Ch_18 ニッチ戦略|『イノベーションと企業家精神』読解メモ #15

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上記のドラッカーの「マネジメント」のエッセンシャル版の付章を読んで、他の著作も時代背景を踏まえながら読んでみたいと思ったので、1985年頃の著作である「イノベーション起業家精神」を読みながら読解メモをまとめていきます。

イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】 | P.F.ドラッカー 著/上田惇生 編訳 | 書籍 | ダイヤモンド社
#14ではCh.17の「ゲリラ戦略」について取り扱いました。

#15ではCh.18の「ニッチ戦略」について取り扱えればと思います。
以下目次になります。

1. ニッチ戦略(Ch.18)
1-1. 冒頭部
1-2. 関所戦略
1-3. 専門技術戦略
1-4. 専門市場戦略
1-5. Ch.18を読んでみての感想、考察
2. まとめ


1. ニッチ戦略(Ch.18)

1. ニッチ戦略(Ch.18)
1-1. 冒頭部(本の内容の要約)
Ch.16、Ch.17で取り扱った「総力戦略」、「創造的模倣戦略」、「柔道戦略」の三つの企業家戦略は、市場や業界支配は狙わなくてもトップの地位は目指す。これに対し、隙間(ニッチ)の占拠を目指すニッチ戦略は目標を限定し、限定された領域で実質的な独占を目指す。ニッチ戦略のポイントは、製品としては決定的に重要でありながらほとんど目立たず誰も競争しにこないようにする点にある。
ニッチ戦略には「関所戦略」、「専門技術戦略」、「専門市場戦略」の三つあり、それぞれに特有の条件、限界、リスクがある。それぞれ、1-2、1-3、1-4節でまとめる。


1-2. 関所戦略(本の内容の要約)
アルコン・ラボラトリーズの手術用酵素やデューイ&アルミーの缶詰密閉など関所の地位は最も望ましいものである。一方で、この戦略には厳しい条件があり、「製品が必要不可欠なものでなければならない」や「市場の規模が最初にその場を占めた者一人だけが占拠できる大きさでなければならない」などである。その上、関所戦略には厳しい限界とリスクが伴い、「一度関所を占めてしまえばそれ以上大きな成長は見込めない」ということである。関所の地位を占めた企業が勝手に事業を拡大したり変えたりすることはできない。いかに優れ、いかに安くとも、需要はその製品が組み込まれているプロセスや製品への需要によって規定される。
関所戦略は一度目標を達成すればすでに成熟期を迎えている。最終需要者の成長と同じ速さでしか成長できないにも関わらず、需要の減退は急速に起こりうる。需要を満たす他の方法が発見されるならば、ほとんど一夜で陳腐化する。これを防ぐ正しい戦略は、デューイ&アルミーがすでに40年以上に渡り取ってきた戦略である。同社は広範囲の技術サービスを提供し、ユーザーの従業員を訓練するなどに加え、絶えず品質の向上を図っている。
関所は難攻不落ではあるが、その守備範囲は狭いということは意識しておく必要がある。


1-3. 専門技術戦略(本の内容の要約)
大手の自動車メーカの名前を知らない人はいないが、電気系統システムを供給する部品メーカの名前を知っている人は少ないが、歴史ある部品メーカは専門技術によって生態学的なニッチにおける支配的地位を獲得し、以来その地位を維持してきた。優れた技術を開発することによって、かなり早い時期に市場を獲得した。ドイツのボッシュオハイオ州デイトンのデルコなどは専門技術によってあまりに先行しているために、他の企業にとっては挑戦する価値がなくなっている。すでに技術の基準となっている。
専門技術戦略はタイミングが必要である。新しい産業、新しい習慣、新しい市場、新しい動きが生まれる時期にスタートしなければならない。例えばアメリカでは、長年に渡って航空機用プロペラを製造するメーカーは二社しかなく、いずれも第一次世界大戦前に設立されている。また、専門技術戦略の使用にあたっては、どこかで何か新しいこと、付け加えるべきこと、あるいはイノベーションが起こらなければならない。
上記を踏まえてこの戦略を行う条件をまとめると以下の三つがある。

1. 新しい産業、市場、傾向が現れたならばできるだけ早く専門技術による機会を体系的に探さなければならない。
2. 独自かつ異質の技術を持たねばならない。
3. 専門技術戦略によってニッチの確保に成功した企業は、たえずその技術の向上に努めねばならない。常に一歩先んじ、自らの手によって自らを陳腐化していかねばならない。

また、専門技術戦略には以下の三つの厳しい限界もある。

1. 的を絞らざるを得ない。
-> 自らの支配的地位を維持するには、自らの狭い領域や専門分野だけを見ていかねばならない。

2. 他の者に依存しなければならない。
-> 製品やサービスが部分品であり、消費者に知られていないということは強みであるが弱みでもある。

3. 専門技術が一般化してしまうという最も大きな危険がある。
-> 専門技術が一般化してしまうと優位性がなくなってしまう。

一方で、上記の限界の枠内では専門技術による地位は極めて有利である。特に急速に成長しつつある技術、産業、市場では最も有効な戦略であり、機会とリスクの比が最も有利になる。

 

1-4. 専門市場戦略(本の内容の要約)
専門技術戦略が製品やサービスについての専門知識を中心に構築されるのに対し、専門市場戦略は市場についての専門知識を中心に構築される。他の点においては両者はほとんど同じである。具体例としては、「西欧におけるクッキーおよびクラッカー用の業務用オーブンの過半が二つの中堅メーカーによって寡占になっていること」や、「第二次世界大戦後に旅行の大衆化が進むまでは、トラベラーズチェックトーマスクックアメリカンエキスプレスの二者により事実上独占されていたこと」などがあげられる。
専門市場は、「この変化にはニッチ市場をもたらすいかなる機会があるか、ほかに先駆けてそれを手に入れるためには何をなすべきか」を徹底的に問うことによって手にできる。
専門市場を取り扱うに当たっても専門技術を取り扱うのと同様に以下の三つの厳しい条件が伴う。

1. 新しい傾向、産業、市場について常に体系的な分析を行っていかねばならない。
2. 何らかのイノベーションを製品、サービスに加えねばならない。
3. 手に入れた地位を維持するにあたって、製品とサービスの向上、特にサービス向上のために休まず働かねばならない。

同様に戦略に限界もある。最大の敵は自らの成功であり、「専門市場が大衆市場になること」である。


1-5. Ch.18を読んでみての感想、考察
関所戦略という名付けがなかなか良いネーミングだと思いました。堅牢でありディフェンス時の要ではあるけれども、そこを占めているだけでは中規模な安定的な成功はできても大規模な成功には繋がらないというのを比喩として出すにはぴったりな表現だと思いました。


2. まとめ
ニッチ戦略については徹底的な市場のセグメンテーションを行うことで、シェアを占めて寡占できるところを探すという視点で見ていましたが、より具体的な論述が色々とされており非常に有意義な印象でした。
市場地位と戦略におけるニッチ戦略と多少異なる印象も受け、市場地位と戦略におけるニッチ戦略はCh.16、Ch.17にも一部見られた印象でした。あまり一元的に見ずに、いくつかの切り口を持っておくという構え方で理解しておくと良いのではと思われました。