Ch_2 古代の技術革命に学ぶべき教訓|『テクノロジストの条件(by P.F.Drucker)』読解メモ #3

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連載の経緯は#1にまとめました。

また、#1では前書きとプロローグについて、#2ではCh_1の『仕事と道具』に関して取り扱いました。

#3ではCh_2の『古代の技術革命に学ぶべき教訓』に関して要約と読んでみての感想や考察についてまとめていきます
以下目次になります。
1. 古代の技術革命に学ぶべき教訓
1-1. 冒頭部
1-2. 史上最大のイノベーションの時代
1-3. 政治、社会、知識の誕生
1-4. 新技術が灌漑文明の諸制度を生み出した
1-5. 技術史は歴史の縦糸
1-6. 灌漑文明の三つの教え
1-7. 個の扱い
1-8. 武力、階級、世界観
1-9. 技術革命の教訓
1-10. 七〇〇〇年後の課題
2. 感想、考察、まとめ

 

1. 古代の技術革命に学ぶべき教訓
1-1. 冒頭部
我々は技術革命の最中に生きる者として、それが一人一人の人間に与える意味と、社会、政治、自由に与える影響について関心を持たざるを得ない。


1-2. 史上最大のイノベーションの時代
今日の技術の爆発には凄まじいものがあるが、七〇〇〇年前に誕生した人類初の偉大な文明である灌漑文明において、技術が人間の生活にもたらした大革命の影響も無視できない。新しい社会と新しい政治体制はまずメソポタミアに出現し、続いてエジプトとインダス川流域、最後に中国に出現した。それがやがて灌漑都市から灌漑帝国へと発展していった。
生活と整形にもたらされた変化の中で、この時代のものほど人間の社会とコミュニティを変えたものはない。灌漑文明の時代は技術のイノベーションに卓越した時代であり、それに加え社会的イノベーションと政治的イノベーションにおいても人類史上最も実り豊かな時代だった。多くの我々の社会と政治の骨組みは灌漑文明の夜明けに生み出され確立されたので、社会制度、政治制度などに関心を持つならば灌漑都市にまで遡って考える必要がある。
1-3で灌漑文明で生まれ確立されたものの具体例を挙げていく。


1-3. 政治、社会、知識の誕生
灌漑文明では下記のものが誕生し確立された。

① 政治
灌漑都市は政治の機構として恒久的な期間を生み出し、明確な階層を持つ非属人的な政府を創設し、その政府には官僚が生まれ、この政府が灌漑都市を灌漑帝国へと発展させた。部族や氏族にとらわれずに人々を一つのコミュニティに取り込むにあたって、宗教や法律が生まれた。

② 社会
灌漑都市は農民、兵士、聖職者などの社会的な階層を生んだ。また同時に職人や専門職が生まれた。それに加え灌漑都市は余剰を生み出したために、恒常的な市が生まれ、商人、貨幣、信用、法律なども生み出した。

③ 知識
水を得るための土木建築物を建設し維持するための技術、複雑な商取引を管理するための記録や文字、天文学、測量術など様々な知識が必要とされ、それが生み出された。

④ 個人
部族だけが存在する部族社会と異なり、灌漑都市では個人の位置付けが一つの鍵となり、そこから正義のコンセプトや、美術、文字、宗教なども生まれた。


1-4. 新技術が灌漑文明の諸制度を生み出した
灌漑文明の誕生の根底にあった社会的イノベーションと政治的イノベーションの広さと深さについては非常に大きなものであった。ここ七〇〇〇年に渡る人類の歴史は、灌漑都市の社会制度と政治制度をより広い地域に拡大していく歴史だったと見ることもできる。
灌漑文明はまさしく技術革命の上に築かれたため、灌漑文明は技術的政治体制と称することもできる。


1-5. 技術史は歴史の縦糸
技術の変化は、常に生活のあり方と労働のあり方に影響を与えてきたが、人類初の技術革命の時代ほど技術が文明の形成に大きな影響を及ぼした時代はなかったため、この時代について理解する必要がある。

 

1-6. 灌漑文明の三つの教え
「人類が常に技術上の成果によって規定され、束縛され、強制されることを示しているのか」、「人類自身とその目的のために技術を利用することは可能であり、人類は自らが考案した道具の主人となることが可能であることを示しているのか」という問題について、灌漑文明は以下の三つのことを教える。

