Ch_6 フィランソロピーの新しい課題|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #11

f:id:lib-arts:20191028154807p:plain

「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#10では第5章の『競争戦略から企業戦略へ』の後編として、「企業戦略の四つのコンセプト」以降の内容を取り扱いました。

Ch_5 競争戦略から企業戦略へ(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #10 - lib-arts’s diary

#11では第6章の『フィランソロピーの新しい課題』の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 慈善団体という存在
2. 価値創造という義務
3. 助成によって社会的利益を生む四つの方法
4. 慈善財団にも戦略が必要である
5. 慈善財団の活動の実態
6. 新しい課題に取り組む
7. 感想・まとめ


1. 慈善団体という存在(簡単な要約)
過去20年間で米国の慈善財団の数は二倍に増え、所有する資産の価値は12倍以上にまで増加した。とはいえ、米国は一つの社会としてこれほどの注力に見合うだけの成果を出しているだろうか。
慈善財団とは、財団に資金を寄付する個人と、その資金を使って財団が支援する様々な社会的事業との間を結ぶ仲介役であるが、もし財団の役割が受け身の中間業者だとすればそれは本来果たせるはずの役割の一部に過ぎず、社会が財団に抱く大きな期待にほとんど応えていないことになる。財団は政治的圧力を受けないため、政府には決して持てない独立性を保ったまま社会問題の新しい解決方法を探ることができる。
しかしながら慈善財団がその潜在能力を十分発揮しているかどうかには疑問の余地があり、自分たちの自由になる資源をどのように使えば社会に最大の価値を生み出せるのかを戦略的に考えている財団はそれほど多くない。


2. 価値創造という義務(簡単な要約)
個人が社会的事業にお金を寄付すると、寄付金の全ては社会的利益を生み出す仕事に使われる一方で、個人が慈善財団にお金を寄付すると寄付金のほとんどは表舞台に出ない「縁の下の力持ち」になる。財団が慈善のために一年間に寄付する金額は、平均すると財団の資産のわずか5.5%であり、残りは社会的利益のためではなく金銭的利益を得るために投資される。
我々は普段、慈善事業に直接寄付することと、財団を通して寄付することの違いを改めて考えることはほとんどないが、その違いは驚くほど大きい。
永続的な資産基盤があるということは、社会問題に立ち向かい、得意分野で専門性を高めるのにふさわしい長期的な時間軸を持てることを意味する。それゆえ、同じ金額でも、個人による寄付や政府支出よりも財団を通したほうがより大きな社会的インパクトをできる可能性があるため、財団が価値創造できるようにするにはどうするのかを考えることには意義がある。


3. 助成によって社会的利益を生む四つの方法(簡単な要約)
圧倒的多数の慈善財団は助成先という他者を通してその役目を果たしている。助成型の財団は、支援する組織から社会的利益を買っていると考えることができるが、これは個人や政府も同様である。従って、財団が価値創出したと言えるのは、その活動を通して助成金の購買力だけでは得られない社会的利益を生み出した時である。
それを実現するためには下記の四つの方法がある。

・最もふさわしい助成先を選ぶ
・他の資金提供者にシグナルを発する
・助成先のパフォーマンスを改善する
・その分野における知識や慣行を前進させる


4. 慈善財団にも戦略が必要である(簡単な要約)
3節で取り扱った価値創造の四つの方法は、実践の場において相互に補強し合い、メリットが累積していく。しかし四つの方法の何を採ろうとも、価値を創造するには本物の戦略が必要になる。
フィランソロピーの目的はビジネスとは違うかもしれないが、その基底を成す戦略の考え方は同じである。企業のように市場で競争するのではなく、財団は寄付金という希少資源を使って自らの潜在能力を最大限に発揮し、いかに社会貢献するかという事業を営んでいる。より少ない資金で同等の社会貢献ができた時、財団は価値を創造したと言える。
ビジネスであろうとフィランソロピーであろうと、戦略とは下記の四つの原則を守ることである。

・特定分野での成果を目指す
・独自のポジショニングを選ぶ
・戦略の基盤は独自の活動である
トレードオフを伴うポジショニング

 

5. 慈善財団の活動の実態(簡単な要約)
慈善財団の取り組みなどについて包括的な調査研究は行われていないが、知る限りではこれまで述べた内容を基準に考えるとなかなか現状はうまく行っていないと思われる。
戦略には集中が必要だが、財団は概して自らの資源(人的資源と資金の両方)をあまりにも広く拡散し過ぎている。断片化した助成を数多く行うことが常態化し、個々の助成要請の対応に常に追われているため、財団の専門性を高めたり、助成先に手を貸したり、社会問題を徹底的に調査したりする時間はほとんどない。


6. 新しい課題に取り組む(簡単な要約)
これまでの各ポイントをまとめ、整合性の取れた一つの仕組みにするためには、戦略を策定しその戦略に沿うよう組織運営を変え、きちんと戦略に沿った運営が行われているかを効果的に監視できるよう、財団のガバナンスにも手を加える必要がある。
フィランソロピーの成果を改善すれば慈善財団はいまよりはるかに大きな影響を社会に及ぼすことができると思われる。社会に対する責任を引き受け、社会的価値を創造するという責務を引き受けるまで、慈善財団は成功も失敗も存在しない世界で活動を続けることになるので、こちらについては考慮する必要があると思われる。


7. 感想・まとめ
#11では第6章の『フィランソロピーの新しい課題』の内容について取り扱いました。あまり考えることの少ない話題だったので、考え方として非常に参考になりました。
#12では第7章の『競争優位のフィランソロピー』について確認していきます。