Ch_7〜8 人口構造の変化に着目する&認識の変化を捉える|『イノベーションと企業家精神』読解メモ #6

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上記のドラッカーの「マネジメント」のエッセンシャル版の付章を読んで、他の著作も時代背景を踏まえながら読んでみたいと思ったので、1985年頃の著作である「イノベーション起業家精神」を読みながら読解メモをまとめていきます。

イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】 | P.F.ドラッカー 著/上田惇生 編訳 | 書籍 | ダイヤモンド社
#5ではCh.6の「産業構造の変化を知る|第四の機会」について取り扱いました。
https://lib-arts.hatenablog.com/entry/drucker-innovation_5
#5ではCh.7の「人口構造の変化に着目する|第五の機会」とCh.8の「認識の変化を捉える|第六の機会」について取り扱えればと思います。
以下目次になります。

1. 人口構造の変化に着目する|第五の機会(Ch.7)
1-1. 冒頭部
1-2. 人口構造の変化
1-3. 人口構造の変化はイノベーションの機会
1-4. 人口構造の変化の分析
1-5. Ch.7を読んでみての感想、考察
2. 認識の変化を捉える|第六の機会(Ch.8)
2-1. 半分空である
2-2. 女性、中流階級意識
2-3. タイミングの問題
2-4. Ch.8を読んでみての感想、考察
3. まとめ

 

1. 人口構造の変化に着目する|第五の機会(Ch.7)
1-1. 冒頭部(本の内容の要約)
予期せぬ成功や失敗、ギャップの存在、ニーズの存在、産業構造の変化などの#2〜#5でまとめたCh.3〜Ch.6までのイノベーションの機会は企業や産業、あるいは市場の内部に表れる。
一方で、産業や市場の外部に表れるイノベーションの機会もあり、「人口構造の変化」、「認識の変化」、「新しい知識の出現」の三つである。これらの変化は社会的、形而上的、政治的、知的な世界における変化である。


1-2. 人口構造の変化(本の内容の要約)
産業や市場の外部における変化のうち、最も明白なのが、人口の増減、年齢構成、雇用、所得などの「人口構造の変化」である。いずれも見誤りようがなく、それらの変化がもたらすものは予測が容易であり、リードタイムも明らかである。人口構造の変化は、いかなる製品が誰によってどれだけ購入されるかに対し大きな影響を与える。
このような人口構造の変化は、企業家にとって実りあるイノベーションの機会となるのは、既存の企業や公的機関の多くが、それを無視してくれるからである。既存の企業や公的機関の多くは、人口構造の変化は起こらないもの、あるいは急速には起こらないものであるという仮定にしがみついており、明らかな証拠すら認めようとしないこともある。
専門家たちが、自分たちが自明としていることに合致しない人口構造の変化を認めようとせず、あるいは認めることができないという事実は、企業家に対しイノベーションの機会をもたらす。機会とするどころか事実として受け入れようとすらしないところもあるため、通念を捨てて現実を受け入れたりさらには新しい現実を自ら進んで探そうとする者は、長期にわたり競争に煩わされることなく事業を行うことができる。


1-3. 人口構造の変化はイノベーションの機会(本の内容の要約)
人口構造の変化をイノベーションの機会として捉えることに成功した例を下記にまとめる。

1. 小さな靴のチェーン店から成長したメルビル
-> ベビーブームという現実を受け入れて成長した小売業者の一つ。ベビーブーマー世代の第一陣がティーンエイジャーになる直前の1960年代の初めにこの市場に力を入れ、10代を対象にする新しい店をたくさん作りデザイン、広告、販売促進などを行なった。その10年後は他の企業が10代に目を向ける中、人口の重心が移った先の20代をターゲットにビジネスを行なった。結果としてメルビルはアメリカで最も急速に成長し、最も利益をあげる小売チェーンとなった。

2. ラテンアメリカにおける都市化の波を予測したシアーズ・ローバック
-> メキシコシティ、リマ、サンパウロボゴタなどのまちを観察することによって都市化やそれに伴う中流階級の増加を見越し、1950年代半ばに新しい都市住民のためのアメリカ流百貨店をラテンアメリカの各主要都市に建設していき、数年後にはラテンアメリカの小売業界に置いて主導的な地位を占めるに至った。

3. 生産性の高い優れた労働力を手に入れることに成功したシティバンクの成長
-> 意欲に燃える若い女性の社会進出を認識し、1970年代を通じて積極的に女性を採用し、訓練し、各地の視点に配置した。これにより類のない愛社精神を持つ有能な労働力を手に入れた。


