Ch.7_戦略プランニングと戦略思考は異なる|『H.ミンツバーグ経営論』読解メモ #10

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課題本として、「H.ミンツバーグ経営論」を設定したので読み進めていきます。

H.ミンツバーグ経営論 | 書籍 | ダイヤモンド社
#8、#9では第6章の『戦略クラフティング』を取り扱いました。

Ch.6_戦略クラフティング(前編)|『H.ミンツバーグ経営論』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch.6_戦略クラフティング(後編)|『H.ミンツバーグ経営論』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#10では第7章の『戦略プランニングと戦略思考は異なる』を取り扱っていきます。
以下、目次になります。
1. 戦略プランニングを過剰に信奉していないか
2. プランナーの仕事を再定義する
3. 戦略プランニングの三つの誤謬
4. プランニング、プラン、プランナー、それぞれの役割
5. 右利きのプランナーと左利きのプランナー
6. 「形式化の縁」に立って
7. 感想・まとめ


1. 戦略プランニングを過剰に信奉していないか(簡単な要約)
1960年代半ば、戦略プランニングというアプローチが脚光を浴びるようになり、リーダーたちはこれこそ事業部門の競争力を高める戦略を立案し実行に移すための唯一最善策だと信奉するようになった。この唯一最善策は、思考することと実行することを分離し、その専門家すなわち戦略プランナーをスタッフとする新しい部署を創設した。この戦略プランニングシステムは最良の戦略を生み出せるだけでなく、その戦略を実行する事業部門のマネジャーが間違えることなく追従できるよう、戦略実行のステップをきちんと定めることが必要とした。が、必ずしも事はそのようには運ばない。
戦略プランニングは今もなお健在であるが、もはやその土台は崩壊している。にも関わらず戦略プランニングと戦略思考が異なることが理解されていない。それどころか戦略プランニングが戦略思考を台無しにした結果、マネジャーたちはビジョンと数字合わせを混同している。
戦略プランニングと戦略思考の違いを理解できれば戦略策定プロセスのあるべき姿という原点に立ち返ることができる。一方でプランナーを不要と切り捨てる事はせず、プランニングの仕事自体を変えるべきである。プランナーは戦略策定プロセスの中心よりもその周囲において貢献を果たすべきである。


2. プランナーの仕事を再定義する(簡単な要約)
プランナーの仕事を再定義することにより、戦略プランニングと戦略思考がいかに異なるかが認識できる。プランニングは言わば分析であり、目標や目的を複数のステップに分解し、これらがほぼ自動的に流れるように定型化し、各ステップで予想される成果を具体的な言葉で表現する。「戦略の開発にはなんらかの分析技法が望ましいと思われる」というのはマイケル・ポーターが『エコノミスト』に寄せた一文である。
戦略思考は戦略プランニングとは対照的で、すなわち「インテグレーション」である。そこには直感と創造性が関係しており、戦略思考からはなんらかの意図を反映した総合的なビジョンが生まれてくる。戦略思考においては戦略はいつでもどこからでも自由に生まれてくることが大切で、これは様々なレベルで見られ、インフォーマルな学習プロセスから想像される。
因習をブレークスルーできない戦略プランニングを見れば、大々的な組織改革がなぜうまくいかないかを理解できる。そのような失敗例を見るにつけ、フォーマルな戦略プランニングが過去を応用した戦略や他社の模倣に駆り立ててしまう理由がよくわかる。戦略プランニングは戦略思考にいたる事はなく、しかも実際にはその邪魔をすることが多い。
戦略プランニングの問題は行動ではなく計算を重視する類のものであるということである。計算された戦略はその中にもそれ自体にもなんの価値もない。


3. 戦略プランニングの三つの誤謬(簡単な要約)
戦略に通じた人物とは「大きな誤謬へと通じる数々の落とし穴を避けられる人」と定義されてきた。戦略プランニングにおいてはこのような類のものが誤って信じられている。「分析することで総合化が図られるので、戦略プランニングとは戦略を創造することである」というのはこれこそ誤解につながりかねない。ここでは下記のような下記の三つの誤解がベースにある。

誤解①:予測は可能である。
誤解②:戦略家は戦略課題と別世界に存在できる。
誤解③:戦略策定プロセスは定型化できる。

 

