営企業ビジネスの進め方)とは区別せねばならない。
競争優位がある企業は、業界平均を上回る収益率を持続しているはずであり、つまり競合他社と比べて相対的に高い価格を要求できるか、事業を相対的に低いコストで運営できるか、もしくはその両方である。収益性は価格とコストという二つの要素に分解するとよく、理由はそれぞれのドライバー(影響要因)がそれぞれ全く異なり、行動に与える影響も全く異なるからである。

 

・相対的価格
企業がプレミアム価格を持続できるのは、独自性と価値あるものを顧客に提供できる場合に限られる。買い手により多くの価値を提供できれば、経済学者のいう支払意思額(WTP; Willingness To Pay)を引き上げることができる。この仕組みのおかげで、企業は競合他社の製品・サービスに比べて相対的に高い価格を設定できる。
一般に企業向け市場では、顧客にとっての価値は定量化可能で、経済的観点から説明できる。一方消費者向けの場合は、消費者のWTPには感情的側面や目に見えない側面があることに注意しなければならない。
これらを踏まえた上で、割高な価格を要求できることが差別化の本質である。この差別化(differentiation)という言葉に対するポーターの意図は、割高な価格を要求できる能力のことである。
ここまでを踏まえた上で解釈すると、戦略の目標は卓越した収益性をあげることで、それを構成する二つの要素の一つが相対的価格であると把握しておくと良い。(二つ目の相対的コストは下記でまとめます)

 

・相対的コスト
卓越した収益性を構成する二つ目の要素は相対的コストだ。つまり何らかの方法で競合他社より低いコストで生産できるということだ。これを実現するには製品・サービスをより効率的に開発、生産、配送、販売、サポートする方法を見つけなくてはならない。
また、コスト優位をジズくさせるには、一つの部門や一つの技術だけでなく、社内の様々な部分の連携が必要であることが多い。コストリーダーシップに成功している企業は、コスト優位が多面的である。
ここで理解しておきたいのが、戦略に関わる選択が相対的価格または相対的コストを自社に有利に変えるために行うということだ。当然ながら、最後にものをいうのは価格とコストの差であるため、どんな戦略も相対的価格と相対的コストの関係を自社に有利に動かすものでなくてはならない。
コストが20%上昇するが35%価格を引き上げられる、コストを10%削減して5%値下げするなど色々と考え方があるが、選択による最終結果がプラスであれば、戦略は定義上競争優位を生み出したことになる。
この様に緻密かつ定量的な観点で考えることが大事であり、戦略に経済的根拠と事実の裏付けを与えられるからである。

 

・戦略に関わる選択は、相対的価格または相対的コストを自社に有利に変化させるために行う。
競争優位とは卓越した価値を創造することにあり、資源を有効に利用する方法である。


3. 感想・まとめ
2節でまとめた経済の基本原理のところが非常に興味深い内容で、少々長くなってしまいました。事業単位の戦略で見た際に、戦略の目的が「相対的価格または相対的コストを自社に有利に変えるために行い」、これによって競争優位を実現していくというのが非常に面白かったです。
#5では第3章の内容から「経済の基本原理」までまとめたので、#6では「バリューチェーン」からまとめていければと思います。