① 技術革命は社会のイノベーションと政治のイノベーションを必要不可欠とし、イノベーションによりそれまでの制度的な仕組みを陳腐化させ、コミュニティ、社会、政治のための新しい制度を要求する。すなわち、技術革命は変化を強いる。

② 技術革命はそれぞれ一定の社会的イノベーションと政治的イノベーションをもたらし、技術革命は歴史哲学にいう客観的現実をもたらす。

③ 新しい客観的現実が規定するものは、方程式におけるいくつかの変数のみであり、それはどこで何について新しい制度が必要になるかだけを規定する。新しい問題にいかに取り組むか、新しい制度の目的や価値観がいかにあるべきかは規定しない。 


1-7. 個の扱い
法学者や行政官の彫像、肖像画、記述に見られるように個のコンセプトがはじめて生まれたのはエジプトで、彼らは個人の独自性を認識し、個人の至上性を当然とした。たとえば古代エジプトは大ピラミッドを建造した建築家の名を記録した。
その後他の地域では個人について基本的に全く異なる二つの考えが生まれた。一つはメソポタミア道教ユダヤの予言者、ギリシャの戯曲などに見られる個人主義的アプローチで、一人一人の人間の能力を限りなく伸ばすことが求められた。もう一つは理性主義的アプローチと呼ぶべきもので、特に孔子が教え範を示したものだった。完全性の理念に従い、一人一人の人間を理想像に近づけることが求められた。


1-8. 武力、階級、世界観
軍隊を例に取るならば、灌漑文明にとって組織的防衛は不可欠であった。具体的な方法は三つあり、
① 農民という生産階級によって支えられる独立した職業軍
② 農民自身が徴兵される市民軍
③ 傭兵軍
の三つである。階級制度も共通に存在していたが、内容は大きく異なっていた。ある文明では階級制度が階級の世襲化と社会の固定化をもたらしたが、ある文明では才能と野心あるものに機会を与え、高度の流動性をもたらすべく工夫された。


1-9. 技術革命の教訓
人類初の技術革命の歴史はまとめるなら以下の三つの教えを与える。

① 技術革命は社会的イノベーションと政治的イノベーションに対する客観的ニーズをもたらす。
② 新しい制度は新しいニーズに合致したものでならなければならない。
③ 制度が実現すべき価値、それらの制度が仕えるべき目的、それらの目的の優先順位はかなりのところ自由にすることができる。


1-10. 七〇〇〇年後の課題
近年の技術革新は今日、広範な範囲に渡る技術の発展の全てが一体となって全く新しい人間環境を作り出そうとしている。従って我々は今日、社会的イノベーションと政治的イノベーションが必要とされる領域を明らかにするという重大な課題に直面にしている。
それに対し、我々は新しい課題のための新しい精度、つまり技術革命がもたらしつつある新しいニーズと新しい能力にふさわしい新しい制度を構築しなければならない。そしてそれら新しい制度によって、我々の信ずる価値観を具体化させ、我々が正しいと考える目的を追求し、人間の自由、尊厳、目的に奉仕させなければならない。
七〇〇〇前から技術は大きく変わったが、社会制度や政治制度については七〇〇〇年前と近しいものである。(現代の変化についても七〇〇〇前の変化が参考にできると思われる)


2. 感想、考察、まとめ
Ch_2では近年の技術革命が一人一人の人間に与える意味を考察するにあたって、七〇〇〇年前の灌漑文明がもたらした人間の社会や政治に対するイノベーションについて論述されていました。1-9の「技術革命の教訓」で現代を考察するにあたっての教訓がまとまっているので、この点を何度か振り返ると良さそうです。
技術革命は社会にイノベーションの必要性をもたらし、必要性に合致した制度を作らなくてはならないものの、制度を運営するに当たっての目的の優先順位は自由度が高いとされていました。これは非常に興味深く、全体的な方針は合理的でなければならない一方で、答えは一つではないという示唆を与えてくれて非常に面白い考察だと思います。
#3ではCh_2について取り扱ったので、#4ではCh_3について取り扱っていきたいと思います。