Ch_1 交渉戦略を練る|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #2

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課題本として、「キッシンジャー超交渉術」を設定したので読み進めていきます。(国際政治ではなく、交渉術が本書のテーマのため、極力交渉術を中心にまとめていきます。あくまでアメリ国務長官の立場としての交渉のため視点に偏りがあるかもしれませんが、この点は論点としないものとします。極力交渉術のみにフォーカスするため、本の構成に沿わないで話を進めるところもあります。)

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#1では序文とIntroductionのまとめを行いました。

序文、Introductionまとめ|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #1 - lib-arts’s diary

#2では第1章の「交渉戦略を練る」について確認していきます。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. 七つの要素からなる交渉戦略
3. 他の交渉への応用ポイントまとめ
4. 感想・まとめ

 

1. 冒頭部(簡単な要約)
第1章では南アフリカローデシア(後にジンバブエと呼ばれる)において黒人多数支配を確立させる交渉について取り扱う。ローデシアの白人の首相のイアン・スミスは「ローデシアは決して黒人多数支配にならない。少なくとも今後1000年間は」と1976年の3月20日に断言しており、この時点で約27万人の白人が22倍に当たる600万人超の黒人を支配していた。ローデシアは1976年の10年前頃にスミスが一方的に英国からの「独立」を宣言したが、世界の他のどの国も「独立」を認めなかった。英国は黒人多数支配をスミスに認めさせようと最大限の外交努力を続けてきたが、ほとんど成果を上げられずにいた。
こうした背景において、キッシンジャーローデシアでの複雑な交渉を始めたが、1976年3月20日のスミスの発言から半年も立たないうちに、スミスの方針を180度転換させた。当時のアメリカにおいてジェラルド・フォード政権が弱体化していた時期にこの交渉をまとめたことで第ニュースとなり、『タイム』誌の特集記事はこのキッシンジャーの外交を称賛した。
この後ネルソン・マンデラフレデリック・ウィレム・デクラーク南アフリカアパルトヘイトを廃止して黒人多数支配を実現し、1993年にノーベル平和賞を受賞して世界的に祝福されたのだが、その17年前のキッシンジャーの交渉が南アフリカアパルトヘイトを終わらせる土台になったと示唆する人は多い。

キッシンジャーはスミスとの交渉から始める従来の交渉とは違い、状況を分析し、イアン・スミス政府を合意に導く唯一の方法は、「こちら(アメリカ側)が提案する政策が、何れにせよ痛みを伴う選択肢の中で一番ましだとはっきり理解させること」だとした上で、周辺諸国との交渉も含めて上で全体の交渉を始めている。


2. 七つの要素からなる交渉戦略(簡単な要約)
キッシンジャーが実際に用いた戦略における七つの要素についてキッシンジャーが行おうとした順に以下にまとめる。

1) アメリカ政府から許可を得る
2) 英国と協議し、交渉における暫定的な役割について合意を取り付ける
3) 南部アフリカ前線諸国を話し合いのテーブルにつかせる
4) より遠くのアフリカの国々を参加させる
5) ローデシアに圧力をかけるよう、南アフリカを説得する
6) 決められた期限内に黒人多数支配を受け入れるよう、ローデシアと交渉する
7) 英国の支援を決定的にし、全ての関係国が参加する会議の指揮を英国に依頼する。その会議では、ローデシアの黒人多数支配と、ローデシアから改名した独立国家ジンバブエという地域全体に関わる事柄について協議する

これらは決して「交渉を進めながら考える」というものではなく、キッシンジャーは極めて慎重に戦略を組み立てたとされる。多くの様々な関係者や利益をめぐっての事前交渉を注意深く、順次行い、ついには強力な連携を結び、スミスを抵抗できない状況に追い込んだ。キッシンジャーのアプローチが計画通り行われたら、スミスにとって「ノー」はもはや選択肢ではなくなったはずで、キッシンジャーが個々の交渉相手に「ズームイン」しながら常に「ズームアウト」して自らの戦略構想を描いていることがここからわかる。

 

3. 他の交渉への応用ポイントまとめ(簡単な要約)
以下に他の交渉への応用ポイントをまとめる。

・交渉相手といつどのような環境で会うかを慎重に決める
-> 交渉者は交渉において説得を中心に考えがちであるが、これは「直接的な」アプローチである。この場合、相手側が取引を受け入れるつもりがなければこの方法は失敗する可能性が高い。交渉を単なる「テーブルに着いての話し合い」と見なしていると、障壁の中身によっては失敗しがちである。時には「テーブルから離れて」何ができるか想像力を働かせて、交渉相手と会う以前に成功の確率が高くなるよう周囲の状況を整えるというのも重要である。

・戦略を立てる際には「広角レンズ」を使って、関連が予測される関係者全てを分析する
-> 多くの交渉者は関係者を見る視野が狭く、合意書にサインする人々かその代理人しか見ようとしない。キッシンジャーはそれとは異なり、関係者とその利害損得の分析を元に、過去の失敗の原因を克服する戦略を立てたため成功した。

・目標とする合意から「さかのぼって計画を立て」一連の「交渉作戦」を計画する
-> 目指す合意を念頭において、直接的な方法と間接的な方法のどちらがより効果的かを判断する必要がある。間接的な方法を選ぶのであれば、交渉相手との最終的な交渉のために、最も効果的だと思える順番で一連の会合を計画すると良い。

・「指揮官」は大切だが、複雑な交渉は団体競技である
-> 複雑な交渉を最も目立つプレーヤーが一人で考え実行したかのように語るのは簡単だが、国境を超えた合併交渉であれ、複雑な売却や外交の交渉であれ、熟練チームの慎重で組織的な取り組みが欠かせない。


4. 感想・まとめ
#2では第1章の「交渉戦略を練る」についてまとめました。一つの物事を交渉するにあたって、直接的な交渉が難しい場合は間接的に状況を整えてから行うというのは非常に参考となるものでした。
#3では第2章の「戦略から実行へ」について確認していきます。