1-4. 人口構造の変化の分析(本の内容の要約)
「人口構造の変化」の分析は人口に関わる数字から始まる一方で、人口の総数そのものにはあまり意味はなく、年齢構成の方が重要である。この人口の年齢構成に関して、特に重要な意味を持ちかつ確実に予測できる変化が最大の年齢集団の変化、すなわち人口の中心の移動である。人口の重心の移動に伴い、時代の空気が変化する。
教育水準による人口区分も重要な意味を持つ。百科事典の販売、専門職再訓練コース、休暇旅行のマーケティングなど、事業によっては特に大きな意味を持つ。また、就業者と失業者で分けた区分もあれば職業別の区分もある。所得階層、特に可処分所得による区分もある。
必要なのは問いを発することであり、統計を読むだけでは十分でない。統計は出発点にすぎない。メルビルやシアーズ・ローバックは統計から出発して実際の状況に目を向けた。現場に行き、見て、聞く者にとって、人口構造の変化は信頼性と生産性の高いイノベーションの機会となる。


1-5. Ch.7を読んでみての感想、考察
全体的にベースの考え方として非常に参考になりました。一方、周りで観測する印象と相違があったのは1-2で言及されていた「人口構造の変化」を認めないという話です。人口構造の変化については、実際に実施したりメディアなどでも言及されたりしているので、この辺は現代だと「認めない」とも言えないのではという印象でした。85年に書かれた著作のため、この辺はインターネット社会の今日この頃とは少々異なる印象でした。とは言え、上記はインターネット系の新興企業(とは言え、2000年頃からある会社も現在では20年近い社歴のためそれほど新興とも言えない)の話です。
新興企業系でも力を持つ企業が増えてきており、最近では従来からの大手企業もさほど安泰とは言えない状況になってきたので、日本でも徐々に新陳代謝が起こっていきそうな印象を近年感じます。

 

2. 認識の変化を捉える|第六の機会(Ch.8)
2-1. 半分空である(本の内容の要約)
コップに「半分入っている」と「半分空である」は量的には同じであるが、意味は全く異なり取るべき行動も違う。世の中の認識が「半分入っている」から「半分空である」に変わるとき、イノベーションの機会が生まれる。
具体的な例としては、1960年代の初め〜1980年代までの20年間にアメリカ人の健康に関しての関心の異常なまでの増大があった話などがある。この認識の変化はイノベーションをもたらす大きな機会となり、健康食品チェーンやジョギング用品などが生まれ高収益や急成長に繋がった。


2-2. 女性、中流階級意識(本の内容の要約)
1-3でも言及されたシティバンクも女性の社会進出にあたっての認識の違いを捉えた例である。
また別の例として、1950年の初め頃から自らを中流階級として捉えるアメリカ人の増加に伴い、ウィリアムベントンは「中流階級とは、労働者階級とは異なり自分の子供が学校の成績次第で出世していけると信じる人たち」と捉え、倒産寸前だったエンサイクロペディア・ブリタニカを買い取り、高校の先生を介して百科事典を売り込んだ。これによりブリタニカは3年で立ち直り、10年後には日本でも同様の売り方で成功した。
認識の変化が起こっても実体は変化しないが意味が変化する。この認識の変化は多くの場合定量化が難しく、逆に定量化できる頃にはイノベーションの機会とするには間に合わない。が、理解できないものだったとしても知覚できないわけではないので、近くを元にイノベーションの機会として利用することができる。


2-3. タイミングの問題(本の内容の要約)
「認識の変化」を利用したイノベーションの可能性を認めるか非現実的なものとして軽視するかは経営幹部による。いかなる分野にせよ、イノベーションに成功する人たちは、そのイノベーションを行う場所に近い場所におり、他の人たちと違うのはイノベーションの機会に敏感なところだけである。
シティバンクなどの例は、認識の変化に基づくイノベーションにはタイミングが決定的に重要であることを示しており、シティバンクでは最初に取り組むことで人気を得ることができたと思われる。模倣は役に立たず自分が先に手をつけねばならない。
一方で、急ぎ過ぎは危険が伴い、一時的な流行と本当の変化をしっかり見分けなくてはならない。この見極めは非常に難しいため、認識の変化に基づくイノベーションは小規模にかつ具体的に着手しなければならない。


2-4. Ch.8を読んでみての感想、考察
認識の変化はこれまであまり意識したことがなかったので、これから意識的に捉えるようにできればと思いました。
とは言え2-3のタイミングの問題は実際に運用していくにあたっては非常に難しい話なので、直観的な市場の発見とロジカルシンキングによる周囲の説得をうまく調和させる必要があるなと思いました。この辺を行っていくにあたっては様々なスキルが必要なので、バランスのいいマネジメントチームが実働には必要だなという印象でした。


3. まとめ
市場外部の視点については省いて考えることの方が多い気がしたので、今後はもう少し意識するようにしたいなと思いました。
「人口構造の変化」、「認識の変化」のどちらも個人的には抜けがちな視点だったので、今後は注意するようにしようと思います。