Ch_3 情報技術がもたらす競争優位|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #6

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#5では第2章の『戦略とは何か』の後編として、「戦略はトレードオフで持続する」以降の内容を取り扱いました。

Ch_2 戦略とは何か(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #5 - lib-arts’s diary

#6では第3章の『情報技術がもたらす競争優位』の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 情報革命が競争を変える
2. ITの戦略上の重要性
3. ITで競争の性質が変わる
4. 情報化時代の競争
5. 感想・まとめ


1. 情報革命が競争を変える(簡単な要約)
情報革命が経済を席巻しており、どの企業もその影響からは逃れられない。情報を入手し、処理し、伝達するためのコストが劇的に下がっていることにより、ビジネスのやり方が変化している。
情報革命が進んでいることは広く知られているが、その重要性について議論する人は少ない。経営陣の時間や投資資本がどんどん情報技術(IT)に飲み込まれていくことから、ITをEDP部門(電子データ処理部門)や情報システム部門だけに任せておけないことがわかり始めている。
Ch.3は情報革命という大きな課題に企業が対応できるようにすることを目的としており、具体的には下記の問いについて考えていく。

・ITの進展は、競争や競争優位の源泉にどのように作用するのか
・ITを活用するにはどのような戦略を選択すべきか
・競合他社がすでに行動を起こしているのであればそれはどのような意味を持つのか
・IT投資には様々なものが考えられるが、どれを最優先すべきか

これらの問いに答えるにはITが単にコンピュータを意味しないことを理解しておく必要がある。情報革命は下記の三点で競争にも極めて重大な影響を及ぼしている。

・情報革命は業界構造を変える。それにより競争のルールも変わる
・情報革命は競合他社を追い越す新たな手段を提供し、そこから競争優位が築かれる
・情報革命は全く新しいビジネスを生み出す。多くの場合それは既存業務の中から生まれる

 

2. ITの戦略上の重要性(簡単な要約)
ITは企業の運営の仕方を変える。下記で順を追って確認していく。
バリューチェーンと価値活動
競争においてITの役割を際立たせる要素が「バリューチェーン」である。バリューチェーンは企業が行う活動を技術的あるいは経済的価値によって分類したものである業界内の一企業のバリューチェーンは「バリューシステム」と呼ばれるより大きな流れの中に組み込まれており、バリューシステムにはサプライヤーバリューチェーンも含まれている。
バリューチェーン、バリューシステムにおける連動性によって、様々な相互関係が生まれ、これらの相互関係を最適化したり調整したりすることで競争優位を構築することができる。

・競争の範囲
競争優位を追求する上で企業間で差が生じるのは「競争の範囲」、すなわち活動の幅の広さが影響している。競争の範囲には主に次の四つの側面がある。

- セグメントの範囲(対象セグメントの種類)
- 垂直の範囲(垂直統合の度合い)
- 地理的範囲
- 業界の範囲(事業展開する上で関連する業界の種類)

バリューチェーンが変わる
ITはバリューチェーンのあらゆる部分に広がりつつあり、価値活動を行う方法や各活動間の連動性の性質を変え始めている。また、競争の範囲にも影響を及ぼしており、どのような製品やサービスで買い手のニーズに応えるかということも変えつつある。このような基本的な影響から、企業にとってITが他の技術とは異なる戦略的重要性を持つことを説明できる。
ITは各活動のやり方に影響を及ぼすだけでなく、新たな情報の流れを作り出すことにより、社内外の活動を結びつける連動性の能力を大きく向上させている。つまりITによって各活動の間に新たな連動性が生まれ、サプライヤーや買い手の活動と自社の活動がより密接になっている。

・変化の方向とスピード
ITの役割と重要性は業界によって異なる。たとえば銀行と保険会社はこれまでももっぱら情報を重要視してきたので、これらの業界が他の業界に先駆けてどこよりもデータ処理に取り組んだのも自然なことである。逆にセメント業界などでは情報処理も増えるだろうが、今後も物理的プロセスがメインであり続けると思われる。

 

3. ITで競争の性質が変わる(簡単な要約)
多くの業界を調査した結果、ITが次のように競争のルールを書き直しつつあることが判明した。

・ITの進歩によって業界構造に変化が生じている
・競争優位を構築する上でITはますます重要なツールになっている。ある企業がITを活用して競争優位を確立しようと動けば、そのライバルたちは業界リーダーの戦略的イノベーションを真似ようとし、その結果業界構造にも影響が及ぶ
・ITはこれまで存在しなかった新しいビジネスを生み出している。

この三点はそれぞれの業界におけるITのインパクトを理解し、効果的な戦略を立案する上で極めて重要である。

・業界構造が変わる
ITによって五つの競争要因それぞれが変化する可能性があり、したがって業界の魅力度も変わる。多くの業界においてITがその構造を変えつつあり、変化へのニーズとチャンスを生み出している。
ITの長所を理解し、またそれがもたらす影響に事前に対処するには、この新技術が業界構造に及ぼすであろう変化を注意深く観察しなければならない。

・競争優位への影響
いかなる企業においてもITはコスト面でも差別化の面でも競争優位に大きな影響を及ぼす。この新技術により、価値活動に影響が及ぶ企業、もしくは競争の範囲を変えて競争優位を獲得する企業が現れる。下記は三つの視点からこれについて見ていく。

(1) コストダウン
-> ITはパリーチェーンのどの部分であろうとそのコストを変えることができる。

(2) 差別化の強化
-> 買い手のバリューチェーンにおける当該企業とその製品の役割次第にもよるが、ITによって製品のカスタマイズによる差別化が可能となる。

(3) 競争の範囲の変化
-> ITによって、競争の範囲と競争優位の関係も変わる。ITを活用すれば、各活動を調整する能力は一地域でも全国規模でも、あるいはグローバル規模でも高まる。地理的にこれまで以上に広い範囲で事業展開することが可能になり、それによって競争優位が生まれる。

・新しいビジネスを想像する
情報革命は全く新しい業界を誕生させるが、これにあたっては下記の三つの道筋がある。

(1) ITによって新しいビジネスが技術的に可能になる
(2) ITによって新たな製品ニーズが生まれることで、全く新しいビジネスが創造される
(3) ITによって既存事業から新規事業が生まれてくる

 

4. 情報化時代の競争(簡単な要約)
情報革命がもたらすチャンスを活用するには下記の5つのステップを踏むと良い。

(1) 情報集約度を確認する
(2) 業界構造におけるITの役割を見極める
(3) ITがどこで競争優位をもたらすかを見つけ、検証する
(4) ITが新規事業をどのように生み出すのかを調査する
(5) ITを活用する計画を立てる

 

5. 感想・まとめ
#6では第3章の『情報技術がもたらす競争優位』についてまとめました。ITの普及を考慮した上での経営学について論じられており、非常に興味深い内容でした。
#7では第4章の『戦略とインターネット』について確認していきます。