4. プランニング、プラン、プランナー、それぞれの役割(簡単な要約)
戦略プランニングがぶつかってきた難題の全てに共通するメッセージが二つあるが、戦略プランニングの領域で広く知られているのは一つだけである。すなわち、各事業部門のマネジャーは戦略策定におけるプロセスにおける責務を十二分かつ効率的に果たさなければならないということである。では、組織において、プランニングとプラン、そしてプランナーはそれぞれどのような役割を果たしているのだろうか。
プランナーとマネジャーにはそれぞれ異なる長所がある。プランナーはマネジャーのように部下を業務に従事させる権限を有しておらず、さらにマネジャーのように戦略策定に欠かせないソフト情報を入手できない。一方で、マネジャーは時間と競争しており、思考よりも行動を重視するため結果として分析するための情報を見逃すことが多々ある。戦略は分析から生まれることはないが、分析は戦略を開発する一助となる。一方プランナーは時間の余裕がある上に、分析を得意とする傾向があるため、ラインマネジャーの傍で果たすべき重要な役割が存在する。が、それは従来の役割とは異なり、正しい解答を見つけるよりも正しい質問を投げかけることが求められる。

・戦略プログラミングとしてのプランニング
プランニングは戦略を生み出しえない。しかし、効果的な戦略が生み出されればそれをプログラミングする事は可能である。プランニングは戦略を実行できるものへと変える。戦略プログラミングは三段階にわかれ、それぞれ戦略を「記号化(codification)」、「精緻化(elaboration)」、「転化(conversion)」する事である。
それぞれの意味としては記号化は「戦略を公に推し進めるためにその意味するところを明快な言葉で表現することで、業務の細部に渡って機能させること」、精緻化は「記号化された戦略をより具体的な戦略やプログラム、あるいは各戦略を実現する上で何が必要なのかという全体的なアクション・プランに落とし込むこと」、転化は「環境変化が組織運営、例えば予算管理や業績管理に及ぼす影響について考えること」である。

・コミュニケーション手段、管理手段としてのプラン
プログラムがなぜ戦略なのかというのはコーディネーション、すなわち組織内の全員を確実に一方向へと向けさせるためである。例えばスケジュールや予算などは戦略が意味するところを伝え、一人一人が追い求める方向を管理するための媒介となる。

また、下記のような様々な視点から見たプランナーを考えることができる。

・戦略の発見者としてのプランナー
・アナリストとしてのプランナー
・触媒者としてのプランナー

 

5. 右利きのプランナーと左利きのプランナー(簡単な要約)
戦略プランニングの仕事には下記でまとめるような全く異なる二つのタイプの人間が従事している。

(1) 分析思考タイプ
-> これまでイメージされていたプランナー像に近い人々のこと。組織を秩序によって統制しようとする。また、考えに考え抜いた戦略を設計し、それが明確に伝わるように努める。いわゆる「右利きのプランナー」。

(2) 創造的に物を考え戦略策定プロセスの新しい道を切り開こうとするタイプ
-> ソフトアナリストとして簡単な分析調査は当たり前にできるのに加えて、一風変わった場所で戦略を見つけてきたり他人に戦略思考を奨励したりするのを嗜好する。直感で勝負するタイプで「左利きのプランナー」と言えるだろうと思われる。

大抵の組織にはこの両方のタイプが必要であり、しかるべき比率で両者を揃えるのがトップマネジメントの仕事である。複雑なマネジメントの世界に秩序をもたらす人間はどんな組織にも欠かせないが、一方で当該組織を発展させてきた伝統の是非について問いかけ、チャレンジする人間も等しく必要である。
機械的で官僚的な大組織ならば右利きの方が望ましいかもしれないが、柔軟性に富んだ「アドホクラシー(臨機応変)」が支配する左利きのプランナーに向いている組織もある。しかし、どちらの種類の組織にも、たえずそれぞれを補完するだけだとしても、両方のタイプのプランナーがやはり必要である。


6. 「形式化の縁」に立って(簡単な要約)
我々人間は、自分の行動を一定のスタイルに落ち着かせようとする傾向があるようだが、あまり定型化に偏りすぎないように注意しなければならない。これまで戦略プランニングだと称されてきたことについてはその歴史から限界が見えてきたため、我々はこの限界をわきまえなくてはならない。戦略を策定するといった複雑で創造的な活動をする場合はなおさらであり、戦略を策定する事は自己完結できるプロセスではなく全てが相互に絡み合うプロセスであることを理解しておかねばならない。
戦略プランニングは恣意的に定型化するよりもむしろより自由度を与えるべきである。戦略プランニングはテクニックを教えてくれただけでなく、組織がいかに機能し、マネジャーがいかに対処し、あるいはいかに対処していないかを明らかにしている。


7. 感想・まとめ
#10では第7章の『戦略プランニングと戦略思考は異なる』を取り扱いました。戦略プランニングと戦略思考の違いについて読みながら色々と考えることができたので、非常に良かったです。
#11では第8章の『組織設計:流行を追うか、適合性を選ぶか』について取り扱っていきます。