Ch_3 情報技術がもたらす競争優位|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #6

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#5では第2章の『戦略とは何か』の後編として、「戦略はトレードオフで持続する」以降の内容を取り扱いました。

Ch_2 戦略とは何か(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #5 - lib-arts’s diary

#6では第3章の『情報技術がもたらす競争優位』の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 情報革命が競争を変える
2. ITの戦略上の重要性
3. ITで競争の性質が変わる
4. 情報化時代の競争
5. 感想・まとめ


1. 情報革命が競争を変える(簡単な要約)
情報革命が経済を席巻しており、どの企業もその影響からは逃れられない。情報を入手し、処理し、伝達するためのコストが劇的に下がっていることにより、ビジネスのやり方が変化している。
情報革命が進んでいることは広く知られているが、その重要性について議論する人は少ない。経営陣の時間や投資資本がどんどん情報技術(IT)に飲み込まれていくことから、ITをEDP部門(電子データ処理部門)や情報システム部門だけに任せておけないことがわかり始めている。
Ch.3は情報革命という大きな課題に企業が対応できるようにすることを目的としており、具体的には下記の問いについて考えていく。

・ITの進展は、競争や競争優位の源泉にどのように作用するのか
・ITを活用するにはどのような戦略を選択すべきか
・競合他社がすでに行動を起こしているのであればそれはどのような意味を持つのか
・IT投資には様々なものが考えられるが、どれを最優先すべきか

これらの問いに答えるにはITが単にコンピュータを意味しないことを理解しておく必要がある。情報革命は下記の三点で競争にも極めて重大な影響を及ぼしている。

・情報革命は業界構造を変える。それにより競争のルールも変わる
・情報革命は競合他社を追い越す新たな手段を提供し、そこから競争優位が築かれる
・情報革命は全く新しいビジネスを生み出す。多くの場合それは既存業務の中から生まれる

 

2. ITの戦略上の重要性(簡単な要約)
ITは企業の運営の仕方を変える。下記で順を追って確認していく。
バリューチェーンと価値活動
競争においてITの役割を際立たせる要素が「バリューチェーン」である。バリューチェーンは企業が行う活動を技術的あるいは経済的価値によって分類したものである業界内の一企業のバリューチェーンは「バリューシステム」と呼ばれるより大きな流れの中に組み込まれており、バリューシステムにはサプライヤーバリューチェーンも含まれている。
バリューチェーン、バリューシステムにおける連動性によって、様々な相互関係が生まれ、これらの相互関係を最適化したり調整したりすることで競争優位を構築することができる。

・競争の範囲
競争優位を追求する上で企業間で差が生じるのは「競争の範囲」、すなわち活動の幅の広さが影響している。競争の範囲には主に次の四つの側面がある。

- セグメントの範囲(対象セグメントの種類)
- 垂直の範囲(垂直統合の度合い)
- 地理的範囲
- 業界の範囲(事業展開する上で関連する業界の種類)

バリューチェーンが変わる
ITはバリューチェーンのあらゆる部分に広がりつつあり、価値活動を行う方法や各活動間の連動性の性質を変え始めている。また、競争の範囲にも影響を及ぼしており、どのような製品やサービスで買い手のニーズに応えるかということも変えつつある。このような基本的な影響から、企業にとってITが他の技術とは異なる戦略的重要性を持つことを説明できる。
ITは各活動のやり方に影響を及ぼすだけでなく、新たな情報の流れを作り出すことにより、社内外の活動を結びつける連動性の能力を大きく向上させている。つまりITによって各活動の間に新たな連動性が生まれ、サプライヤーや買い手の活動と自社の活動がより密接になっている。

・変化の方向とスピード
ITの役割と重要性は業界によって異なる。たとえば銀行と保険会社はこれまでももっぱら情報を重要視してきたので、これらの業界が他の業界に先駆けてどこよりもデータ処理に取り組んだのも自然なことである。逆にセメント業界などでは情報処理も増えるだろうが、今後も物理的プロセスがメインであり続けると思われる。

 

3. ITで競争の性質が変わる(簡単な要約)
多くの業界を調査した結果、ITが次のように競争のルールを書き直しつつあることが判明した。

・ITの進歩によって業界構造に変化が生じている
・競争優位を構築する上でITはますます重要なツールになっている。ある企業がITを活用して競争優位を確立しようと動けば、そのライバルたちは業界リーダーの戦略的イノベーションを真似ようとし、その結果業界構造にも影響が及ぶ
・ITはこれまで存在しなかった新しいビジネスを生み出している。

この三点はそれぞれの業界におけるITのインパクトを理解し、効果的な戦略を立案する上で極めて重要である。

・業界構造が変わる
ITによって五つの競争要因それぞれが変化する可能性があり、したがって業界の魅力度も変わる。多くの業界においてITがその構造を変えつつあり、変化へのニーズとチャンスを生み出している。
ITの長所を理解し、またそれがもたらす影響に事前に対処するには、この新技術が業界構造に及ぼすであろう変化を注意深く観察しなければならない。

・競争優位への影響
いかなる企業においてもITはコスト面でも差別化の面でも競争優位に大きな影響を及ぼす。この新技術により、価値活動に影響が及ぶ企業、もしくは競争の範囲を変えて競争優位を獲得する企業が現れる。下記は三つの視点からこれについて見ていく。

(1) コストダウン
-> ITはパリーチェーンのどの部分であろうとそのコストを変えることができる。

(2) 差別化の強化
-> 買い手のバリューチェーンにおける当該企業とその製品の役割次第にもよるが、ITによって製品のカスタマイズによる差別化が可能となる。

(3) 競争の範囲の変化
-> ITによって、競争の範囲と競争優位の関係も変わる。ITを活用すれば、各活動を調整する能力は一地域でも全国規模でも、あるいはグローバル規模でも高まる。地理的にこれまで以上に広い範囲で事業展開することが可能になり、それによって競争優位が生まれる。

