Ch_7 継続性 ー 戦略の実現要因|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #10

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本の選定などの経緯は#1にまとめました。

#1〜#6では第Ⅰ部の内容として第1章〜第3章の内容までを取り扱いました。

#7からは第Ⅱ部に入り、#7では第4章の「価値創造 ー 戦略の核」、#8で第5章の「トレードオフ ー 戦略のかすがい」、#9で第6章の「適合性 ー 戦略の増幅装置」についてまとめました。

#10では第7章の「継続性 ー 戦略の実現要因」について取り扱います。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. なぜ継続性が欠かせないのか?
3. 継続性には何が必要か?
4. 戦略は新しく生まれ、また進化する
5. 継続性のパラドックス
6. 感想・まとめ


1. 冒頭部
優れた戦略の第五の条件は、長期にわたる継続性である。戦略を作るそのほかの要素である、活動の調整、トレードオフ、適合性はどれも実現するのに時間がかかるため、継続性は戦略の実現要因として重要である。継続性がなければ組織はそもそも競争優位を生み出すことすら望めない。
昨今のビジネス文脈で組織を動かしていくにあたり、変化に気を取られがちであり、継続性は陳腐に見えがちではある。だが、変革を怠ることによる失敗と同様に変化しすぎることも失敗であるとポーターは述べている。継続性は重要であり軽視してはならない。
戦略を持つ(選択を行い制約を定義する)ことは、組織が自己変革する能力を損なうものではなく、むしろ戦略には適切なイノベーションを促す効果がある。


2. なぜ継続性が欠かせないのか?
戦略は、組織が市場をどのように攻略しようとするのかその取り組み方のあらゆる側面と関わりがある。そのため、戦略は複雑なものであり、浸透するのに時間のかかるものである。関係者がこの戦略を理解するには、時間が必要で、それに伴い無数の活動が戦略に合わせてよりよく調整され、活動間の連携性が高まっていく。戦略のこの側面は人に関わる問題であり、変化を受け入れ処理する能力に関わる問題である。
以下継続性がどのようにして競争優位を成り立たせるかをまとめる。

・継続性は企業のアイデンティティを強化する ー 企業のブランドや評判、顧客との関係を築く
・継続性があればこそ、サプライヤーや販売店などの社外の関係者が、企業の競争優位に貢献できる
・継続性は個々の活動を改善するとともに、活動全体の適合性を高める。組織は継続性のおかげで、戦略に即した独自の能力やスキルを強化できる

 

3. 継続性には何が必要か?
戦略の継続性を保つために組織が静止する必要はない。核となる価値提案が安定していれば、それを実現するための新しいやり方はいくらでも考案できるし、考案すべきだ。実際成功している企業はことさらに改革を行う必要がなく、それは物事を行う方法を絶えず手直ししているからである。
ウォルマートは創業から50年の間に販売品目は劇的に変化し、店舗の形式や体制には手が加えられ、生産性は継続的に控除したが、基本的な価値提案は変わっていない。ウォルマートはいまもブランド商品を毎日特売価格で顧客に提供し続けている。
本であげられているどの戦略の成功事例においても、変化を支えているのは方向性の継続である。安定性が最も求められるのは方向性であり、つまり基本的な価値提案、対象とするニーズの核、そして相対的価格である。

・不確実な状況での継続性
「戦略は将来予測の上に成り立っている」と考えがちだが、これは誤りであり、どんな素晴らしい戦略も特に詳しいまたは具体的な将来予測を元にしていることはまずない。例えば石油ショックをはじめとする様々な出来事に翻弄されてきた自動車業界において、BMWの戦略にこうしたこうした出来事に対する並外れた先見の明は必要なかった。
唯一必要なのは、今後五年ないし十年で相対的に堅牢なのはどの顧客やニーズか、という大まかな感覚である。戦略は、自らの選んだ顧客やニーズ、そしてこれらを適切な価格で満たすために必要なトレードオフがこの先もなくならないという暗黙の賭けともいえる。自社が対象として選んだニーズがなくならないという基本的な賭けを別とすれば、将来に関する「大胆な予測」は戦略に必要ないとポーターはいう。
昨今着目されている柔軟性については卓越した業績とのつながりが見えにくく、しっかり照準を合わせた戦略よりもニーズにうまく対応できるようには思えない。行動に「ヘッジ」をかけることで、何事にも全力で取り組まずに生半可で行うことが、高価格と低コストをもたらさないように思われる。
柔軟性は理屈の上では良さそうに聞こえるが、具体的な活動に落とし込んでみると、戦略なき柔軟性がなぜ凡庸を招くのか、その理由がよくわかる。そのような組織では調整が十分に行われず、トレードオフが存在せず、適合性を図ることもできない。これら全ては方向性を維持してこそ実現できる。

