Ch_6 ゲームを変える ー 合意・不合意のバランスを形成する|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #7

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課題本として、「キッシンジャー超交渉術」を設定したので読み進めていきます。(国際政治ではなく、交渉術が本書のテーマのため、極力交渉術を中心にまとめていきます。あくまでアメリ国務長官の立場としての交渉のため視点に偏りがあるかもしれませんが、この点は論点としないものとします。極力交渉術のみにフォーカスするため、本の構成に沿わないで話を進めるところもあります。)

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#6では第5章の「現実主義 ー 合意・不合意のバランスを調べる」についてまとめました。

Ch_5 現実主義 ー 合意・不合意のバランスを調べる|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #6 - lib-arts’s diary

#7では第6章の「ゲームを変える ー 合意・不合意のバランスを形成する」について確認していきます。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. より大きな見方
3. 軍事力と外交
4. 感想・まとめ

 

1. 冒頭部(簡単な要約)
キッシンジャーはより大きな戦略構想へ「ズームアウト」することと、「現実主義的立場」を取ることの重要性を説く。さらにキッシンジャーは「広角レンズ」で全体を見て、会議室での説得よりはるかに影響力のある要素を探すように交渉者に勧める。
キッシンジャーは交渉者として「相手の結論に影響するように努力し、双方の要求を満たす妥協点を見つけようと努めることが交渉の真髄である」と述べている。目標とする合意にとって有利になるように、合意・不合意のバランスを操作することが重要であると捉えることができる。
「相手の結論に影響しうる」潜在的な動機とプレッシャーを見つけるために、キッシンジャーはしばしば交渉の外の動きに目を向けた、相手が不承不承構想の席に着き、「Yes」よりも「No」を選びそうな場合、キッシンジャーは合意を導くためにゲームを変えた。自分と相手を円で囲んで相手との相互作用だけを考えるのではなく、当事者を巻き込む/排除する、検討中の問題を変化させる、自身の不合意の選択肢を良くする、相手の不合意の選択肢をより悪くすることを手段として用いて、ゲームを変える。
キッシンジャーは「歴史的に見て、交渉者が言葉による説得だけに頼ることは稀だ」と断言している。キッシンジャーにとってテーブルに着いての交渉とテーブルから離れての行動を切り離すことは、分析上も現実的にもありえないことであった。「私が外交で学んだ一つの基本的原理は外交と軍事行動の結果は分けられないということで、行動に伴う報酬や代償なしに、大学院のセミナーのように外交ができるという考えは幻想にすぎない」とキッシンジャーは述べている。

 

2. より大きな見方(簡単な要約)
ベトナムとの交渉を実例(6章に詳しく説明が載っていますが省略します)として、キッシンジャーの「私が外交で学んだ一つの基本的原理は、外交と軍事行動の結果は分けられないということだ」という主張を再検討する。また、「外交と軍事力は別個のものではなく繋がっている。もっとも、交渉が行き詰まるたびに軍事力に頼るという意味ではない」ともしている。
具体的にベトナムに関しては「私の目標は複雑に絡み合ったつながりを築いて、できるだけ多くの選択肢を得ることだった。強い軍事行動を私は認めているが、それだけに頼りたくなかったし、逆に交渉だけに頼るつもりもなかった。外交と戦略は互いに支え合うべきだと思う」とキッシンジャーは述懐している。


3. 軍事力と外交(簡単な要約)
キッシンジャーのように「交渉」を広角レンズで見ると、相手との直接の交渉を超えたものが見えてくる。そうやって見つけたゲームの条件(当事者、論点、不合意という選択肢など)を変えれば、単に言葉だけで交渉するより相手から「Yes」を引き出す確率ははるかに高くなる。
しかし、「ゲームを変えて、自分に有利になるよう合意・不合意のバランスを変える」という表現には、冷酷さが漂う。一般的な交渉では、相手の「不合意」の結果を悪くする方法には、交渉の場から立ち去る、相手を閉め出す、仲間外れにする、相手の競争相手を優遇する、訴訟を起こす、相手の建設計画を阻止するために環境団体か監視委員会を連れてくるといったことが考えられる。一方で、戦争や軍事行動で「相手の『No』の結果をより悪くする」方法はより恐ろしいものになりがちである。たとえば、激しい戦闘や財産の略奪、環境破壊、国や国民の将来への負担などである。交渉の一部として考えた時の軍事力による威嚇の効果は多くの要因によって決まる。特に影響するのは威嚇する側にそれを実行する能力があるかどうかである。
軍事力の行使や威嚇が交渉テーブルでの結果につながると思える場合には価値観や規範や法に照らし合わせてそれが倫理的かどうかを問うべきである。これらの問題について考えるにあたっては、下記のいくつかの問いがヒントになると思われる。

・どれほどの利害がかかっているか?
・合法的か?(自衛のためやあるいは条約で定められた義務など)
・軍事力に訴えない代替案があるか?
・軍事力を行使した場合の結果(特に人命)の程度と深刻さは?
・その軍事行動は無関係な第三者い影響するか?
・行使される軍事力と予想される結果の規模は、行使する理由や軍事的目標と釣り合っているか?
・軍事力行使を認める上で適切な合法的・民主的手続きが取られたか?

 

4. 感想・まとめ
#7では第6章の「ゲームを変える ー 合意・不合意のバランスを形成する」についてまとめました。交渉における合意・不合意のバランスを調整するというのは、非常に効果的な考え方である一方、使い方については慎重に考えねばならないという印象を受けました。
#8では第7章の「多国間交渉の難しさ ー 複雑な交渉を組み合わせる」について確認していきます。