・新しいビジネスを想像する
情報革命は全く新しい業界を誕生させるが、これにあたっては下記の三つの道筋がある。

(1) ITによって新しいビジネスが技術的に可能になる
(2) ITによって新たな製品ニーズが生まれることで、全く新しいビジネスが創造される
(3) ITによって既存事業から新規事業が生まれてくる

 

4. 情報化時代の競争(簡単な要約)
情報革命がもたらすチャンスを活用するには下記の5つのステップを踏むと良い。

(1) 情報集約度を確認する
(2) 業界構造におけるITの役割を見極める
(3) ITがどこで競争優位をもたらすかを見つけ、検証する
(4) ITが新規事業をどのように生み出すのかを調査する
(5) ITを活用する計画を立てる

 

5. 感想・まとめ
#6では第3章の『情報技術がもたらす競争優位』についてまとめました。ITの普及を考慮した上での経営学について論じられており、非常に興味深い内容でした。
#7では第4章の『戦略とインターネット』について確認していきます。

Ch_7 n-step Bootstrapping|『Reinforcement Learning(by Sutton)』を読み解く #2

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強化学習に関しては概要の確認やDeep Q Network関連を中心とした論文の解説や実装の確認などをこれまで行ってきましたが、ベースの知識の再整理ということで『Reinforcement Learning(by Sutton)』をまとめていきます。

https://www.andrew.cmu.edu/course/10-703/textbook/BartoSutton.pdf

こちらのpdfは英語で書かれているものの、情報が豊富かつ非常にわかりやすく記述されているので、概要をつかんだ後に確認するにはちょうど良いです。
#1ではDeep Q-NetworkのLossのベースにもなっている、第6章のTemporal-Difference Learningについて取り扱いました。

Ch_6 Temporal-Difference Learning|『Reinforcement Learning(by Sutton)』を読み解く #1 - lib-arts’s diary

#2では第7章のn-step Bootstrappingについて取り扱います。(概要を掴むのが目的のため、全てのSectionは取り扱いません。あくまで読解メモとして参考にしていただき、詳細はpdfファイルをご確認いただけたらと思います。)
1. n-step Bootstrapping(Chapter7)
1-1. n-step TD Prediction(Section7.1)
1-2. n-step Sarsa(Section7.2)
2. まとめ


1. n-step Bootstrapping(Chapter7)
Chapter7の冒頭では"n-step Bootstrapping"がMonte Carlo MethodsとCh.6で取り扱ったTD methodsの双方の考え方の一般化として定義できるとされています。

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n-stepにおいてTD methodsを考えることにより、one-stepのTD methodとMonte Carlo methodの双方を一般化していけるとされています。二つの極端な手法(two extremes)がある場合は中間の(intermediate)手法がしばしばベストになりうるというのも書かれています。
またここでチャプターのタイトルにあるBootstrappingですが、Wikipediaでは"外部の入力を必要とせずに実行される、自己開始型のプロセス"とされています。

ブートストラップ - Wikipedia

強化学習においてはエージェントが自律的に環境に対し行動を行い、行動方針をアップデートしていくことをここではBootstrappingと呼んでいるようです。Chapter7を通して、Bootstrappingという記述はよく出てくるので先に抑えておく方が良いと思います。
大体の概要は把握できたので、各サブセクションの内容に入っていければと思います。


1-1. n-step TD Prediction(Section7.1)
1-1節ではSection7.1のn-step TD Predictionについて確認していきます。

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episodeが終わらないと学習を行うことのできないMonte Carloと、1ステップごとに学習を行うtemporal differenceの中間の(intermediate)手法として、1より大きいけど終点までは行かないところまでのステップの報酬を用いる手法を表現するにあたってn-stepの手法が紹介されています。

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概要についてはFigure7.1に図示されています。1-step TDやMonte Carlo(\infty-step TD)を含む形で段階的にn-step TDがあると考えておくと良さそうです。

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数式の表記としては、上記のように記述されています。まずstate-reward sequenceとして、S_{t}, R_{t+1}, S_{t+1}, R_{t+2}, .... , R_{T}, S_{T}を考え、Monte Carlo(\infty-step TD)、one-step-TD、two-step TDについてそれぞれ報酬(return)がまとめられています。

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また、Example7.1の例においてn-step TDの検証を行ったのが上記になり、この例ではn=4が\alphaの設定次第ではベストとなっているようです。


1-2. n-step Sarsa(Section7.2)
Section7.2ではn-step Sarsaについてまとめられています。

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まず冒頭の記述ですが、predictionとcontrolに着目すると良いです。Section7.1のn-step Predictionではstate-valueについていたのでprediction、Section7.2ではn-step Sarsaではaction-valueについて考えるのでcontrolとしていることは把握しておく必要があります。Deep Q-Networkなどの文脈で時折controlと出てくるのもaction-valueについて考えるためだと思われます。

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数式や図について確認すると、基本的にSection7.1のn-step TD Predictionと変わらないことが確認できます。


2. まとめ
#2ではChapter7のn-step Bootstrappingについて取り扱いました。Bootstrappingやprediction、controlなどいまいちしっくりきていなかった表現について色々と確認できたので非常に有意義でした。
#3ではChapter8のPlanning and Learning with Tabular Methodsについて取り扱っていきます。

Ch_2 戦略とは何か(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #5

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#4では第2章の『戦略とは何か』の前編として、「戦略とは他社と異なる活動に宿る」までの内容を取り扱いました。

Ch_2 戦略とは何か(前編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #4 - lib-arts’s diary

#5では第2章の『戦略とは何か』の後編として、「戦略はトレードオフで持続する」以降の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 戦略は「トレードオフ」で持続する
2. 活動の「適合性」が競争優位と持続性を強化する
3. 戦略を再発見する
4. 感想・まとめ

 

1. 戦略は「トレードオフ」で持続する(簡単な要約)
独自のポジションを選択するだけでは、持続的優位は保証されない。高い価値が得られるポジションならライバルが真似ようとする。模倣の方法は次の二つのうちのどちらかである。

