Ch_4 価値創造 ー 戦略の核|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #7

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本の選定などの経緯は#1にまとめました。

#1では「はじめに」で記述されていた、本の概要について、#2では第1章の内容として「競争 ー 正しい考え方」についてまとめました。

#3、#4では第2章の内容として「五つの競争要因 ー 利益をめぐる競争」についてまとめました。

#5、#6では第3章の内容として「競争優位 ー バリューチェーン損益計算書_前編」を取り扱いました。

#7では第4章の内容として、「価値創造 ー 戦略の核」について取り扱います。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. 第一の条件:特徴ある価値提案
3. 第二の条件:特別に調整されたバリューチェーン
4. 感想・まとめ


1. 冒頭部(簡単な要約)
戦略の第一条件の「特徴ある価値提案」はごくわかりやすいため、これさえクリアできれば優れた戦略を持てると考える経営者が多い。確かに顧客にどのような価値を提供するかを選択することが独自性を目指す競争の核にあるが、競争優位の定義が「企業が実行する活動の違いがもたらす相対的価格または相対的コストの違い」であることは思い出さねばならない。
つまり、自ら選択した価値提案ができるように、バリューチェーンを特別に調整する必要がある。特別に調整されたバリューチェーンがなくても効果的に実現できる価値提案は、持続可能な競争優位を生み出さない。この特別に調整されたバリューチェーンが第二の条件となる。
これら戦略の核となる要素の連携性や、業界構造や競争優位との関連性についてCh_4では取り扱う。戦略とは独自の価値の組み合わせを提供するために、他社とは異なる活動を意図的に選択することを言う。最高を目指す競争は戦略による競争ではない。

 

2. 第一の条件:特徴ある価値提案(簡単な要約)
価値提案は、戦略を作る要素のうち、社外の顧客つまりビジネスの需要サイドに目を向ける要素である。ポーターは価値提案を、次の三つの根本的な質問に対する答えと定義する。

・どの顧客を対象とするのか?
・どのニーズを満たすのか?
・相対的価格をどのように設定すれば、顧客にしかるべき価値を提供しつつ、しかるべき収益性を実現できるか?

価値提案はビジネスの需要サイド、バリューチェーンは社内の業務に焦点をあてる。このように戦略には、事業の需要サイドと供給サイドを一つにまとめるという、統合的な性質がある。

・どの顧客か?
どんな業界内にも、特徴ある顧客グループが複数存在し、価値提案はこうしたセグメントの一つまたは複数に、特に焦点をあてるものである。価値提案の中には顧客を出発点とし、ニーズと相対価格を導き出させる形で考えることができる。
顧客セグメンテーションはきちんとした業界分析では大抵行われ、対象とする顧客の選択は五つの競争要因に対してポジショニングを選択する際の重要な拠り所になる。
例えばウォルマートのかつての「主要戦略」である「誰もが無視するような小さなまちに、かなり大きな店を開く」などのような、業界で見過ごされていた顧客グループに焦点をあてる方法などもある。
重要なのは自らの選択した顧客セグメントに利益をあげながら対応する独自の方法を見つけることである。

・どのニーズ?
ニーズに基づく価値提案は、往々にして従来型のセグメンテーションにあてはまらない、多種多様な顧客を引きつける。
例えばエンタープライズ・レンタカーは、顧客は時と場合によって異なるニーズを満たすためにレンタカーを借りるというところに目をつけ、旅行者のニーズと地元の居住者を分けて考え、地元のレンタル客を中心にサービス提供を行った。

・相対価格をどうするか?
価値提案の中には、価格を主な要素とみなすものもある。業界の製品によってニーズを過剰に満たされている顧客に対し、不要なコストを削減することで、「必要にして十分な」ニーズを満たすことで顧客を獲得する方法が一つの方法である。逆に、プライベートジェットのように業界の一般的な製品・サービスではニーズが十分に満たされない顧客をターゲットに据える価値提案もある。
ニーズが過剰に満たされるケースに対応した例としてサウスウエスト航空、ニーズが十分に満たされない時への対応を行った例としてアラビンド眼科病院がある。


