Ch_13 既存企業における企業家精神[後半]|『イノベーションと企業家精神』読解メモ #10

f:id:lib-arts:20190403170719p:plain

上記のドラッカーの「マネジメント」のエッセンシャル版の付章を読んで、他の著作も時代背景を踏まえながら読んでみたいと思ったので、1985年頃の著作である「イノベーション起業家精神」を読みながら読解メモをまとめていきます。

イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】 | P.F.ドラッカー 著/上田惇生 編訳 | 書籍 | ダイヤモンド社
#9ではCh.12の「企業家としてのマネジメント」とCh.13の「既存企業における企業家精神」の前半部について取り扱いました。

#10ではCh.13の「既存企業における企業家精神」の後半部について取り扱えればと思います。(分量的に後半部としただけで、内容の繋がりをそこまで考慮していない分け方となっています)
以下目次になります。

1. 既存企業における企業家精神(Ch.13_後半)
1-1. イノベーションの評価
1-2. 企業家精神のための組織構造
1-3. 評価測定の方法
1-4. 企業家精神のための人事
1-5. 企業家精神にとってのタブー
1-6. Ch.13[後半]を読んでみての感想、考察
2. まとめ


1. 既存企業における企業家精神(Ch.13_後半)
1-1. イノベーションの評価(本の内容の要約)
既存の企業が企業家精神を発揮するには、企業自らの業績評価にイノベーションの成果についての評価を組み込まなければならない。人も組織も期待に沿って行動するため、企業家的な成果を評価することで初めて企業家的な行動が生まれる。
自らの業績評価にイノベーションの成果を入れている企業は驚くほど少ないが、イノベーションの成果の測定あるいは少なくともその評価を企業自らの業績評価に組み込むことは特に難しいことではなく、以下の3つのように実現していくことができる。

1. 一つ一つのプロジェクトについて成果を期待にフィードバックをする。
-> このようにすることで、自らの計画能力と実行能力の質と信頼性を知る必要がある。

2. イノベーションに関わる活動全体を定期的に点検していく。
-> 数年ごとにどのイノベーションに力を入れ推進するかや新しい機会をもたらすかについて活動を定期的に振り返ると必要がある。

3. イノベーションの成果全体を評価する。
-> イノベーションに関わる目標、市場における地位、企業全体の業績との関連において評価する必要がある。


1-2. 企業家精神のための組織構造(本の内容の要約)
#9と#10でここまでまとめてきた経営政策と具体的な方策が揃って初めてイノベーションと企業家精神が可能になる。反面イノベーションを行うのは人であり、人は組織の中で動くため、イノベーションを行うにはそこに働く一人一人が起業家になりうる構造が必要である。報酬、褒賞、人事を起業家精神に報いるものにし、起業家精神を阻害するものにしてはならない。
新事業は既存の事業から分離して組織しなければならず、企業家的な事業を既存の事業を担当する人たちに行わせてはならない。その理由としては以下の二つがある。

1. 既存の事業は、それに責任を持つ人たちから膨大な時間とエネルギーを奪うため。
-> 既存の事業は継続させるためにコミットするに値する価値があるしその必要性が皆で共有されているので、新規事業はそれと比較するとつまらないものに見えてしまいよくない。

2. 新規事業にかかる負担を軽くするため。
-> 会計、人事、報告のシステムが確立している既存の事業に比べ新規事業は整っていないため、同じ評価基準で評価してはならない。


1-3. 評価測定の方法(本の内容の要約)
イノベーションの収益パターンは既存の事業とは異なり不確実性を伴うものではあるが、真に企業家的な企業は、自らの産業、技術、市場におけるイノベーションのパターン、リズム、タイムスパンを知っているものである。
例えばとあるイノベーション志向の銀行では、海外で子会社を設立するにあたって、少なくとも三年は投資を続けるべきで、四年目で単年度の収支を合わせ、六年目の中頃までには投資した資金を全て回収する必要があるというものである。また六年経っても投資を続けなければならないのであればそのイノベーションは失敗であり撤退すべきである。ここでこの撤退は企業家精神や創造性を奪う結果にならないかという疑問が生じるが、大局的に判断して差し支えないかと思われる。
また、企業家精神についてはトップマネジメントの個性や姿勢が文献で取り上げられることが多いが、実際はそうではないと思われ理由としては中堅企業でさえすでに何かを実行するにあたっては大勢の人たちを必要とするからである。さらに、マネジメントを組織の中に確立せずに個人に依存しがちだと、創業者が退いた後も企業家的であり続けることができない。
このようにイノベーションからいかなる成果を期待すべきであり、期待できるかを理解して、初めてイノベーションのための活動をコントロールすることが可能になる。


1-4. 企業家精神のための人事(本の内容の要約)
イノベーションと企業家精神のためにいかに人事を行うかについて取り扱っている文献はたくさんあるが、それらの議論にはほとんど意味がないと思われる。イノベーションと企業家精神の原理と方法は誰でも学ぶことができるので、ほかの仕事で成果をあげた者は企業家としての仕事も立派にこなすことができる。
既存の企業において企業家として優れた仕事をする人たちは、通常それ以外に日常のマネジメントでも能力を示している人たちであり、イノベーションを行うことと既存の事業をマネジメントすることの両方を行えると見て良い。


1-5. 企業家精神にとってのタブー(本の内容の要約)
既存の企業が企業家たるにあたって行なってはならないことがいくつかあるので、それを以下にまとめる。

1. 管理的な部門と企業家的な部門を一緒にしてはならない(最も重要なタブー)
-> 既存のもののための原理や方法を変えることなく企業家的であろうとしても無理である。

2. 得意とする分野以外でイノベーションを行おうとしてはならない
-> 理解していない分野で新しい試みを行うのは非常に難しい。

3. ベンチャーを買収することによって企業家的になろうとしてはならない
-> 買収によって従来のマネジメントチームが抜けうることを想定すべきで、買収するのであれば買収先の企業にかなり早い段階からマネジメントを送り込まない限り成功しない。


1-6. Ch.13[後半]を読んでみての感想、考察
1-4の企業家精神のための人事で、通常業務の評価ではかるというのは非常に面白い観点でした。特に人の和が必要な事業組織ではある程度の人数を巻き込んでいくにはマネジメント能力が高い人の方が望ましいと思います。
また、1-5のベンチャーの買収についても心理状況を分析したなかなか面白い見方だなと思いました。


2. まとめ
イノベーションベンチャー的な印象が強い言葉ではありますが、既存の企業におけるイノベーションを取り扱う視点は抜けがちなので非常に参考になる見方でした。
細かい是非は置いといてなかなかここまで考察している文献も少ないので、読むことができて非常に満足のいく章でした。