1) 自らを好業績企業と重ね合わせるように、ポジショニングし直す
2) 両天秤をかけ、既存のポジションを維持しながら、うまく行っているポジションのいいとこ取りをする

トレードオフは持続性優位の条件
戦略ポジションは他のポジションとの間にトレードオフが存在するものでなければ持続性がない。トレードオフはある活動とある活動が相容れない時に生じるもので、何かを増やすと別の何かが減るという状態のことである。
トレードオフがあるために企業はあれかこれかを選ぶ必要がある。そのため、自社のポジションにトレードオフがあればリポジショニングや両天秤で同じポジションを狙ってくる他社から自社を守ることができる。

トレードオフが生まれる三つの理由
トレードオフが生じる理由は三つあり、下記にまとめる。

1) イメージや評判の一貫性
-> ある価値を提供することで知られている企業が相容れないものを並行して売ろうとすれば信頼を失い、顧客を混乱させ、かつての評判までも傷つけてしまう。

2) 活動の一貫性
-> 他社とは異なるポジションを選択することで、それにふさわしく活動を調整することになり、製品の仕様、設備、従業員の行動、スキル、マネジメントシステムも変わってくるがそこにはトレードオフが存在する。

3) 調整と統制の限界
-> ポジショニングを一つ選べばそれにつれて組織上の優先順位も明らかになる。しかしあらゆる顧客にあらゆることを提供しようとする企業では、社員たちは具体的なフレームワークがないまま日々の業務上の判断を下すことになるため、社内のあちこちで調整と統制の混乱が生じかねない。

ポジショニングのトレードオフは競争にはつきものであり、戦略の本質である。トレードオフゆえに選択の必要性が生じ、自社が提供するものを意図的に制限する必要が生じる。また、トレードオフが存在することで、リポジショニングや両天秤によって模倣しようとする競合他社の戦略が弱まり活動の価値が下がるため、模倣を食い止める効果がある。

トレードオフのない戦略に価値はない
一般的にコストと品質の間にトレードオフがないという状態は、企業の活動に重複や無駄があったり、統制がおざなりだったり、正確さに欠けていたり、調整が不十分だったりする時である。企業がベストプラクティスを実現している時にはコストと差別化はトレードオフとなる。
ここ10年、業務効果の大幅な向上の中で、マネジャーたちは「トレードオフは解消することが望ましい」という考え方を身につけてきたが、実際は逆でトレードオフがなければ持続的優位は獲得できない。その位置に留まるにはますます速く走り続けなくてはならない。

 

2. 活動の「適合性」が競争優位と持続性を強化する(簡単な要約)
どのポジショニングを選択するかによって、どのような活動を行うのか、各活動をどのように組み合わせるのか、またどのように関連させるのかが決まる。業務効果とは、個々の活動や機能を実施する際の卓越性であり、戦略とは様々な活動や機能の組み合わせである。
競争優位の源は各活動を一つのシステムにまとめ、その全体を包含したものであり、単なる部分の寄せ集めではない。この全体のシステムを「適合性」と呼ぶが、この「適合性」によって、各活動が最強度で繋がった強力なバリューチェーンが生まれ、これが模倣者への障壁となる。優れた戦略を有する企業の各活動は、相互に補完し合い、真の経済価値を創出している。このような戦略上の適合性から競争優位と優れた収益性が生み出される。

・適合性の三種類
適合性はポジションの独自性を高め、トレードオフを増幅させることができる。適合性には三種類あり、これら三つは重なり合う部分がある。

1) 戦略と活動のシンプルな一貫性
-> ある活動と戦略と戦略全体の間の「シンプルな一貫性」という意味での適合性

2) 活動の相互補完性
-> 「各活動が相互に補強し合う」という意味での適合性

3) 労力の最適化
-> 活動間の相互補完性を超える、「労力の最適化」という意味での適合性

これら三つの適合性全てに置いて、個々の部分ではなく、全体が重要である。競争優位の拠って立つ基盤は「活動システム全体」である。企業の強みは様々な機能や活動にまたがり、ある強みは他の強みと関連している。

・適合性が持続性を生む
活動間の適合性は競争優位の基礎となるだけでなく、持続可能性の基礎ともなる。競合他社にすれば、相互に関連している活動システムを完璧に模倣するのは、ただ営業手法を真似たり、同様のプロセス技術を導入したり、製品に同じ特徴を取り入れたりするより難しい。活動システムに基づくポジショニングは個々の活動だけに基づくポジショニングよりもはるかに持続可能性が高い。ある企業のポジションが第二もしくは第三の適合性による活動システムに基づくものならば、その優位性は一層持続性が増すように思われる。
最も成功しやすいポジションは、その活動システムがトレードオフの存在で守られ、ライバル企業のシステムと相容れないようなポジションである。個々の活動をどのように構成し、どのように統合するかは戦略ポジショニング次第である。
戦略とは何かという問いへの答えとしては、戦略とは企業の活動間の適合性を作り出すことにある。活動間に適合性がなければ、メリハリの効いた戦略も実現しなければ持続可能性もない。

 

3. 戦略を再発見する(簡単な要約)
「多くの企業に戦略がないのはなぜか」、「マネジャーはなぜ戦略の選択から逃げるのか」、「以前に立案した戦略があってもなぜそれをありきたりなもの、曖昧なものにしてしまうのか」、これらの問いについて以下取り扱っていく。

・戦略の選択から逃げない
戦略への脅威は技術進歩や他社動向など、社外からやってくると一般的には考えられている。確かに外部の変化も問題だが、戦略を脅かすものは実は社内にある。
業務効果の追求はわかりやすくすぐ実施できるという魅力があるため、こちらの方向性に陥りがちだ。業務効果を改善するプログラムが優れた収益性につながるかについては判然としないが、前よりよくなることは間違いない。このような業務効果を競うレースに参加することで、多くのマネジャーがなぜ戦略が必要なのかという理由を見失ってしまう。トレードオフはやっかいであり、間違った選択を下して責められるより、何も選択しないほうが賢いと考えてしまう。自主性を発揮すべく権限委譲された社員たちは改善できるところをもれなく探し出そうと頑張るが、えてして大局観がなかったり、トレードオフを認識する視点が欠けていたりする。

