Ch_14 公的機関における企業家精神|『イノベーションと企業家精神』読解メモ #11

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上記のドラッカーの「マネジメント」のエッセンシャル版の付章を読んで、他の著作も時代背景を踏まえながら読んでみたいと思ったので、1985年頃の著作である「イノベーション起業家精神」を読みながら読解メモをまとめていきます。

イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】 | P.F.ドラッカー 著/上田惇生 編訳 | 書籍 | ダイヤモンド社
#10ではCh.13の「既存企業における企業家精神」の後半部について取り扱いました。

#11ではCh.14の「公的機関における企業家精神」について取り扱えればと思います。
以下目次になります。

1. 公的機関における企業家精神(Ch.14)
1-1. イノベーションを行えない理由
1-2. 公的機関の企業家原理
1-3. 既存の公的機関におけるイノベーションの必要性
1-4. Ch.14を読んでみての感想、考察
2. まとめ


1. 公的機関における企業家精神(Ch.14)
1-1. イノベーションを行えない理由(本の内容の要約)
政府や労働組合、教会、大学、学校、病院、NPOなどの様々な公的機関も企業と同じように企業家としてのイノベーションを行わねばならない。しかし、公的機関がイノベーションを行うことは最も官僚的な企業と比べてさえはるかに難しい。既存の事業が企業の場合よりもさらに大きな障害となる。
公的機関において既存の事業がイノベーションの障害となりやすい原因を以下に三つまとめる。
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1. 公的機関は成果ではなく予算に基づいて活動する。
-> 予算は活動が大きいほど大きくなり、それに加え公的機関の成果は業績ではなく、獲得した予算によって評価されるため、地位と権力の低下を意味することを恐れ変化をポジティブに捉えた挑戦が行われにくくなる。

2. 公的機関は非常に多くの利害関係者によって左右される。
-> 公的機関は活動の成果が収入の原資になっていないために、あらゆる種類の関係者が拒否権を持ち、あらゆる人たちを満足させねばならないため、新しい事業が常に疑いの目を持って見られてしまう。

3. 最も大きな障害として、公的機関は善を行うために存在する。
-> 自らの使命を道義的な絶対とし、費用対効果の対象とは見なさないために、決して達成されることのない最大化のような目標を定義してしまい、イノベーションや新しい事業を自らの基本的な使命、存在、価値、信念に対する攻撃と受け取ってしまい、これがイノベーションにとって深刻な障害となってしまう。
```
一方で、公的機関の中には1960~1980年にかけて自らの成果づけを変えて『サイエンス』を刷新したアメリカ科学振興教会のように既成の大組織を含めイノベーションを行っているものも多いので、うまくいった例は参考にすべきである。


1-2. 公的機関の企業家原理(本の内容の要約)
公的機関の中でも実際にイノベーションに成功した例から、我々は公的機関がイノベーションを行う上で必要な企業家原理を示すことができる。以下に四つの原理についてまとめる。
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1. 公的機関は明確な目標を持たねばならない。
-> 個々のプロジェクトは組織の使命や目的のための手段であるため、個々のプロジェクトではなく目的そのものに的を絞らねばならない。

2. 公的機関は実現可能な目標を持たねばならない。
-> たとえば空腹の根絶ではなく、飢餓の減少を目標とすべきである。実現可能なというのを意識した上で、最大ではなく最適の水準をもって規定しなければならないし、そうして初めて「達成した」ということができる。

3. 公的機関は目標がいつまでも達成できなければ、目標そのものか少なくとも定義の仕方が間違っていた可能性があることを認めねばならない。
-> 公的機関といえども、目標は大義ではなく費用対効果に関わるものとして捉える必要があり、いかに努力しても達成できない目標は目標として間違っているとすべきである。

4. 公的機関は、機械の追求を自らの活動に組み込んでおかねばならない。
-> 変化を脅威ではなく機会として見なければならない。
```
上記の四つの簡単な原理を適用することによって、政府機関であってもイノベーションを起こすことが可能になる。


1-3. 既存の公的機関におけるイノベーションの必要性(本の内容の要約)
既存の公的機関におけるイノベーションがここまで重要とされるのは、今日の先進国では公的機関があまりに大きな存在になっていることにある。20世紀において公的機関の成長が大きすぎたため、現在(1985年)に至っては可能な限り営利事業に転換しなければならない。
営利事業に転換するにあたっては、急激な変化の時代にあって、社会、技術、経済、人口構造の変化を機会として捉えねばならない。さもなければ公的機関は単なる邪魔物となってしまう。環境が変化する中にあって、もはや機能しなくなった事業やプロジェクトに固執しているようでは、いかなる役割も果たせなくなってしまう。しかしそれでも社会は新しい挑戦、ニーズ、機会を伴う急激な変化の過程にあって公的機関を必要とする。
19世紀後半〜20世紀初めにかけて、公的サービスこそは、まさに創造性が発揮されイノベーションが行われる分野だった。1930年代までの75年間に行われた社会てきイノベーションは当時の技術てきイノベーションに劣らず斬新かつ生産的であって、しかも急激だった。反面、今日の公的機関のほどんどはその組織と使命が当時のままである。そのため、既存の公的機関の中に企業家的なマネジメントを組み込むことが、今日における最大の政治課題となっている。


1-4. Ch.14を読んでみての感想、考察
公的機関をイノベーションの対象と考えたことがなかったので、新しい視点でした。
おそらく、1985年時点のアメリカでこれが言われている以上、アメリカよりもさらに保守的な日本の公的機関だとイノベーション的な考えはなかなか出てこないのではという先入観があったかもしれません。とはいえ今思い返すと民営化などはこれらの財政健全化を意図していた物だと思われるので、この辺は見識不足だったかなという気もしています。
また、19世紀後半〜20世紀初頭の例が挙がっているのが斬新で、確かに成熟した現在社会において公的機関の役割は単純でないものに変化していますが、インフラの整備されていない時代では非常に重要なものだったのだと思います。
現代の公的機関はその当時の価値観のまま動いているということなので、改めて実現可能かつ現代という時代に即した公的機関の役割や目的について再度考え直す時期に来ているのだと思いました。


2. まとめ
公的機関の役割や目標についての再定義は非常に興味深いなと思いました。
一度時間がある際に考えてみたいなと思います。