Ch_17 ゲリラ戦略|『イノベーションと企業家精神』読解メモ #14

f:id:lib-arts:20190403170719p:plain

上記のドラッカーの「マネジメント」のエッセンシャル版の付章を読んで、他の著作も時代背景を踏まえながら読んでみたいと思ったので、1985年頃の著作である「イノベーション起業家精神」を読みながら読解メモをまとめていきます。

イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】 | P.F.ドラッカー 著/上田惇生 編訳 | 書籍 | ダイヤモンド社
#13ではCh.16の「総力戦略」についてについて取り扱いました。

#14ではCh.17の「ゲリラ戦略」について取り扱えればと思います。
以下目次になります。

1. ゲリラ戦略(Ch.17)
1-1. 冒頭部
1-2. 創造的模倣戦略
1-3. 柔道戦略
1-4. Ch.17を読んでみての感想、考察
2. まとめ


1. ゲリラ戦略(Ch.17)
1-1. 冒頭部(本の内容の要約)
「ゲリラ戦略」は「弱みへの攻撃」と解釈すると良い。企業家のための戦略としては創造的模倣戦略と柔道戦略の二つが該当し、それぞれ1-2と1-3で取り扱う。


1-2. 創造的模倣戦略(本の内容の要約)
創造的模倣は二つの矛盾した言葉により表現されているがぴったりの言葉であり、企業家はすでに誰かが行ったことを行う一方で最初にイノベーションを行った者よりもそのイノベーションの意味をより深く理解するがゆえにより創造的となる。具体例をあげるなら、IBM、P&G、セイコーなどが創造的模倣戦略を多く使ってきていると考えられる。
創造的模倣戦略では誰かが新しいものを完成間近まで作り上げるのを待った上で仕事に取り掛かり、短期間で顧客が望み満足し代価を払ってくれるものに仕上げ、直ちに標準となり市場を奪う。総力戦略と同じようにトップの位置を目指すが、リスクははるかに小さく、理由は創造的模倣を行うものが動き出す頃には市場が確立し製品が市場で受け入れられているからである。この段階では最初のベンチャーが直面した無数の不確定要素もほとんど明らかにされているか少なくとも分析し調べることができるようになっている。
創造的模倣は製品ではなく市場から、生産者ではなく顧客からスタートする。市場思考、市場追随であり、先駆者のシェアを奪い取るのではなく、先駆者が生み出しながら放っておいた市場を相手にする。すでに存在している需要を満たすのであって、需要そのものを生み出すのではないことに注意が必要である。この戦略は特にハイテク市場で機能し、理由としてはハイテクのイノベーションを最初に行う者は市場志向であることは少ないからである。技術志向、製品志向のため、自らの成功を誤って理解し、自らの生んだ需要に応えることができない。
創造的模倣は市場の支配を目指すがゆえに、パソコンや時計、鎮痛剤など、完結した製品、工程、サービスについての戦略に適しており、総力戦略ほどには大きな市場を必要としない。一方で創造的模倣は、鋭敏な触覚、柔軟さ、市場への即応性、そして何よりも厳しい仕事と膨大な努力を必要とする。

 

1-3. 柔道戦略(本の内容の要約)
ソニートランジスタの特許取得から最初のポータブルラジを世に出すまでの流れは予期せぬ成功の拒否と利用の古典的な例であるが、日本企業はこの戦略をなんども使いその度に成功しアメリカ企業を驚かせてきたことは注意が必要である。アメリカの大手電機メーカーでは、RCAやGEなどの業界を代表するリーダー企業の発明ではないという理由でトランジスタの利用を拒みビジネスチャンスを棒に振った。同様の事象がテレビ、クォーツ・デジタル時計、コピー機などでも起きた。ここから得られる教訓としては、日本企業はアメリカ企業に対し柔道戦略をとることによって何度も成功してきたということを理解せねばならない。
新規参入者が柔道戦略を利用して急成長するケースがどうして何度も決まってしまうかは、先行者に共通して見られる以下の五つの悪癖がある。

1. NIH(Not Invented Here:自分たちの発明ではない)
-> 自分たちが考えたもの以外はろくなものがないという傲慢さゆえに、新しいイノベーションを鼻であしらってしまう。

2. いいとこ取り
-> 最も利益のあがる市場の一部分だけを相手にすることで、競合が参入する市場や機会を提供してしまう。

3. 価値についての誤解
-> 製品やサービスの価値は供給者が作るものではなく、顧客が引き出し対価を払うものであるという認識が抜けてしまっている。

4. 創業者利益なる錯覚
-> トップの地位を確立している者にとって大きな利益に見えるものも、実際は数年後に覇権を争うべき新規参入者に与える補助金になってしまう。

5. 多機能の追求
-> 製品やサービスの最適化ではなく最大化を求めてしまう。すでに地位を確立している企業によく見られ、かつ必ず凋落に繋がってしまう。

柔道戦略を使うものはトップ企業が本気で守ろうとしない海岸の一部を確保し、そこで市場と売り上げを手に入れると次の一部を確保し、やがては島全体を確保する。しかも何度も同じ戦略を取る。
柔道戦略が特に成功する状況としては以下の三つがある。

1. すでに地位を確立しているトップ企業が予期せぬ成功や失敗を取り上げず、見過ごしたり無視したりするとき。
2. 新しい技術を市場に導入した者が古典的な独占体として行動することで、地位を利用し市場のいいとこ取りをし、創業者利益を手にしているとき。
3. 市場や産業が急速に構造変化するとき。

柔道戦略を使うには、業界、取引先、商慣習、経営政策の分析からスタートし、しかるのちに市場を調べ、柔道戦略に対する抵抗が最も小さく最も成功しそうな分野を探すと良い。参入にあたっては価格や優れたサービス面に加え若干の差別化が必要である。
柔道戦略はトップの地位を目指すものでありながらトップ企業と正面切って戦うことはしないので、柔道戦略はゲリラ戦略の一つである。


1-4. Ch.17を読んでみての感想、考察
創造的模倣は大手企業が行うリーダーシップ戦略に近い印象でした。とにかく後発で良いのでブランド力で追い上げていくというのは資本力がある会社に適している戦略だと思います。
柔道戦略は中堅企業の事業立ち上げチームなどで仕事をしていた際に、仕事を行うにあたって意識していたなと思われました。だいたいその会社よりもうまくいっている企業の2~3社のビジネスモデルを徹底的に分析すると必ず穴があるので、そこを一点突破を図ることで、市場を書き換えることが可能です。業界のリーダー企業というよりは2〜4番手のチャレンジャーのポジションにいる会社が取ると良い戦略なのではと思いました。


2. まとめ
戦略についてはリーダーシップ戦略、チャレンジャー戦略、ニッチャー戦略で理解していたので、今回の4つの戦略の切り方はこれはこれで非常に参考になりました。この辺はあくまでも整理にあたっての軸の話なので、多面的な切り口から分析できるようになるのが重要なのではないかと思われました。