・成長の罠を避ける
様々な理由の中で、戦略を機能不全に陥らせる最大のものはおそらく成長への欲求である。トレードオフやなんらかの制約は成長を阻害するものに見えてしまうため、マネジャーたちはこうした制約を少しでも減らそうとして戦略ポジションを曖昧にしておこうとする。
成長を追求する過程で妥協し、企業としての一貫性が損なわれると、独自の製品や対象顧客によって築いてきた競争優位が崩れてしまう。様々な方法を並行させて競争しようとすると、混乱を招き、組織内のモチベーションと基軸が揺らぐ。この際に利益は落ちるが売上が伸びているため、間違いに気づかないケースが多いので注意が必要である。

・利益を伴う成長を追求する
成長だけに注力すると、しばしば独自性が曖昧になり、妥協を生み、適合性を低下させ、ついには競争優位が弱体化していく。反対に戦略を維持し、強化する成長策は、戦略ポジションを掘り下げることに集中し、拡大したり妥協したりしないことである。
そのための一つの方法としては、現在の戦略の延長線上での活動をさらに強化し、競合他社が不可能だと諦めるか、コスト負担に耐えられないと思うような特長やサービスを提供することである。ポジションを掘り下げるとは、活動をより特徴的にし、適合性を高め、価値を認めてくれる顧客に向けて的確に戦略を伝えることに他ならない。

・リーダーシップの役割を再認識する
明確な戦略を考案したり、再構築する仕事は、組織を挙げて取り組むべき課題であり、その成否のカギを握るのはリーダーシップである。組織内に戦略の選択やトレードオフを拒む反対勢力が多数いる状況にあっては、これらに対抗し、戦略を正しい方向へと導く明確かつ知的なフレームワークが必要である。
ゼネラルマネジャーの仕事は個々の職能を管理する以上のものであり、その核となるのは戦略である。すなわち自社ならではのポジションを定義し、これを伝え、トレードオフを生み出し、活動間に適合性を作り出す。
リーダーの仕事の一つは組織のメンバーに戦略について教えることであり、「No」ということである。


4. 感想・まとめ
#5では第2章の『戦略とは何か』の後半の「戦略はトレードオフで持続する」以降についてまとめました。トレードオフ、適合性、持続性と戦略の遂行にあたって重要なポイントについてまとまっており有意義でした。
#6では第3章の『情報技術がもたらす競争優位』について確認していきます。

集合・確率&様々な関数(指数関数、対数関数)|高校数学の演習を通して理解する確率分布と最尤法 #1

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機械学習を理解するにあたって数学は必要かという質問はよく聞かれますが、程度によりますが最低限は必要だと答えるようにしています。最低限というのも色々と考え方がありますが、所見としては高校数学〜大学の教養過程の導入(完璧までいかなくてもOK)ほどは把握していないと直感的なイメージすら湧かないのでよくないと思います。
研究者でないのであれば理論書を完璧に理解しようというのも極端ですが、一方で数学を完全に避けて言葉だけで理解するというのもまた極端だと思います。そのため、難しすぎずそれによって得られる知見が多いのが、高校数学を中心とする範囲なのではと考えています。
分野としては、関数、微積、数列、極限、ベクトル、行列、確率、集合などは基礎的なレベルである程度掴んでおくのが望ましいと思います。

上記連載は、高校数学の演習を通して機械学習アルゴリズムの一つであるニューラルネットワークを理解しようというものです。簡単な6題の例題をもとにニューラルネットワークの仕組みに現れる基礎的な数学についてフォーカスしています。
上記ではニューラルネットワークを中心に取り扱いましたが、今回は確率分布と最尤法について新規で連載をスタートします。
#1では集合・確率と様々な関数(指数関数、対数関数)について取り扱います。
以下、目次になります。
1. 例題① 集合・確率
2. 例題② 確率と様々な関数(指数関数、対数関数)
3. まとめ

 

1. 例題① 集合・確率
1節では確率分布や最尤法について考えるにあたってのベースとなる、集合・確率について取り扱います。
集合・確率については以前のシリーズも取り扱ったので、当記事の解説だけで不足の場合は下記もご確認いただけたらと思います。

集合論と確率(概要と例題解説)|高校数学の例題解説&基本演習 #5 - lib-arts’s diary

集合論と確率(問題演習)|高校数学の例題解説&基本演習 #6 - lib-arts’s diary

ex.01
下記の集合においてP(A)P(B)P(A\cup{B})P(A\cap{B})をそれぞれ求めよ。ただし、全事象はUとして与えるものとする。
1) 事象A=\{1,2,3\}、事象B=\{2,3,4\}、全事象U=\{1,2,3,4\}
2) 事象A=\{1,1.5,2\}、事象B=\{1,2,3\}、全事象U=\{1,1.5,2,2.5,3\}
3) 1~20の自然数において、2の倍数(事象A)と3の倍数(事象B)、U=\{1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20\}

Answer.
1)
P(A)=\frac{3}{4}
P(B)=\frac{3}{4}
P(A\cup{B})=1
P(A\cap{B})=\frac{2}{4}=\frac{1}{2}
2)
P(A)=\frac{3}{5}
P(B)=\frac{3}{5}
P(A\cup{B})=\frac{4}{5}
P(A\cap{B})=\frac{2}{5}
3)
P(A)=\frac{10}{20}=\frac{1}{2}
P(B)=\frac{6}{20}=\frac{3}{10}
P(A\cup{B})=\frac{13}{20}
P(A\cap{B})=\frac{3}{20}

解説.
基本的には要素を数え上げることで問題を解いています。問題そのものもそうですが、確率分布を考えていくにあたってはこのPを用いた表記に慣れておくと良いので、そちらについて違和感のないようにしていただけたらと思います。ここで用いたAやBの事象を確率変数を用いた表現に変えることで確率分布の表現を行なっていきます。一旦Pを用いて確率を表記するこの記述に慣れていただければここでは十分です。

