Ch_10〜11 アイデアによるイノベーション&イノベーションの原理|『イノベーションと企業家精神』読解メモ #8

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上記のドラッカーの「マネジメント」のエッセンシャル版の付章を読んで、他の著作も時代背景を踏まえながら読んでみたいと思ったので、1985年頃の著作である「イノベーション起業家精神」を読みながら読解メモをまとめていきます。

イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】 | P.F.ドラッカー 著/上田惇生 編訳 | 書籍 | ダイヤモンド社
#7ではCh.9の「新しい知識を活用する|第七の機会」について取り扱いました。

 #8ではCh.10の「アイデアによるイノベーション」とCh.11の「イノベーションの原理」について取り扱えればと思います。
以下目次になります。

1. アイデアによるイノベーション(Ch.10)
1-1. あまりの曖昧さ
1-2. その騎士道
1-3. Ch.10を読んでみての感想、考察
2. イノベーションの原理(Ch.11)
2-1. イノベーションの原理と条件
2-2. イノベーション三つの「べからず」
2-3. イノベーションを成功させる三つの条件
2-4. Ch.11を読んでみての感想、考察
3. まとめ


1. アイデアによるイノベーション(Ch.10)
1-1. あまりの曖昧さ(本の内容の要約)
イデアによるイノベーションは、他のあらゆる種類のイノベーションを合わせたよりも多い。10の特許のうち7つか8つはこの種のものであり、企業家や企業家精神についての文献で取り上げられているジッパー、ボールペンなどの新事業の多くがアイデアに基づく。
イデアイノベーションの機会としてはリスクが大きく、成功する確率は最も小さく、失敗する確率は最も大きい。この種のイノベーションによる特許のうち、開発費や特許関連費に見合う稼ぎがあるものは100に1つもなく、使った費用を上回る稼ぎがあるものは500に1つである。しかもアイデアのどれに成功のチャンスがありどれに失敗のリスクがあるかは誰にもわからない。アイデアによるイノベーションの予測が難しく、かつ失敗の確率が大きい原因は明確で、そもそもアイデアなるものがあまりに曖昧であることに起因する。
これに対し、計画的に行動する企業家は、明確な目的意識を持ってイノベーションのための七つの機会を分析するべきであり、これらの機会ついてだけでもなすべきことは十二分にあり機会は到底利用しきれないほどある。企業家精神についての諸々の文献が、イノベーションそのものではなく、ベンチャービジネスの設立とそのマネジメントの問題だけを扱っているのはそういった背景がある。


1-2. その騎士道(本の内容の要約)
1-1でまとめたことに似ているが、再現性の面の困難からアイデアによるイノベーションを促す上で社会がなしうることはほとんどない。理解しえないものを奨励することはできない。反面、少なくとも社会は、そのようなイノベーションを邪魔したり、罰したり、困難にしたりしてはならない。
イデアによるイノベーションは、いわばイノベーションと企業家精神の原理と方法の体系における付録である一方で、結果が出ている際は高く評価され報いられねばならない。それは社会が必要とする資質、行動力、野心、創意を代表する。


1-3. Ch.10を読んでみての感想、考察
マスメディアなどで、「主婦が発明」などと取り上げられているものに近いのではと思いました。確かにこの辺は再現が難しいので、誰かがうまくいった例を真似てもうまくいかないと思います。一般解というよりは特殊解的で、演繹的なというよりはヒューリスティックな取り組みが必要だと思います。
1-2でまとめた内容も非常にしっくりくる内容でした。取り組み自体は評価も奨励も行う必要はない一方で、結果が出たケースについては真摯に評価する必要があるというのは必要な考え方だと思います。誰かが成功した二番煎じなども取り組みとして注目されたりすることもありますが、そうではなくうまくいったものだけ評価するというのは重要だと思います。というのも、再現性のない成功というのはやっかみなどもかいやすく、うまくいってないケースと一まとめにされ正当に評価されない時もあるためです。うまくいったケースが評価されないのはおかしいので、非常にバランスのとれた論述だと思いました。

 

