Ch_8 キッシンジャーの対人アプローチと戦術|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #9

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課題本として、「キッシンジャー超交渉術」を設定したので読み進めていきます。(国際政治ではなく、交渉術が本書のテーマのため、極力交渉術を中心にまとめていきます。あくまでアメリ国務長官の立場としての交渉のため視点に偏りがあるかもしれませんが、この点は論点としないものとします。極力交渉術のみにフォーカスするため、本の構成に沿わないで話を進めるところもあります。)

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#8では第7章の「多国間交渉の難しさ ー 複雑な交渉を組み合わせる」についてまとめました。

Ch_7 多国間交渉の難しさ ー 複雑な交渉を組み合わせる|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

#9では第8章の「キッシンジャーの対人アプローチと戦術」について確認していきます。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. 交渉の本質と目的を明確にする
3. 感想・まとめ

 

1. 冒頭部(簡単な要約)
ベトナムとシリアから中国、ローデシアに至るまで、「交渉を成功させる秘訣は入念に準備して臨むことだ」とヘンリー・キッシンジャーは強く言う。キッシンジャーは取り組むべき問題を細部に渡って把握していたと、キッシンジャーのスタッフや交渉相手は繰り返し証言する。
キッシンジャーの言う「入念な準備」には、その問題に関することだけでなく、自らの関心、相手方の心理、目的、懸念、認識、関係、政治的文献、文化をより明確にすることも含まれた。その準備のためにキッシンジャーはズームアウトして、目標とする合意と暫定的な戦略を考え、合意・不合意の実際のバランスを把握しようとした。また、そのバランスを有利に傾けるためにゲームを変えるための策を練った。
その後にキッシンジャーはズームインして個々の交渉相手を理解し、相手に合わせて自らのアプローチや戦術を変えた。南アフリカのフォルスターやローデシアのイアン・スミスとの交渉のように厳しい状況では相手に共感しながらも頑として折れないし、サダト、メイア、ラビン、アサドなど、合意をためらう相手に対しては「あなたがこの選択肢を好まないことは知っていますが、果たして代替策はあるのでしょうか?」と問いかけ、不合意がもたらす悲惨な結果を鮮明に描いて見せた。

ここまでの章は、様々な交渉におけるキッシンジャーの戦略的な行動を見てきたが、Ch.9〜Ch.13では、キッシンジャーのアプローチの特徴である、対人アプローチと戦術的選択を分析する。キッシンジャーのアプローチや戦術には下記が含まれる。

・個人としての「相手」への洞察を深める
・親密さとつながりを築く
・提案と譲歩をする
・推論と「建設的曖昧さ」を用いる
・暗黙の交渉をする
・勢いを保ち、強化する
・「シャトル外交」を用いる
・秘密主義、集中管理、個人プレー

多くの人にとって「戦術」は交渉の本質である。が、交渉者キッシンジャーは求める「Yes」を引き出すために、テーブルにおける「戦術」とテーブルから離れた「戦略」の双方の視点で行動した。キッシンジャーはズームアウトとズームインを駆使していた。以後の章ではズームアウトの視野を念頭において、会議室にズームインしていく。


2. 交渉の本質と目的を明確にする(簡単な要約)
キッシンジャーは最善のアプローチと戦術を見極めるために、取り組んでいる交渉の本質と目的を明確にしようとした。例えば、「合法的な国際秩序」の元での交渉と、「革命的な勢力」との交渉をキッシンジャーは区別した。
合法的な国際秩序の元での交渉では少なくとも双方にとっての利益を模索する意思と誠意が相手方にも見られる一方で、革命的な力との交渉では交渉のための公開討論会ではなくプロパガンダのための演壇となる可能性があるため、注意が必要である。
革命的な力との交渉の場合においても真摯に合意を求めるのであれば、相手方のプロパガンダの主張を非難したり無視したりするのではなく、全く別のアプローチを取るべきである。交渉の目的としては合意を得る以外にも、情報を集める、相手方の武力行使を回避する、時間稼ぎ、相手方の政府を騙すなど、「副産物」的な目的が存在する。戦術の選択においては交渉の真の目的によって変わってくる。
また、交渉プロセスがどの段階にあるかによっても使うべき戦術は異なる。たとえば、会合の予定さえ具体化していない早い段階で会合を持つために使う戦術は、直接交渉するようになってからの戦術とは目指すゴールが異なる。
テーブルに着いてからの交渉でどう動くかは、その交渉の本質とそれが準備段階にあるか、それとも山場に差し掛かっているかによって変わってくる。これからの5つの章ではここまでの内容を踏まえて下記の問題を掘り下げる。

・一か八かの交渉で人間関係はどれほど重要か
・交渉相手と関係性を築くにどのような努力が求められるか
・勢いよく始めるか、それともほどほどの力加減で始めるべきか
・妥協が避けられない場合、いつ、どのように妥協すべきか
・どの段階までプロセスを秘密にしておくか

交渉のテーブルに着いたキッシンジャーが、相手にズームインして何を行なったかを詳しく調べていけば、上記の五点とその他多くの戦術的選択について深い洞察が得られると思われる。


3. 感想・まとめ
#9では第8章の「キッシンジャーの対人アプローチと戦術」についてまとめました。この後の章の要約となっている章だったので、内容自体は5ページほどでしたが他の章よりも比較的丁寧に取り扱いました。
#10では第9章の「交渉相手の心を読む」について確認していきます。