 

2. 例題② 様々な関数(指数関数、対数関数)
2節では確率分布の関数において用いられる指数関数や、最尤法(MLE; Maximum Likelihood Estimation)にあたって計算の関数を簡易化するのに用いられる対数関数など、基本的な関数について取り扱います。

ex.02
1) f(x)=2^xとした際の、f(1)f(2)f(4)f(-2)f(0)を求めよ。
2) f(x)=3^xとした際の、f(1)f(2)f(4)f(-2)f(0)を求めよ。
3) f(x)=e^xとした際の、f(1)f(2)f(4)f(-2)f(0)を求めよ。
4) f(x)=\log_{2} xとした際の、f(2)f(4)f(8)f(\frac{1}{4})f(1)を求めよ。
5) f(x)=\log_{10} xとした際の、f(10)f(100)f(10000)f(\frac{1}{100})f(1)を求めよ。

 Answer.
1)
f(1)=2^1=2
f(2)=2^2=4
f(4)=2^4=16
f(-2)=2^{-2}=\frac{1}{4}
f(0)=2^0=1
2)
f(1)=3^1=3
f(2)=3^2=9
f(4)=3^4=81
f(-2)=3^{-2}=\frac{1}{9}
f(0)=3^0=1
3)
f(1)=e^1=e
f(2)=e^2
f(4)=e^4
f(-2)=e^{-2}=\frac{1}{e^2}
f(0)=e^0=1
4)
f(2)=\log_{2} 2=1
f(4)=\log_{2} 2^2=2
f(8)=\log_{2} 2^3=3
f(\frac{1}{4})=\log_{2} 2^{-2}=-2
f(1)=\log_{2} 2^0=0
5)
f(10)=\log_{10} 10=1
f(100)=\log_{10} 10^2=2
f(10000)=\log_{10} 10^4=4
f(\frac{1}{100})=\log_{10} 10^{-2}=-2
f(1)=\log_{10} 10^0=0

解説.
指数関数、対数関数ともに慣れるまで反復するのが良いと思います。応用を考えるにあたって、指数関数も対数関数もそれぞれの示す挙動が便利なため多く用いられます。またそれぞれの性質として、指数関数は単調増加関数かつ0より大きい値が保証されていること、対数関数は定義域が0より大きく、単調増加関数であることを把握しておくと良いです。


3. まとめ
#1では確率分布や最尤法について理解するにあたってベースとなる集合・確率や基本的な関数として指数関数・対数関数について取り扱いました。
#2では確率関数のグラフ化と、掛け算と対数について取り扱います。

Ch_2 戦略とは何か(前編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #4

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以前読んだポーターの競争戦略についての本がわかりやすく非常に参考になったので、新シリーズでは「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていければと思います。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary
#3では第1章の『五つの競争要因』の後編として、「業界構造の変化」以降の内容を取り扱いました。

Ch_1 五つの競争要因(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #3 - lib-arts’s diary

#4では第2章の『戦略とは何か』の前編として、「戦略とは他社と異なる活動に宿る」までの内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 「戦略」と「業務効果」は違う
1-1. 業務効果追求の落とし穴
1-2. 業務効果とは何か
1-3. 生産性の限界線
1-4. ベストプラクティスはあっという間に広がる
1-5. 全ての企業が同質化する
2. 戦略は他社と異なる「活動」に宿る
2-1. サウスウエスト航空の戦略ポジショニング
2-2. イケアの戦略ポジショニング
2-3. 三種類の戦略ポジショニング
3. 感想・まとめ

 

1. 「戦略」と「業務効果」は違う(簡単な要約)
ポジショニングはかつては戦略の要とされてきたが、今日のように市場も技術も激しく変動する時代にあっては机上のものに過ぎない、と一蹴される。新たな教えに寄れば、いかなる市場ポジショニングであろうとすぐさまライバルに真似されてしまうため、競争優位も一時的に過ぎないとされている。
しかし、上記のような考えは事実の半分しか捉えていない危険な思い込みであり、多くの企業を共倒れの競争に向かわせている原因でもある。一部で「ハイパーコンペティション」と呼ばれるものは自ら招いたものであり、競争にパラダイムシフトが起こったからではない。このような誤解が生じているのは、「業務効果(operational effectiveness)」と戦略を区別していないことに原因がある。業務改善を促進するにあたって様々なツールが考案され、しばしば大幅な業務改善が実現したが、持続的な収益力にはつながらず多くの企業が落胆した。
さらに注意すべきこととして、業務効果を改善する際に用いられるマネジメントツールが少しずつ知らず知らずのうちに戦略に取って代わってしまったことである。そして経営陣がどれもこれも改善するように号令をかけたことで、企業は競争力を発揮しうるポジションから遠ざかっていった。


1-1. 業務効果追求の落とし穴(簡単な要約)
優れた業績を達成することは企業の究極の目標だが、そのためには戦略と業務効果の両方が欠かせない。差別化を図り、これを維持・継続した場合にのみ、ライバルに勝る業績が実現する。そのためには顧客にこれまで以上の価値を提供するか、これまで通りの価値をより低コストで提供するか、あるいはその両方を提供する必要がある。
これらの活動には言うまでもなくコストが伴う。そしてコスト優位はある種の活動を競合他社よりもより効率的に行うことで実現される。
この際に戦略ではなく、業務効果だけに目を向けてしまうことで収益性が下がる場合があり、これを1-2〜1-5で取り扱っていく。


1-2. 業務効果とは何か(簡単な要約)
業務効果とは、競合他社よりも類似の活動を上手に行うことである。一方で戦略ポジショニングは、競合他社とは異なる活動を行う、あるいは類似の活動を異なる方法で行うことである。
1980年代、日本企業は欧米企業に挑戦したが、その核心こそ業務効果の違いであった。業務効果において日本企業は欧米企業を大きくリードしており、低コストと高品質を同時に実現した。この点についてはじっくり検討する価値があり、理由としては競争に関する近年の考察はここを拠り所にしているからである。


