Ch_2 戦略から実行へ|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #3

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課題本として、「キッシンジャー超交渉術」を設定したので読み進めていきます。(国際政治ではなく、交渉術が本書のテーマのため、極力交渉術を中心にまとめていきます。あくまでアメリ国務長官の立場としての交渉のため視点に偏りがあるかもしれませんが、この点は論点としないものとします。極力交渉術のみにフォーカスするため、本の構成に沿わないで話を進めるところもあります。)

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#2では第1章の「交渉戦略を練る」についてまとめました。

Ch_1 交渉戦略を練る|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #2 - lib-arts’s diary

#3では第2章の「戦略から実行へ」について確認していきます。
以下、目次になります。
1. キッシンジャーの独創的な戦略
2. 大幅に修正された交渉戦略
3. 他の交渉への応用ポイントまとめ
4. 感想・まとめ


1. キッシンジャーの独創的な戦略(簡単な要約)
キッシンジャーの独創的なアプローチの最初の一歩は、少なくともアメリカ、英国、南部アフリカ前線諸国から暫定的支援を得ることだった。まず、アメリカのフォード大統領から支持を取り付けた。次に英国との合意を得るために英国首相のキャラハンが1974年に出した「(1)ローデシアが黒人多数支配を受け入れる、(2)1年半から2年以内に黒人多数支配を実現するための選挙を行う、(3)黒人多数支配よりも前に独立が認められないという合意をかわす、(4)交渉を必要以上に長引かせない」という四つの条件を基本方針に据えた。英国と大まかな合意に達した上で、キッシンジャーは前例のない訪問計画を立て、狙いとしては1976年4月にアフリカの指導者たちと直接会って、アフリカとういつ機構の主要国からの支援をより強化することを目的とした。
ケニアのジョモ・ケニヤッタ大統領、タンザニアのニエレレ大統領、ザンビアケネス・カウンダ大統領、ザイールのモブツ・セセ・セコ大統領など様々な国に訪問した。特にタンザニアのニエレレ大統領のように、イデオロギー上は反対の立場を持つ相手とも冷静に対談を行っている。
次にローデシアのスミスを圧力をかけるにあたって、南アフリカと交渉を行った。ローデシア同様に白人少数支配となっている南アフリカローデシアに黒人支配を受け入れさせるというのは一見無理のようなことにも思えるが、南アフリカの国際社会での孤立の状況に対し猶予を設けることで交渉を行った。
概ねうまくいっていたこれらの交渉に対し、英国が重要な役割を果たそうとするのを避け始めたために困難が訪れた。同様に南部アフリカ前線諸国でも支援が次第に弱くなり、キッシンジャー自体もアメリカ国内で共和党から「中止しろ」という強い圧力を受けるようになった。
が、戦略と戦術を根本から立て直し、キッシンジャーは交渉を続行することにした。


2. 大幅に修正された交渉戦略(簡単な要約)
修正にあたってキッシンジャーは、英国からの書面での合意を先に得ることにした。また、その文面で南アフリカの支持を取り付け、それを持ってスミスを説得するという流れに変更した。
段取りを進め、スミスとの会談ではこれまで逃げ道を防ぐような外交をしていたが、敬意や共感を示す対談を行い、結果的にスミスから譲歩を引き出すことにキッシンジャーは成功した。

 

3. 他の交渉への応用ポイントまとめ(簡単な要約)
以下に他の交渉への応用ポイントをまとめる。

・自分の戦略へと「ズームアウト」しながら、交渉相手に「ズームイン」する。
-> キッシンジャーは「ズームアウト」して自分の戦略全体を見据え、地域や地球規模のチェスボードでチェスの名手のように巧妙に駒を進めながら相手の性格、心理状態、経歴、興味、動機、関係者などを調べて最新の注意を払うなど常に交渉相手に「ズームイン」している。交渉者は「戦略」か「面前の人間」のどちらかに焦点を絞りがちでマクロとミクロの観点を調和させようとする人は少ない。

・共感と率直な主張を組み合わせると相手を説得する強力な武器になる。
-> 多くの交渉者は相手に共感するか率直に主張するかのどちらかで、両立は無理だと考えている。交渉における共感は、同意や同情を示すことではなく、相手の考えをこちらが理解していることを相手に知らせることが鍵となる。

・考えるときは戦略的に、動くときには臨機応変にすると良い。
-> 交渉者の多くは状況が変わったり、新たな情報が届いたり、相手側の動きによって効果が弱まったりしても、当初の戦略や筋書きに固執しがちである。しかし、キッシンジャーは常に、「戦略的に考え、臨機応変に動く」をモットーにしていたように思われる。

・メッセージの内容が無情だとしても、それを柔らかく伝えることは可能である。
-> キッシンジャーからフォルスターとスミスに伝えられたメッセージ、特にスミスへのメッセージは非常に厳しい内容だったが、キッシンジャーのアプローチは控えめで共感に満ちており無理強いをしなかった。このアプローチがキッシンジャーの求める合意を引き出す可能性を高めた。

・交渉を成功させるにはテーブルに着いて説得するだけでは不十分で、望む「イエス」を引き出すには往往にしてアメとムチを用意するためのテーブル外の行動が肝要となる。
-> 多くの人は「交渉」をテーブルに着いて話し合うことと見なしているが、テーブル外での行動は有能な交渉者に欠かせない「ツール」と見ることができる。

・有能な交渉者は相手側の「テーブルに着く」人々が抱えている問題も敏感に察知し、積極的に手助けしようとする。
-> 合意案が受け入れられるか拒否されるかはその具体的な内容によって決まると考えがちだが、それぞれの側の支援者がそれをどう解釈するかということも極めて重要である。相手側の仲間や重要な利害関係者の同意を取り付けるのは「相手の仕事」と考えがちだが、相手の仲間や支援者がその合意に反対したら双方にとって問題になるため注意が必要である。交渉には公的な側面と私的な側面があり、それらの違いを認識することは重要である。

 

4. 感想・まとめ
#3では第2章の「戦略から実行へ」についてまとめました。「ズームアウト」と「ズームイン」の使い分けについて非常に参考になる内容でした。
#4では第3章の「南部アフリカ作戦の成果と巧みな交渉に学ぶ」について確認していきます。