「計量時系列分析」読解メモ②(Ch_2 ARMA過程)|時系列分析の基礎を学ぶ #4

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連載経緯は#1に記しました。

#1では時系列データとはどのようなデータであるかやモデリングにおいて重要になる定常過程について、#2ではモデリングにおいてよく用いられるAR、MA、ARMAについてご紹介しました。

#3以降では時系列分析の入門本として評判の良い、「経済・ファイナンスデータの計量時系列分析」について取り扱います。

朝倉書店|経済・ファイナンスデータの 計量時系列分析

#3では1章の時系列分析の基礎概念について取り扱いました。

#4では引き続き2章のARMA過程について取り扱います。重要事項が多いため、今回は2.1のARMA過程の性質までを取り扱います。
以下目次になります。

1. ARMA過程(Ch_2)
1-1. ARMA過程の性質(2.1)
2. まとめ


1. ARMA過程(Ch_2の簡単な要約)
第2章では1変量の時系列データを分析するための基本的なモデルである自己回帰移動平均(ARMA)過程について述べる。本の後半で紹介するより複雑なモデルはARMAモデルを基に構築されていることが多いので、それらのモデルを理解する上でもARMAモデルは非常に重要である。

 

1-1. ARMA過程の性質(2.1の簡単な要約)
経済・ファイナンスデータの中には自己相関を持つデータが数多く存在するので、自己相関をモデル化する必要が出てくる。
一つ目の方法がy_{t}y_{t-1}のモデルに共通の成分を含める方法である。
y_{t}=a+b
y_{t-1}=b+c
のようにモデル化すると、共通の成分bを通してy_{t}y_{t-1}が相関を持つことができる。この考え方を移動平均(MA; Moving Average)と呼んでいる。
またもう一つの方法としては、y_{t}のモデルにy_{t-1}を含めることである。
y_{t}=ay_{t}+b
のようにこれはモデル化できる。これを自己回帰(AR; AutoRegressive)と呼んでいる。以下MA過程とAR過程についてそれぞれまとめる。

◆ MA(Moving Average)過程
移動平均過程(Moving Average Process)はホワイトノイズを拡張したものであり、具体的にはホワイトノイズの線形和で表される。1次MA過程(MA(1)過程とも書く)は
y_{t}=\mu+\epsilon_{t}+\theta_{1}\epsilon_{t-1} \epsilon_{t} 〜 W.N.(\sigma^2)
で定義され、y_{t}がMA過程に従うことはy_{t}〜MA(1)と表記される。この時、
y_{t-1}=\mu+\epsilon_{t-1}+\theta_{1}\epsilon_{t-2}
となるため、y_{t}のモデルとy_{t-1}のモデルが\epsilon_{t-1}という共通項を持つので、y_{t}y_{t-1}の間に相関が生じる。つまりMA(1)モデルは1次自己相関を持つモデルとなっている。
また、以下ではMA(1)過程の期待値と分散、自己共分散、自己相関について考える。
・期待値
E(y_{t})=E(\mu+\epsilon_{t}+\theta_{1}\epsilon_{t-1})=E(\mu)+E(\epsilon_{t})+E(\theta_{1}\epsilon_{t-1})=\mu
・分散
\gamma_{0}=Var(y_{t})=Var(\mu+\epsilon_{t}+\theta_{1}\epsilon_{t-1})=Var(\epsilon_{t})+\theta_{1}^2Var(\epsilon_{t-1})+2\theta_{1}Cov(\epsilon_{t},\epsilon_{t-1})=(1+\theta_{1}^2)\sigma^2
・自己共分散
\gamma_{1}=Cov(y_{t},y_{t-1})=(中略)=\theta_{1}\sigma^2
・自己相関
\rho_{1}=\frac{\gamma_{1}}{\gamma_{0}}=\frac{\theta_{1}}{1+\theta_{1}^2}

 

◆ AR(Auto Regressive)過程
自己回帰(AR; Auto Regressive Process)は、過程が自身の過去に回帰された形で表現される過程である。1次AR過程(AR(1)過程)は下記のように定義される。
y_{t}=c+\phi_{1}y_{t-1}+\epsilon_{t}    \epsilon_{t}〜W.N.(\sigma^2)
y_{t}を計算するにあたってy_{t-1}が追加されていることで、y_{t}y_{t-1}が相関を持つ形となっている。以下具体的なパラメータの値を元に考察を行う。
y_{t}=2+0.8y_{t-1}+\epsilon_{t} \epsilon_{t}〜iid N(0,1) (1)
y_{t}=2+y_{t-1}+\epsilon_{t} \epsilon_{t}〜iid N(0,1) (2)
y_{t}=2+1.1y_{t-1}+\epsilon_{t} \epsilon_{t}〜iid N(0,1) (3)
この時(1)については定常過程、(2)と(3)が非定常過程となる。特に(3)の過程は指数的に値が上昇するので爆発的(explosive)と呼ばれる。
次に、以下ではAR過程の期待値、分散、自己共分散、自己相関について考える。
・期待値
E(y_{t})=E(c+\phi_{1}y_{t-1}+\epsilon_{t})=c+\phi_{1}E(y_{t-1})
・分散
Var(y_{t})=Var(c+\phi_{1}y_{t-1}+\epsilon_{t})=\phi_{1}^2Var(y_{t-1})+Var(\epsilon_{t})+2Cov(y_{t},\epsilon_{t})=\phi_{1}^2Var(y_{t-1})+\sigma^2
・k次自己共分散
\gamma_{k}=Cov(y_{t},y_{t-k})=(中略)=\phi_{1}\gamma_{k-1}
・k次自己相関
\rho_{k}=\phi_{1}\rho_{k-1}
このとき、k次自己相関を求める式をユール・ウォーカー方程式(Yule-Walker equation)と呼んでいる。ユール・ウォーカー方程式は、AR過程の自己相関が、y_{t}の従うAR過程と同一の係数を持つ差分方程式に従うことを示すものである。

 

◆ ARMA過程
自己回帰移動平均過程(ARMA過程; Auto Regressive Moving Average Process)はARモデルとMAモデルの両方を含んだ過程である。(p,q)次ARMA過程(ARMA(p,q))は下記のように表せる。
y_{t}=c+\phi_{1}y_{t-1}+...+\phi_{p}y_{p}+\theta_{1}\epsilon_{t-1}+...+\theta_{q}\epsilon_{t-q}
ARMA(p,q)過程は、AR過程とMA過程の性質を併せもっており、両過程の性質のうち強い方がARMA過程の性質となる。例えば、ARMA仮定の定常性を考えると、MA過程は常に定常であるのに対してAR過程は定常になるとは限らないのでこの場合はAR仮定の性質が残り、ARMA過程は定常になるとは限らないということになる。


2. まとめ
#4では2.1のARMA過程の性質についてまとめました。記述の中身が充実しており要点が多かったため、ゆっくり進める形にしました。本の論述自体はもっと詳しいので、ご興味ある方は購入を推奨します。非常に中身が濃く読みやすいです。
#5では2.2のARMA仮定の定常性と反転可能性について取り扱っていきます。