1-3. 生産性の限界線(簡単な要約)
ここで「生産性の限界線(productivity frontier)」についてしばし考える。これは「ある時点における既存のベストプラクティスの全てをつなぎ合わせた曲線」である。生産性の限界線は個々の活動はもちろんのこと、関連する複数の要素から成る活動(例えば受注処理や製造)、さらには企業の活動全てにも当てはまる。業務効果を向上させると企業は生産性の限界線に近づいていく。
少なくともここ10年間、マネジャーの頭は業務効果の改善のことでいっぱいであり、無駄を排除し、顧客満足度を高め、ベストプラクティスを実現しようとした。
生産の限界線に近づくにつれて、企業のパフォーマンスは様々な次元で同時に改善されていく。1980年代、製品ラインの素早い切替という日本企業の手法を導入したメーカーは低コストと差別化の両方を同時に実現した。


1-4. ベストプラクティスはあっという間に広がる(簡単な要約)
とはいえ、高収益を実現するには、業務効果を継続的に向上させることが欠かせない。しかし、それを十分なレベルで実現できている企業は稀である。業務効果を武器に長きにわたり競争を制してきた企業などほとんどないし、ライバルの機先を制することも日に日に難しくなっている。その最大の理由はベストプラクティスはあっという間に広まるということにある。
業務効果をめぐる競争によって、生産性の限界線は外側に移動し、あらゆる企業が底上げされる。しかし、業務効果は間違いなく改善されるがどの企業も似たり寄ったりになる。そのため、業務効果の向上だけでは不十分である。


1-5. 全ての企業が同質化する(簡単な要約)
業務効果の向上だけでは不十分である第二の理由は、競争の収斂(様々なやり方で競争していた複数の企業が次第に同質化していくこと)である。品質、サイクルタイム、サプライヤーとの関係などの改善について、競合同士が互いに模倣しあえば戦略が収斂し、競争は勝者なきレースとなり、どこの企業も同じ道をたどることになる。業務効果のみを目標にした競争は、競合する全ての企業にダメージを与え、競争を制限しない限りやがて消耗戦に発展する。
この10年で業務効果は飛躍的に向上したが、その後、多くの企業が利益減に直面している。業務効果は次第に戦略の代わりになっていき、その結果としてゼロサム競争を生じ、価格の据え置きや引き下げによってコストへ圧力がかかった。このコスト圧力の生で、長期投資を諦めることになった。


2. 戦略は他社と異なる「活動」に宿る(簡単な要約)
競争戦略とは、他社との違いを打ち出すことである、あえて異なる活動を選択することで、価値を独自に組み合わせこれを提供することができる。


2-1. サウスウエスト航空の戦略ポジショニング(簡単な要約)
サウスウエスト航空は、価格や利便性を気にする旅客を対象とされているが、戦略の本質は活動にある。機内食を出さないや手荷物を運ばないなどによって独自に活動システムを構築し、破天荒で得がたい戦略おい辞書んを獲得している。


2-2. イケアの戦略ポジショニング(簡単な要約)
イケアの戦略ポジショニングも明快であり、イケアは低価格でデザインの良い家具を求める若い世代であり、このマーケティングコンセプトを実現するにあたり、価格とサービスのトレードオフに目をつけ取り組んでいる。販売員が店内を案内する代わりにイケアはわかりやすい店内展示を用意し、セルフサービスを採用している。

 

2-3. 三種類の戦略ポジショニング(簡単な要約)
戦略ポジションはその依拠するものによって三種類に分けられる。下記にそれぞれについてまとめる。

(1) バラエティ・ベース・ポジショニング
-> 業界の製品やサービスの中から一部を選んで提供するポジショニングである。顧客セグメントではなく、製品やサービスの組み合わせによるポジショニングなのでこのように呼ぶ。企業がその活動を通じて、業界で最も優れた製品やサービスを提供できる場合、経済的に正当化しうる。

(2) ニーズ・ベース・ポジショニング
-> ある顧客グループを選んだらそのニーズのほとんどあるいは全てに対応するポジショニングである。あるセグメントの顧客をターゲットにするという伝統的な考え方に近い。このポジショニングが必要になるのは、ニーズが異なるグループが存在し、それぞれにふさわしく活動を組み合わせることがニーズに応えるための最善策であるような場合である。

(3) アクセス・ベース・ポジショニング
-> アクセスの方法の違いによって顧客をセグメントするポジショニングである。ニーズは他の顧客と同じでも、アプローチするための最善の活動の組み合わせは異なるという点に基盤を置くポジショニングである。アクセスの方法は顧客の地理的所在地や規模に加え、顧客に最も効果的にアプローチするために通常とは異なる活動が必要となるその他あらゆる要素によって決まる。

上記三種類の戦略ポジションは相互排他的ではなく、重なる場合が多い。


3. 感想・まとめ
#4では第2章の『戦略とは何か』の前半として、「戦略とは他者と異なる活動に宿る」までについてまとめました。日本企業を例に、戦略と業務効果について論じているのはなかなか興味深く思われました。
#5では第2章の『戦略とは何か』の後半の「戦略はトレードオフで持続する」以降について確認していきます。

Ch_6 Temporal-Difference Learning|『Reinforcement Learning(by Sutton)』を読み解く #1

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強化学習に関しては概要の確認やDeep Q Network関連を中心とした論文の解説や実装の確認などをこれまで行ってきましたが、ベースの知識の再整理ということで『Reinforcement Learning(by Sutton)』をまとめていければと思います。

https://www.andrew.cmu.edu/course/10-703/textbook/BartoSutton.pdf

こちらのpdfは英語で書かれているものの、情報が豊富かつ非常にわかりやすく記述されているので、概要をつかんだ後に確認するにはちょうど良いと思われます。
#1ではDeep Q-NetworkのLossのベースにもなっている、第6章のTemporal-Difference Learningについて取り扱います。(概要を掴むのが目的のため、全てのSectionは取り扱いません。あくまで読解メモとして参考にしていただき、詳細はpdfファイルをご確認いただけたらと思います。)

