Ch_7 競争優位のフィランソロピー【前編】|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #12

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#11では第6章の『フィランソロピーの新しい課題』の内容を取り扱いました。

Ch_6 フィランソロピーの新しい課題|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #11 - lib-arts’s diary

#12では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の前編として、「競争環境の視点から見たフィランソロピー」までの内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. フィランソロピーの現状
2. 企業はフィランソロピーに関わるべきか
3. 経済的目標と社会的目標は対立しない
4. 競争環境を形作る四つの要素
5. 競争環境の視点から見たフィランソロピー
6. 感想・まとめ


1. フィランソロピーの現状(簡単な要約)
フィランソロピー(企業の社会貢献活動)が低迷している。理由としては、経営幹部にとって「板ばさみ」の状況がますます深刻になっているからだと思われる。「企業の社会的責任」の一層の拡大を求める企業批判と、当座の利益の最大化を求めて容赦無くプレッシャーをかけてくる投資家によるジレンマが生じている。
このジレンマを受けてフィランソロピーをもっと戦略的に進めていこうとする企業が増加している。今増加しつつあるのは、フィランソロピーを広報や宣伝の一形態として活用し、コーズ・マーケティング(社会的な意義を伴うマーケティング)や注目度の高いスポンサーシップなどを通じて企業やブランドのイメージを高めようとする動きである。


2. 企業はフィランソロピーに関わるべきか(簡単な要約)
フィランソロピーはその成果に対して疑念を抱かれることもある。これについて考えるにあたって、「企業はフィランソロピーに関わるべきか」という根本的な命題に立ち返る方が良いと思われる。
経済学者のミルトン・フリードマンが「企業の社会的責任とは、株主の利益を増大させることだけである」と主張したが、この主張の根底には下記の二つの前提がある。

・社会的目標と経済的目標は明確に区分されており、社会的支出は経済的業績を犠牲にするという前提
・企業は社会的目標のために個人の寄付者が提供する以上のメリットを提供できないという前提

この二つの前提が通用するのは、企業による寄付の焦点が絞り切れておらず、個々がバラバラに行われている場合である。しかし、フィランソロピーにはもう一つ別の真の意味での戦略的な考え方が存在する。その考え方とは、「企業は自らの『戦略的コンテキスト(自社が事業を展開している立地における事業環境の質)』を改善するためにフィランソロピーを活用できるという考え方」である。
戦略的コンテクストの向上に取り組む企業は単にお金を出すだけでなく、自社の能力や組織や人とのつながりを提供して社会的慈善事業を支援することができる。
この新しい方向を選択するには寄付プログラムへの取り組み方を根本的に変えなければならず、自社のフィランソロピーの焦点を合わせるべき「対象」と寄付をする際の「方法」を考え直す必要がある。


3. 経済的目標と社会的目標は対立しない(簡単な要約)
昔から、経済的目標と社会的目標は別物であり多くの場合は相反するものとして見られてきたが、このような二分法は間違っている。オープンで知識ベースの競争が展開される世界においてはますます時代遅れになりつつある。
企業は自社を取り巻く社会から孤立して機能しているわけではないので、事業を展開している地域の環境に強く依存している。社会的な改善とビジネスの関連が深ければ迂回ほど、経済的なメリットにつながる度合いも強くなる。
具体的に考えるなら教育の改善があげられ、教育の改善は一般には社会問題と考えられているが、地域の労働者の教育水準は当該企業の潜在的な競争力に本質的な影響を与える。このように、経済的目標と社会的目標は対立するものではない。

4. 競争環境を形作る四つの要素(簡単な要約)
競争コンテキストはこれまで戦略面において常に重要だった。スキルが高く、やる気のある労働力が使えることや、道路などの地域インフラの効率性、地元市場の規模と成熟度などの競争コンテキスト上の変数は、企業の競争力に常に影響を与えてきた。
競争コンテキストの重要性はますます高まっており、競争の基盤がどれだけ低コストのインプットを得られるかという点から、どれだけ優れた生産性を実現できるかという点に移りつつある。
競争コンテキストは地域社会の事業環境に含まれる、下記の四つの関連し合う要素から成り立っており、これが潜在的な生産性を左右する。

1) 要素条件(入手可能な生産インプット)
2) 需要要件
3) 企業戦略と競合状況
4) 関連産業や支援産業

また、競争コンテキストで重要な点として特定の「クラスター」に固有の側面である。ここで、クラスターは特定分野に属する企業、サプライヤー、関連産業、専門機関が地理的に集中し、相互に関連している状況を指している。


5. 競争環境の視点から見たフィランソロピー(簡単な要約)
競争コンテキストの要素を注意深く分析すれば、社会的価値と経済的価値がオーバーラップし、企業自体の競争力、あるいはその企業が属するクラスターの競争力を最大化してくれるであろう分野を確認できる。
そのため4節でまとめた四つのそれぞれの要素の視点から、クラスターの競争力を上げてくれる分野を探すと良いと思われる。


6. 感想・まとめ
#12では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の前編として、「競争環境の視点から見たフィランソロピー」までの内容について取り扱いました。戦略的状況を変えるにあたっての手段としてフィランソロピーを捉えるというのはなかなか面白い考え方でした。キッシンジャー外交における交渉術に出てきた考え方と似ている印象を受けました。
#13では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の後編として、「競合他社のただ乗りをどう考えるか」以降の内容について確認していきます。