Interview_アングロサクソン経営を超えて|『H.ミンツバーグ経営論』読解メモ #15

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課題本として、「H.ミンツバーグ経営論」を設定したので読み進めてきました。

H.ミンツバーグ経営論 | 書籍 | ダイヤモンド社

#14では第10章の『政府の組織論』の後編として「マネジメントにまつわる誤解」以降の内容を取り扱いました。

Ch.10_政府の組織論_後編||『H.ミンツバーグ経営論』読解メモ #14 - lib-arts’s diary

#15ではAppendixの『アングロサクソン経営を超えて』の内容を取り扱っていきます。
以下、目次になります。(インタビュー形式なのでQとAで要約を記していきます。)
1. アメリカ的経営の限界
2. MBA教育の弊害
3. 脱二元論の組織観
4. 脱カリスマ・リーダーシップの限界
5. 感想・まとめ

 

1. アメリカ的経営の限界(簡単な要約)
Q. ここ数年来、マネジメントやビジネスに関する論考において、人間の心理的な側面や組織における無形資産、例えばソーシャル・キャピタル(人間関係)とか、ソーシャル・ネットワーク(人脈)などの重要性を指摘するものが増えています。いかに効率的にマネジメントするかよりも、いかに人材のポテンシャルを引き出すか、すなわちいかに効率的に管理するかにシフトしつつあるようにも思われます。

A. アメリカ的経営に関して申し上げれば、「平衡感覚」が失われているとしか言いようあありません。いきすぎた合理主義や功利主義が先行しているので、今こそ経済的な側面を全てと考える態度に声を大にして反論すべきです。しかし困ったことにアメリカ型のマネジメント・スタイルをグローバル・スタンダードと勘違いしている人が各国で増えています。

Q. ここ何年か、日本でも同様のトレンドが見られます。

A. それは要注意です。日本的経営には素晴らしい点がたくさんあるので、それをアメリカ的経営に染めてしまうというのはどうかと思います。もちろん色々と問題は抱えており、長期雇用、コンセンサスによる意思決定、責任の共有、ゆっくりとした昇進などは今こそ再評価すべきと思われます。日本的経営は社員同士が相互に尊重し合うシステムであるところにその素晴らしさがあります。
早晩アメリカ的経営はその成功ゆえに限界が訪れるでしょう。これまで軽視されていた人間的な価値や無形資産が注目されているのはその兆しかもしれません。

Q. 資本市場のアナリストたちの思考様式に問題があるように思います。

A. アメリカの名門ビジネススクールMBAたちの大半が投資銀行コンサルティング会社に就職していますが、それは組織やビジネスをマネジメントすることについて、皮相的な見解がまかり通っていることに起因しています。マネジメントをチェス盤の上で駒を動かす要領で物事を整理し、とにかく金を投じることで解決しようとする合理主義的な姿勢です。

 

2. MBA教育の弊害(簡単な要約)
Q. 80年代の中頃からMBAプログラムで教鞭を執ることをやめた理由はどこにあるのでしょうか。

A. MBAプログラムは1908年に導入され、50年代に大幅に改訂され現在に至っています。かつてビジネススクールの多くが「ゼネラル・マネジャーの養成」をうたっていましたが、現在ではビジネスの諸機能、例えばマーケティングや財務などに関する専門職の養成へと大きく傾いています。
一方でMBAプログラムは「B(ビジネス機能)」に重点を置くあまり、「A(経営執行能力)」を軽視する傾向が強くなっています。したがって分析や意思決定の能力は伸ばしてくれますが、その後に待っている複雑な現実に対処できる能力までは育成できていません。いくら事例研究をさせたところで、所詮は仮想現実です。

Q. MBAプログラムは体系的にマネジメントに関する知識を学習する仕組みとしてはそれなりによくできているのではないでしょうか。

A. MBAたちが製造やR&D、営業やサービスといったビジネスの現場ではなく、本社機能や専門機能といった、白い紙にインクが載ったものばかりを拠り所にあれこれ考える仕事についてばかりいるという批判が依然として続いています。
ですが現実の企業経営や組織運営はこのような学問体系とは全く異なるものです。もっと総合的であり、複合的であり、そして複雑です。マネジャーが何らかの問題に直面した時、それを各要素に分解したり教科書を引っ張り出したりしたところで、最善の解決策が得られるとは思いません。マネジャーには専門知識も要求されますが、より大切なことは知恵、すなわち様々な知識を組み合わせたり、重ね合わせたりしながらそれを正しく活用する能力です。

 

3. 脱二元論の組織観(簡単な要約)
Q. MBAプログラムで教えるような組織論は人々をミスリードすることになりますか。

A. どんな組織にも処方できる万能薬を探すというアプローチは誤りだと思います。全ての組織を一律に扱うべき根拠はどこにもなく、綺麗事で語れるものではないです。組織とは、ある共通の使命を追求する集合的な行為を意味すると思います。経営学において、組織は「合理的」で、何とか利潤を最大化する実体と見られていますが、そのような組織を見たことがありません。
これほどまでに我々の日常生活に深く関わっている不思議な「動物」であるこの集合体について、その実態を把握している人はほとんどいません。自分が所属している組織についてさえです。

Q. 組織を動物に例えていますが、そのように組織を有機体と見るならば、要素還元的な組織観は大事な何かを見落としてしまうのではないでしょうか。

A. ですから例外を大切にすることを忘れてはなりません。あらゆる理論はやむをえず現実を単純化しますが、その際に例外を大抵無視します。しかし、例外を無視したり否認したりする理論が脆弱であるのと同様に、理論を盾に例外を排除する姿勢も弱さでしかありません。優れたリーダーは例外と向き合いみんなと一緒に対処します。
これは難問かもしれませんが、本当の進歩とはこれまで脇に追いやられていたことを再検討し、創造的に解決しようとする姿勢から生まれてくるのではないでしょうか。今日本企業に必要なのはこのような姿勢だと思います。

 

4. 脱カリスマ・リーダーシップの限界(簡単な要約)
Q. 概してマネジメントは属人的であり、たとえばカリスマ的な経営者がいなくなると組織に混乱が生じがちです。これまで日本企業はリーダーの登場を待っていました。

A. もうリーダーが主役の時代ではないと思います。そのマネジメントスタイルは概してMBBA(management by barking around)で、普段は重役室で腕を組んで、何か問題があると指示・命令を発し続けるものです。
マスコミはヒーローCEOを好みますが、一方で本当に優れたマネジメントを実行していても地味で目立たないリーダーに光が当てられることは稀です。
私は「静かなるリーダー」に注目しています。静かなるリーダーは管理するのではなく、環境を整えます。


5. 感想・まとめ
#15ではAppendixの『アングロサクソン経営を超えて』の内容を取り扱いました。例外に目を向け過ぎず、もう少し理論がまとまっている方が嬉しかった印象でした。どんな理論にも例外はありますが、例外は生じた際に対応すべきであり、最初から例外にどう対処すべきかを考えるべきではないと思います。単純化自体には弊害もありますが、知っておくだけでトラブルが回避できるなら知っておく方が良いと思います。
また、今回で終了なので本を通しての感想ですが、論述自体は参考になる点も多くあり面白かったと思います。一方で記述が紛らわしく回りくどいのは気になりました。ドラッカーやポーターの方が論旨がわかりやすく記述されている印象でした。選んだ本にもよると思うので、上記はこれまでブログで取り扱った本を読んだ上での感想とさせていただきます。