1. Temporal-Difference Learning(Chapter6)
1-1. TD Prediction(Section6.1)
1-2. Advantages of TD Prediction Methods(Section6.2)
1-3. Sarsa: On-policy TD Control(Section6.4)
1-4. Q-learning: Offpolicy TD Control(Section6.5)
2. まとめ


1. Temporal-Difference Learning(Chapter6)
Chapter6の冒頭で"temporal-difference (TD) learning"の概要について触れられています。

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上記で色をつけた部分では、強化学習における中心的(central)かつ新規的(novel)なアイデアとしてTD Learningが紹介されています。TD learningは"Monte Carlo ideas"と動的計画法(DP; Dynamic Programming)の組み合わせであるとされています。ここで注意なのが、Section6.1で出てくるMonte Carlo methodとここでのMonte Carlo ideaは区別して考えるべきであるということです。それぞれの違いとしては、Monte Carlo ideaが環境のモデルなしで経験から直接的に学習する(learn directly from raw experience without a model of the environment's dynamics)ことを表しているのに対し、Monte Carlo methodではこの考え方をベースに、数式(6.1)のようにEpisodeが終わってから学習するというニュアンスも足されているということです。
解釈としては、Monte Carloというのは元々乱数生成に関する話で用いられており(Monte Carlo Sampling)、環境のモデルを元に解くのではなく、経験のサンプルを通して近似的に解くというニュアンスで用いられると考えるのが良いのではと思われます。従ってMonte Carlo methodは狭義、Monte Carlo ideaは広義の意味で用いられていると考えておくのが良さそうです。
また、DPは1ステップずつ帰納的に解いていくというイメージのため、Monte Carlo methodは違い、経験から学習はするものの、episodeではなく、step単位で学習していると整理しておくと良いと思います。詳細についてはこの後の1-1節で取り扱います。


1-1. TD Prediction(Section6.1)
1-1節ではSection6.1のTD Predictionについてまとめます。

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違いとしては基本的には上記の(6.1)式と(6.2)式を考えていくと良いです。それぞれ、(6.1)式がMonte Carlo Method、(6.2)式がTemporal-Difference Learningを表しています。それぞれの解釈としては、(6.1)式がG_{t}を将来の報酬和と考えているのに対して、(6.2)式ではR_{t+1}+\gamma V(S_{t+1})を将来の報酬和と考えています。

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(6.2)式のTemporal-Difference Learningについて考えていくと、上記のようにTD errorが導出されます。(6.5)式のTD errorをベースにDeep Q Network系(Rainbowなども含む)の学習が行われています。学習にあたっては単純に2乗誤差として用いることもできますが、外れ値(outlier)の影響を受けにくくするためにHuber Lossなどを用いることの方が多いのではという印象です。

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また、上記で書かれているように、Monte Carlo errorがTD errorsの和で表現されるのも抑えておくと良いです。将来の報酬和を用いてVを考える以上、この辺に関連が出てくるのは納得の内容ではと思います。


1-2. Advantages of TD Prediction Methods(Section6.2)
Section6-2ではTD Prediction Methodsの利点についてまとめられています。

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上記のようにTD methodsは環境モデルをベースにDPで解くのに比べて、環境のモデルを必要としない利点があるとされています。また、Monte Carlo Methodsと比べた際の利点としては、学習を行うにあたってepisodeの終わりまで待たなくて良いとされています。収束性についても議論されていますが、問題ないとされています。


1-3. Sarsa: On-policy TD Control(Section6.4)
Section6.4ではOn-policyの例としてSarsaについてまとめられています。

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まずは大枠から見ていきますが、Sarsaは上記のようにaction-value functionとしてQを導入しています。action-value functionは引数として状態のS_{t}のみを扱うstate-value functionとは異なり、状態のS_{t}と行動のA_{t}の二つを引数として取り扱います。(6.7)をstate-value functionと同様に考えていくと、TD errorとして下記が導出できます。
\delta_{t}=R_{t+1}+\gamma Q(S_{t+1},A_{t+1})-Q(S_{t},A_{t})
1-1節ではVを用いましたがQに変わっており、Deep Q NetworkのLossの数式にだんだん近づいてきたことがわかります。が、ここでQ(S_{t+1},A_{t+1})の取り扱いが方策(policy)に従うとされているために、若干わかりづらくなっています。この点を変更したのが、1-4で取り扱うOff-PolicyのアルゴリズムであるQ-learningです(SarsaのようなアルゴリズムをOn-Policy、Q-learningのようなアルゴリズムをOff-Policyと呼んでおり、この二つの用語はよく出てくるので抑えておくと良いです)。


1-4. Q-learning: Offpolicy TD Control(Section6.5)
1-4節ではSection6.5のQ-learningについて見ていきます。

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Q-learningは上記のように処理が記述されています。1ステップ先のQ関数をmaxを用いて表現することで、処理の簡略化を行なっています。Deep Q NetworkではこのQ-learningがベースとして用いられているので、抑えておきたいところです。


2. まとめ
#1ではChapter6のTemporal-Difference Learningについて取り扱いました。なかなかしっかりした整理がされている文献が少ないため、非常に参考になる内容でした。
#2ではChapter7のn-step Bootstrappingについて取り扱っていきます。

Ch_1 五つの競争要因(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #3

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以前読んだポーターの競争戦略についての本がわかりやすく非常に参考になったので、新シリーズでは「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていければと思います。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#2では第1章の『五つの競争要因』の前編として、「競争要因と誤解されやすい要素」までの内容を取り扱いました。

Ch_1 五つの競争要因(前編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #2 - lib-arts’s diary

#第1章の『五つの競争要因』の後編として、「業界構造の変化」以降の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 業界構造の変化
2. 優れた戦略の四条件
3. 競争と価値
4. 感想・まとめ

 

