Ch_4 戦略 ー 広い視野からの交渉|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #5

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課題本として、「キッシンジャー超交渉術」を設定したので読み進めていきます。(国際政治ではなく、交渉術が本書のテーマのため、極力交渉術を中心にまとめていきます。あくまでアメリ国務長官の立場としての交渉のため視点に偏りがあるかもしれませんが、この点は論点としないものとします。極力交渉術のみにフォーカスするため、本の構成に沿わないで話を進めるところもあります。)

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#4では第3章の「南部アフリカ作戦の成果と巧みな交渉に学ぶ」についてまとめました。

Ch_3 南部アフリカ作戦の成果と巧みな交渉に学ぶ|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #4 - lib-arts’s diary

#5では第4章の「戦略 ー 広い視野からの交渉」について確認していきます。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. 戦略的交渉か戦術的交渉か
3. 戦略的に考え、臨機応変に行動する
4. 信頼を育む
5. 感想・まとめ

 

1. 冒頭部(簡単な要約)
キッシンジャーの交渉アプローチに見られるいくつかの際立った特徴を、本書では「戦略」と呼ぶことにする。以下の五つの特徴は、キッシンジャーの交渉における戦略で共通して確認することができる。

1) 明確な長期的目標を立て、目先のことにとらわれない。
2) より幅広い文脈に留意し、当事者、問題、地域の長期的なつながりを重視し、交渉相手の個々の利益にとらわれない。
3) 最も効果的なアメとムチを用意するために「交渉のテーブルで」直接的に、あるいは「交渉のテーブルから離れて」間接的に働きかけ、慎重な計画を練る。そしてそもそも口頭での説得という行き当たりばったりな方法には頼らない。
4) 長期的な目標を維持しながら新たな情報や他者の動きに応じて計画をしなやかに変更し状況を変えていく。行動のための青写真を生真面目に遵守するのではなく、臨機応変に変更する。
5) 交渉を重ねつつ、時間をかけて信頼を得る。ある交渉での行動がほかの交渉に及ぼす影響を軽視しない。

戦略的な交渉者のキッシンジャーはこれらの要素を「ズームアウト」して眺め、どこにどうやって力を注ぐか決めている。キッシンジャーは「あらかじめ戦略的交渉のコンセプトをしっかり決めておくと、それを枠組みとして、相互に関連のあるここの問題について交渉をスムーズに進めることができる」と主張した。
これは第四次中東戦争においても同様で、二つの重要な問題として「面前の危機にどう対処するかと、より大きな枠組みにどう収めるか」を重視してキッシンジャーは交渉を進めた。特に「より大きな枠組みにどう収めるか」は戦争を終わらせ、中東に安定をもたらし、ソ連の影響を大幅に減らすというアメリカの長期的目標を叶えることであった。この交渉においてはキッシンジャーは冷静な戦略的な分析に基づき、交渉を成功に導いた。


2. 戦略的交渉か戦術的交渉か(簡単な要約)
キッシンジャー国務長官ウィリアム・ロジャースの戦術的な志向について次のように説明した。「法に詳しい」ロジャースが高い評価を得たのは、「分析的な鋭い頭脳と、傑出した良識を備えていたからだ。(とはいえ、ロジャースの)視点は戦術的だった。弁護士だったロジャースは問題が生じるとそれ自体の是非を考えて対処するように訓練されていた。」
対してキッシンジャーは自分のことを戦略的な交渉者と見ており、キッシンジャーが望む合意はより包括的な利益を生むものだった。より包括的な利益を生むためにキッシンジャーはここの問題や地域にこだわらず、前もって何ができるかを考えた。こうした対応こそがキッシンジャーの計画を成功へと導いた。
冒頭(1節)で箇条書きにした五つの要素(長期的目標を立てる、広い視野に立つ、直接的・間接的方法を駆使して計画を練る、行動のための青写真を臨機応変に変更する、信頼を得る)は、どの時代でも外交政策に欠かせない要素であり、ビジネス、法律など、複雑な交渉を伴うあらゆる問題について言えることである。
キッシンジャーは政界に入る前のハーバード時代、長期的な目標を持たない交渉を厳しく批判していた。キッシンジャーから見て長期的な目標を持たない交渉は、無意味な戦術的手段の選択に明け暮れるだけのものであった。
後のオバマ大統領の外交政策は、特に中国とイランに関して長期的な戦略構想が欠けていたため、より広い視野からキッシンジャーは「アメリカの公開討論は戦術的方策ばかり論じている。しかし本当に必要なのは、戦略的構想と優先事項を決めることだ」と主張した。
キッシンジャーが実務を担うスタッフに常に語ったのは、戦略上の大きな目標に焦点を絞る大切さで、「自分がどこにいて、どこに行きたいか、この国がどこへ向かうべきかを分析し、その答えから具体的な解決策を導きなさい」と声掛けを行っていた。
最もキッシンジャーとスタッフにとって戦略的構想は単なる抽象的な道しるべではなく、戦術としての役割も果たした。

3. 戦略的に考え、臨機応変に行動する(簡単な要約)
状況はとかく思いがけない動きをするものだが、キッシンジャーは交渉において、そうした変化に柔軟に対応しながらより大きな目標と利益を追求し続けた。細部が戦略を動かすことはなくても、時には軌道修正が求められることもあるとされている。
基本的な分析と、長期的戦略と、数えきれないほどの交渉すべき細目があるが、基本的な方針としては細かな点を一つ一つ解決していけばやがて長期的な目標を達成できるとキッシンジャーは述べている。


4. 信頼を育む(簡単な要約)
キッシンジャーが常に当事者や諸問題の相互の関係性に焦点を当てたことは、交渉でなぜキッシンジャーが「信頼」を重視したのかも表している。端的に言えば、信頼とは、他社による脅迫や約束が実行されると信じることである。多くの人は信頼が大切なのは当たり前だと思うだろうが、信頼という概念は昔から外交政策に関わる人やそれを分析する人々の議論の的になってきた。
複数の国との交渉はそれぞれ独立した交渉のように思えるが、キッシンジャーから見れば「アメリカは言葉通りに実行する」と相手側が考えるように、別の場所でも行動を行うようにしていた。
「絶対に」ではないにせよ、発言、約束、脅しが信頼できるかどうかは交渉における重要な要素である。キッシンジャーは「交渉に向かう際は成功に80%以上の核心が持てない場合は首都ワシントンを離れないように決めており、国務長官である限り一度の勝負に賭けるべきではなく、さもなければ信頼は容易に失墜してしまうだろう」と述べている。
キッシンジャーの交渉のアプローチには、一貫した長期的目標、相互作用やつながりの活用、直接的要素と間接的要素のどちらも含み得る戦術プラン、臨機応変でありながら核となる目標を維持する能力、それに信頼の重視という特徴が見られ、だから「戦略的」だと考えられる。


5. 感想・まとめ
#5では第4章の「戦略 ー 広い視野からの交渉」についてまとめました。局所的な個々の交渉においてどうするかではなく、戦略的に全体を見据えて首尾一貫した交渉を行うことについてまとめられており、非常に参考になる内容でした。
#6では第5章の「現実主義 ー 合意・不合意のバランスを調べる」について確認していきます。