・何を変更すべきか?
戦略は到達点ではなく、道筋である。有効な戦略は動態的なものだ。戦略が定義するのは市場で期待される成果であって、それを達成するための手段ではない。戦略では方向性を維持することが欠かせないが、競争優位を維持するにはある種の変化が絶対に欠かせない。
この実現にあたっては、業務効果の延長線上に常にいる上で、価値提案を拡張する方法やよりよく実現できる方法がある場合には変革が必要であると意識しておかねばならない。


4. 戦略は新しく生まれ、また進化する
何十年にもわたって、優れた業績を実現している企業を事後的に検証し、「成功を説明する要因」を検討した結果は常に同じであり、「特定の業界環境で特定の価値を生み出すように巧みに構成された、複雑な事業システムを構築できたこと」であるというものだ。さらにここで強調したいのが、これらの企業がこのような精巧で複雑なシステム全体に、何十年もかけて磨きをかけてきたということだ。長期的な継続性がポーターの五つの条件に含まれる理由はまさにここにある。
戦略の実現にあたって、優れた分析は欠かせないが、戦略を全てに渡ってあらかじめ決定すべきだと決めてかかるのは間違いである。全てを予測するには変数があまりにも多く、不確実性が大きい。組織は顧客に対応し、ライバル企業と競い合ううちに戦略についてそれまでなかった重要な洞察を得る。
組織は継続性を保つことで、十分な時間をかけて戦略への理解を深めることができる。言い換えれば、企業は一つの戦略を貫くことで自らの生み出す価値を十分に理解し、本当にうまく実行できるようになる。戦略は十分に出来上がった状態で生まれることはまずなく、発見のプロセスから生まれることが多い。企業はポジショニングを検証し、それを実現する最善の方法を会得するのに何年も試行錯誤を繰り返すことも珍しくない。
戦略は個々の部分ではなく、全体に関わる問題で、安定した中核がなくてはならない。または少なくともどのようにして価値を創造し獲得するかという、根拠のある構想が必要だ。戦略は二、三の重要な選択から始まることが多く、やがて戦略がはっきりするにつれて新しい選択が元の選択を補完し、拡張する。
将来的に重要になることを最初から全て把握するのはまず不可能であり、変化を避けて通ることはできず、変化への対応力が決定的に重要になる。しかし、方向性を継続することで、変化に効果的に対応できる可能性が高まる。

5. 継続性のパラドックス
変革は良いものだとされがちだが、全ての変革が良いものだとは限らず、行き過ぎた変革が悪影響を及ぼすこと、変革には戦略の変更を必要としないものがあることを継続性の原則は教えてくれる。継続性が戦略で果たす役割を理解すれば、変化そのものに対する考え方が変わるだろう。逆説的だが、継続的な戦略は組織の環境変化への適応能力とイノベーション能力を高める。
戦略があれば膨大な量の情報から自社にとって何が重要かを見極めることができる。なぜなら自社がどのような顧客に対応し、どのようなニーズを満たそうとしているのか、またそれを適正な価格で行うために、自社のバリューチェーンがどのような特徴ある方法で構成されているかがわかっているからだ。こうした知識を拠り所として、何が重要で何が重要でないのかを分けることができる。戦略は優先順位を明確にする。
新しいニーズが生まれるたびに対応しなくてはと焦り、新技術が現れるたびに取り入れなくてはとうろたえているようでは組織から活力が失われてしまう。
組織は複雑であり、組織が自らの選んだ価値を本当の意味でうまく実現できるようになるには時間がかかる。意見矛盾しているようだが、変化と不確実性の大きい現代では戦略を慎重にかつ明確に定めることがこれまで以上に重要になっている。
一見矛盾のように見えてこれは矛盾でも何もなく、戦略が明確な方向性を与えてくれるからこそ、経営者は周りの様々な雑音が気にならなくなる。戦略は顧客価値とコストの差に焦点をあてることで、流行への盲目的な追従から組織を守ってくれる。


6. 感想・まとめ
#10では第7章の継続性について取り扱いました。戦略的な思考にあたって継続性は盲点となりやすいのに加え、実務上導入から継続的に続けるのが難しい内容なので、あえて強調されており非常に参考になりました。戦略の組織への浸透については非常に難しく、企業風土と同時に根付かせる必要があります。この辺は非常に難しい点でもあり、だからこそ継続的な導入が重要とされているのだと思います。机上の空論では意味がなく、実際にオペレーションとして日頃の業務にまで落とし込んでいく必要があります。
#10までで、本の主要部分について取り扱えたので当シリーズはここまでとします。