1. 業界構造の変化(簡単な要約)
業界構造は比較的安定しており、収益性の違いは時間が経過してもそれほど変わらないことをここまで見てきた。とはいえ、業界構造はたえず微調整が進行しておりたまにそれが突然大きな変化をもたらすこともある。
業界構造の変化は業界内側から生じることもあれば、外側から生じることもある。また、業界の潜在収益性を高めることもあれば低下させることもある。
五つの競争要因は業界が発展していく上で最も重要なものは何かを特定し、かつ業界の魅力度に影響を及ぼすのは何かを予測するためのフレームワークとなる。下記ではそれらについてまとめる。

・新規参入がもたらす脅威の変化
-> 参入障壁に変化が生じると新規参入者の脅威は高まることもあれば低下することもある。特許が切れた際に新規参入者が押し寄せてきたり、POSの導入によって中小の小売業者の参入が一層難しくなったりと、参入障壁の変化によって新規参入者の脅威は変化する。

サプライヤーまたは買い手の交渉力の変化
-> サプライヤーや買い手の交渉力を支えている要素が時間とともに変化すると、その影響力が増大したり低下したりする。グローバル化している白物家電業界では小売チャネルの統合によって圧迫されていたり、航空会社が航空券を顧客に直接販売できるようになったことで旅行代理店の手数料引き下げの圧力が大幅に高まったりしている。

・代替品の脅威の変化
-> 技術進歩によって新たな代替品が登場したり、コストパフォーマンスの比較優位が変化したりすることで、代替品の脅威も時間の経過とともに変化する。初期の電子レンジは大型でオーブンの代替品としてはお粗末だったが、技術進歩によって手強い代用品となったり、フラッシュメモリが容量の小さいハードディスクの有用な代用品となったりしている。入手しやすさや補完品生産者の動向によっても、代用品の脅威は変化する。

・新たな競争の出現
-> 競争は通常時間とともに激しさを増していき、業界が成熟すれば成長は鈍化する。業界内の慣行が定着し、技術が広がり、消費者の嗜好が絞られるに連れて、各社とも同質化してくる。そして業界の収益性が低下し、非力な企業は退出を強いられる。

 

2. 優れた戦略の四条件(簡単な要約)
業界の競争を理解することは、戦略立案の出発点である。五つの競争要因によって、業界の収益性がなぜ現在のレベルなのかということを説明することができ、その理由を理解することで自社の戦略に反映させることができる。
五つの競争要因によって、競争環境の最も重要な側面が明らかになる。それは企業の強みと弱みを評価する基準にもなる。すなわち、買い手、サプライヤー、新規参入者、競合他社、代替品に対する自社の立ち位置がわかる。
業界構造がわかれば、どのような戦略行動が自社に有利に働くのかが見えてくる。有意義な戦略行動には下記が含まれる。

・現在の競争要因により適切に対応できるよう、自社をポジショニングする
・競争要因における変化を予測し、自社の有利になるように活用する
・自社に有利な業界構造を新たに生み出すために各競争要因のバランスを図る

これらの可能性をうまく利用するものが最も優れた戦略と言える。以下を意識しておくと良い。

・最適なポジショニングを発見する
-> 戦略とは各競争要因に対する防衛策を講じること、あるいは各競争要因の影響が最も小さいポジションを業界内に見出すことと考えることもできる。五つの競争要因のフレームワークによって、業界におけるポジショニングのチャンスが明らかになるだけでなく、参入と撤退についても正しく分析できる。いずれも「この事業にはどれほどの可能性があるか」という難しい問いへの回答次第と言える。

・業界の変化を自社が有利になるように利用する
-> 戦略担当者が競争要因とその基盤をよく理解していれば、業界に変化が生じた際、戦略上有利なポジションを見極め、これを確保するチャンスが見えてくる。業界構造が流動的な時には、新しく有望な競争上のポジションが現れる可能性がある。業界構造が変化数rと、新たなニーズ、あるいは既存のニーズに応える新たな方法が生まれてくる。

・自らの力で業界構造を変える
-> 業界構造の変化で利益を得るのは、変化という避けがたい事態を認識し、それに対応する企業である。しかし企業は起こった変化に対応するだけでなく、自ら変化を起こすことができる。業界再構築を実現する方法は二つあり、(1)既存企業に有利になるように業界の収益性を再配分する、(2)プロフィット・プール(業界のバリューチェーンの各領域における利益の総和)全体を大きくする、である。

・自社の業界を正しく定義する
-> 五つの競争要因は企業が競争する業界(複数の場合もある)を定義するカギを握ってもいる。実際に競争が怒っている領域を含め、業界の境界線を正しく引くことで、収益性の源、そして戦略を必要とする適切な事業単位が明らかになると思われる。

 

3. 競争と価値(簡単な要約)
五つの競争要因は、競争に拍車をかける各種ドライバーを明らかにする。競争がライバル企業間だけのものではないと理解している戦略担当者なら、より広い範囲で競争上の脅威を見つけ出し、それに対応する手段を抜かりなく用意できると思われる。
また、業界構造を把握することは、経営者にとってだけでなく、投資家にとっても重要である。五つの競争要因は、その業界が本当に魅力的かどうかを明らかにするだけでなく、業界構造にプラスもしくはマイナスに作用する変化が顕在化する前に、それを予測する一助となる。競争について深く考えることは、純粋に投資を成功させる方法として、今日の投資分析の主流である財務予測やトレンド予測よりも強力である。
経営者と投資家が持続可能な収益性を推し進める同じファンダメンタルズに焦点を絞ることで、真の経済価値を創造する競争要因に目を向けることができ、企業の業績や経済全体が大きく向上すると思われる。


4. 感想・まとめ
#3では第1章の『5つの競争要因』の後半として、「業界構造の変化」以降についてまとめました。2節でまとめた「優れた戦略の四条件」の四条件が明示的に書かれていませんでしたが、サブセクションの4つを4条件とおいているのだとは思われました。
#4では第2章の『戦略とは何か』について確認していきます。