Ch_19 顧客創造戦略|『イノベーションと企業家精神』読解メモ #16

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上記のドラッカーの「マネジメント」のエッセンシャル版の付章を読んで、他の著作も時代背景を踏まえながら読んでみたいと思ったので、1985年頃の著作である「イノベーション起業家精神」を読みながら読解メモをまとめていきます。

イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】 | P.F.ドラッカー 著/上田惇生 編訳 | 書籍 | ダイヤモンド社

#15ではCh.18の「ニッチ戦略」について取り扱いました。

#16ではCh.19の「顧客創造戦略」について取り扱えればと思います。
以下目次になります。

1. 顧客創造戦略(Ch.19)
1-1. 冒頭部
1-2. 効用戦略
1-3. 価格戦略
1-4. 事情戦略
1-5. 価値戦略
1-6. Ch.19を読んでみての感想、考察
2. まとめ

 

1. 顧客創造戦略(Ch.19)
1-1. 冒頭部(本の内容の要約)
Ch.16~Ch.18でまとめた企業家戦略はいずれもイノベーションの導入の仕方が戦略だったが、Ch.19でまとめる顧客創造戦略はイノベーション自体が戦略である。製品やサービスは昔からあるものだとしても、その昔からある成否にゃサービスを新しい何かに変える。
変更にあたっては、効用や価値、あるいは経済的な特性を変化させる。物理的にはいかなる変化も起こさなかったとしても、経済的には全く新しい価値を創造する。
顧客創造戦略には「効用戦略」、「価格戦略」、「事情戦略」、「価値戦略」の四つがあり、1-2〜1-5でそれぞれまとめる。これらの企業家戦略には一つの共通項があり、いずれも顧客を創造し、顧客の創造こそ事業が目的とするものであるとする。


1-2. 効用戦略(本の内容の要約)
効用戦略においては価格やハイテクや特許などは全く関係なく、顧客が目的を達成する上で必要なサービスを提供するのが効用戦略であり、顧客にとって「真のサービスは何か」、「真の効用は何か」を追求する。
具体的にはローランド・ヒルによる郵便制度の発明や中堅食器メーカーのレノックス・チャイナが行った花嫁目録などが例としてあげられる。
効用戦略を実現するにあたっては顧客ニーズに焦点を合わせることが他の何より増して重要である。


1-3. 価格戦略(本の内容の要約)
安全かみそりにおけるキング・ジレットコピー機業界におけるゼロックスの例が示すように、価格の設定の仕方によって顧客は供給者が生産するものではなく自分たちが買うもの、すなわち一回のコピーなどに対価を払うようになる。総額として払う額はさして変わりないが、支払いの方法を消費者のニーズと事情に合わせる。供給者にとってのコストではなく、顧客にとっての価値に対し価格を設定する。
供給者のほとんどが価格設定を戦略として捉えようとしないが、戦略の視点で理解しておく方が望ましい。


1-4. 事情戦略(本の内容の要約)
電力会社の事情に配慮しメンテナンス費を関連機器の販売の価格に上乗せしたGEや、収穫機を農民に売るにあたって農機具代の捻出に苦しむ農民に三年の分割払いで販売したサイラス・マコーミックなど、顧客の事情に配慮した事情戦略もある。
メーカーは合理的に行動しない顧客を苦々しく捉えるが、実際には合理的に行動しない顧客などいない。単に顧客の事情がメーカーの事情と異なるだけである。
イノベーションのための戦略は、それらの事実が顧客に関わりを持つ限り不可避の事実として認めるところから始まる。顧客が買うものは、それが何であれ顧客の事情に事情に合ったものである。事情に合ったものでなければ何の役にも立たない。


1-5. 価値戦略(本の内容の要約)
顧客創造戦略としての価値戦略は、メーカーにとっての製品ではなく、顧客にとっての価値を提供する。この戦略は顧客の事情を顧客のニーズの一部として受け入れるという事情戦略の延長線上にある。
具体的には、「潤滑油の土木業社にとっての価値は機械の稼働時間であり、土木業社は機械の稼働時間を購入している」、「ハーマン・ミラーはオリジナルデザインの椅子を販売するにとどまらず、一般企業や病院のオフィス内設備一式や施設マネジメントにあたっての観点からオフィスのレイアウトやオフィス機器に関するアドバイスまで売るようになった」などが挙げられる。
これらの例は当たり前に思われるかもしれないが、意外と難しい。顧客が何を買うかを考える者は必ず勝てるにも関わらず、それが稀にしか見られないのがなぜかという理由の一つは経済学とその価値論にある。経済学のベースにある需要と供給においては、製品の価格以外のことについての言及が少ない一方で多くの製品やサービスの供給者はこの経済学に従ってしまう。この辺は注意が必要である。
企業家戦略はイノベーションや、企業家としてのマネジメントと同じように重要である。これら三つのものが一体となって、イノベーションと企業家精神が生まれる。実際に実行にいたっては、いかなるイノベーションにいかなる企業家戦略を適用するかの判断には大きなリスクが伴う。企業家戦略は意思決定の分野に属し、リスクを伴う。それは直感や賭けではない一方で厳密な意味での科学ではない。企業家戦略は判断である。


1-6. Ch.19を読んでみての感想、考察
1-5の後半は章のまとめとして論旨が変わるので、独立して節を作った方がよかったのではという印象でした。
また、事情戦略についての考え方は今まで軽視しがちだったので、今後は気をつけたいなと思いました。


2. まとめ
Ch.19全体を通した感じだと、冒頭のイノベーションと戦略の関係性がまだしっくり来ていないですが、全体像は概ね把握できたので、この辺は追々掴んでいけると良いかなと思います。
理論として完璧に昇華しているというよりも、方向性を示した論述も多いのではという印象でした。が、むしろ考えるきっかけとなる問題定義が非常に多く、読むことで多くの面で考えるきっかけになり非常に良い内容でした。