戦略の第一条件は、価値提案がライバル企業のものと異なることである。ポーターの定義で考えるなら同じ顧客に対し、同じニーズを同じ相対的価格で販売する企業に戦略はなく、最高を目指して競争しているだけである。

 

3. 第二の条件:特別に調整されたバリューチェーン(簡単な要約)
特徴ある価値提案はそれだけでは有効な戦略にならず、それを実現するのに最も適した一連の活動が、競合他社の活動と異なっていてこそ戦略として意味をなす。そうでなければあらゆる競合企業が同じニーズに対応できることになり、そのポジショニングにはなんの独自性も価値もなくなってしまう。
顧客のニーズを深く理解することは大切だがそれだけでは足りず、戦略と競争優位の核心は活動にあることを理解しておく必要がある。競合と同じ活動を異なるやり方で行うか、異なる活動を行うかを選択しなくてはならない。

ウォルマートバリューチェーン
ウォルマートは多くのディスカウント業者が大都市圏での店舗展開を選択するのと対照的に、最寄りの都市に行くのにも車で4時間ほどかかる小さな店に出店した。こういった土地柄では最寄りの都市と同じかそれより安い値段の店があれば、住民は地元で買い物をすると考え、顧客を獲得した。同時に二つ以上の小売業者を支えるほど大きくない市場を狙い、強力な参入障壁とした。
一番乗りをすることで競合他社の先手を打ち、ウォルマートの縄張りに参入する意欲をくじいた。そしてそのすきに、全米そして全世界の市場で毎日特売価格を提供する能力という、競争優位の源を打ち立てた。

・サウスウエストのバリューチェーン
サウスウエストを支えるのは奉仕の精神であり、これは既存航空会社からの圧力による法廷闘争などへの対応などを経て培われている。このことが原因で、労働組合を結成してはいるが、航空他社を苦しめてきた、会社への敵対的、ゼロサム的姿勢が起こらないようになっている。このことも、競争優位の強化と顧客満足の向上、相対的コストの引き下げになっている。
戦略的ポジショニングは、特に焦点を絞ったものは「ニッチ」の開拓と同じように皆されることもあり、ニッチは市場機会が小さいことを暗に示しているが、のちに大規模となることもある。サウスウエスト航空の場合、当初はニッチと思われたものが航空業界そのものに大変革をもたらしている。

・制約は不可欠である
価値提案の選択を通して企業の行動に制約を課すことが戦略には欠かせない。制約を課すことで、特定の価値を最もうまく実現できるように活動を調整する機会が生まれる。制約が存在しあらゆる顧客にあらゆるものを提供することをやめた時、初めて活動を調整する余地が生まれる。
活動を筆頭残らず全て独自仕様にする必要はないが、堅牢な戦略はかなりの調整を必要とする。競争優位を確立するには、特徴あるバリューチェーンを通じて特徴ある価値を提供しなければならない。


このように価値提案とバリューチェーンという、戦略上の選択の核をなす二つの側面は表裏一体をなしている。価値提案は社外の顧客に焦点をあて、バリューチェーンは社内の業務に焦点をあてる。そして戦略には需要サイドと供給サイドを一つにまとめるという、統合的な性質がある。


4. 感想・まとめ
Ch_4は価値創造に関する内容で非常に参考になる内容でした。競争優位を実現するにあたり、価値提案だけでは模倣のリスクも生じてしまうため、価値提案に適したバリューチェーンをどのように作るかというのも重要になるようです。
いかに優れた問題設定を行うかと、それを以下に解くかと考えればビジネス以外にも応用できそうな印象でした。
#7ではCh_4について取り扱ったので、続く#8では「トレードオフ」について取り扱います。