2. イノベーションの原理(Ch.11)
2-1. イノベーションの原理と条件(本の内容の要約)
医療における奇跡的な回復などは現実として受け入れる一方でそれらの奇跡的な回復を医学書に載せ学生に講義する者はいないのと同様に、目的意識、体系、分析と関係なく行われる勘によるイノベーションや天才の行うイノベーションは再度行うことはできないので、方法論として提示し論ずるには値しない。
イノベーションについての方法論として論ずるに値する原理について以下にまとめる。

1. イノベーションを行うには機会の分析から始めなければならない。
-> 分野や種類が異なる中で、七つの機会全てを体系的に分析し、機会を体系的に探す必要がある。

2. イノベーションとは理論的な分析であるとともに知覚的な認識である。
-> 右脳とともに左脳を使う、数字とともに人を見るなど、イノベーションを行うにあたっては外に出て、見て、問い、聞かねばならない。

3. イノベーションに成功するには焦点を絞り単純なものにしなければならない。
-> 一つのことに集中しなければ焦点がぼけるので、単純でなければうまくいかない。イノベーションに対する最高の誉め言葉は「なぜ、私には思いつかなかったか」である。

4. イノベーションに成功するには小さくスタートしなくてはならない。
-> 大掛かりな構想はうまくいかず、限定された市場を対象とする小さな事業としてスタートしなければならない。さもなくば調整や変更のための時間的な余裕がなくなる。

5. 最初からトップの座を狙わなければならない。
-> 産業や市場において支配的な地位を狙うものから、プロセスや市場において小さなニッチを狙うものまで色々とあるが、何らかの意味でトップを狙うものでなければ競争相手に機会を与えるだけに終わる。


2-2. イノベーション三つの「べからず」(本の内容の要約)
三つの「べからず」について以下にまとめる。

1. 凝りすぎてはならない。
-> 大きな事業にしたいのであれば、イノベーションの成果は大勢いる普通の人間が利用できるものでなくてはならず、組み立て方や使い方のいずれについても、凝りすぎたイノベーションはほとんど確実に失敗する。

2. 多角化してはならない。
-> イノベーションには核が必要であり、チーム内で共通の核を互いに理解していなければならない。多様化や分散はこの統一を妨げる。

3. イノベーションは未来ではなく現在のために行わねばならない。
-> 現時点で直ちに利用できなければアイデアだけでとどまってしまい、アイデアだけでは不滅の価値を持ち続けることは少ない。


2-3. イノベーションを成功させる三つの条件(本の内容の要約)

イノベーションを成立させるための三つの条件を以下にまとめる。

1. イノベーションは集中しなければならない。
-> たとえ卓越した能力の持ち主だったとしても、異なる分野で同時にイノベーションを行うことはほとんどない。イノベーションには他の仕事と同様に才能や素地が必要であるが、イノベーションはあくまで意識的かつ集中的な仕事であるため、勤勉さ・持続性・献身を必要とする。これらがなければいかなる知識も創造性も才能も無駄となる。

2. イノベーションは強みを基盤としなければならない。
-> イノベーションに成功する者はあらゆる機会を検討した上で自分たちの組織において最も適した機会はどれかを考える。イノベーションにおいては知識と能力の果たす役割が大きくリスクを伴うため、イノベーションほど自らの強みを基盤とすることが重要なものは少ない。また相性も必要であり、組織にとって重要があって意味がある内容でなければならない。

3. イノベーションはつまるところ経済や社会を変えねばならない。
-> 消費者の行動に変化をもたらさねばならず、働き方や生産の仕方なども同様である。イノベーションは市場にあって市場に集中し、市場を震源とせねばならない。

 

2-4. Ch.11を読んでみての感想、考察
できているところとできていないところが色々とあったので非常に参考になりました。
2-1の3でまとめた単純化や、2-2の2でまとめた多角化、2-3の1でまとめた集中はどれも似たような話だと思うのですが、いつもこの辺の考えが抜けがちになるので、今後は意識すべきだと思いました。
どうしても周りの対応を待つのがストレスで全方位戦略を取りたくなってしまい、手が回り切らないということがよくあるのでこの辺は注意しなくてはならないなという印象です。


3. まとめ
これまで考え方としてできていた点と抜けていた点が色々とわかったので非常に参考になりました。
多角化や散漫に陥りがちなのがよく失敗する要因なので、この辺は気をつけたいなと思いました。