Ch_1 仕事と道具|『テクノロジストの条件(by P.F.Drucker)』読解メモ #2

f:id:lib-arts:20190605173706p:plain

連載の経緯は#1にまとめました。

また、#1では前書きとプロローグについて取り扱いました。
#2ではCh_1の『仕事と道具』に関して要約と読んでみての感想や考察についてまとめていきます
以下目次になります。
1. 仕事と道具
1-1. 冒頭部
1-2 技術とは仕事にかかわること
1-3 仕事と技術と道具
1-4 仕事の組織
1-5 仕事の歴史
1-6 生きた存在としての技術
1-7 技術の理解はその歴史に学べ
2. 感想、考察、まとめ


1. 仕事と道具
1. 仕事と道具
1-1. 冒頭部
テクノロジストは機械的な人工物が道具であるとしがちだが、それでは狭義であり、言語をはじめとする抽象的なコンセプトも道具である。だからといって、物理的な道具の定義が無効というわけではなく、あらゆる体系にそれぞれ特有の定義と分類がある。
テクノロジストは自らが取り扱っている道具の定義が狭義であり、理解と知識の助けではなく障害とならないように注意が必要である。

1-2 技術とは仕事にかかわること
技術の定義は多くのケースにおいて「もののつくられ方」であるとされるが、アルフレッド・ラッセル・ウォーレスの洞察が導く定義としてはこれとは異なり、技術とは「もののつくり方」となっている。
人類の歴史を振り返るにあたり、発展に寄与したものの全てが生物的な突然変異ではなく意識して行われた非有機的な発展、すなわち我々が技術と呼ぶものの力によって起きたことにある。こうしてウォーレスの洞察は、技術とは「もの」を超えたものであるとの結論を導き出す。それは他の動物が生きるために全エネルギーを投入している中にあって、人がその課された生物的な限界を克服し、仕事をするためのものである。
上記の定義はテクノロジストのものではないアプローチ、例えば文化人類がくの導き出す定義でもある。技術とは人間のための人間の活動である。詰まる所、技術とは仕事にかかわることである。

1-3 仕事と技術と道具
「技術が仕事に関わることである」ということは、技術史家にとって言葉の定義を超えた意味を持つ。技術の発展は、仕事との関わりにおいて研究され、仕事の発展という文脈において理解されてはじめて意味を持つ。
技術と道具は、いかなる仕事が可能であるかを左右するだけではなく、いかに行われるかを左右する。逆に、仕事とその構造、組織、コンセプトは、技術と道具の発展に影響を与える。その影響はあまりに大きく、仕事との関わりがわからなければ、技術の発展も道具の発展も理解できないと言ってよい。
テイラーの科学的管理法は技術と道具についての手法ではなく、技術と道具を所与とし仕事を経済的、体系的、効率的に行うためのものだった。ところがそれだけのことにも関わらず直ちに道具、工程
製品の発展が見られ、具体例としては、組み立てラインの誕生、オートメーションなどが挙げられる。

1-4 仕事の組織
技術を最も変えたものは、最も知られるところの少ない仕事の側面、すなわち仕事の組織である。仕事は有史以来ずっと個のものであり、かつ集団のものだった。個の仕事と集団の仕事の間に多様な組み合わせがあり得たということは、仕事の組織は単一足りえないということを意味した。仕事の組織とは、それ自体が人間固有のものとして、意識的な非有機的進化における主要な手段の一つだった。組織自体が人間にとっての重要な道具だった。
我々が仕事の組織に目を向けたのは、最近数十年のことにすぎないが、すでに我々は仕事と組織が密接な関係にあることを知っている。


1-5 仕事の歴史
ヘレニズムにとらわれた政治史家や芸術史家は仕事を軽視し、一方で技術史家はものに焦点を合わせる。その結果として我々は仕事の歴史についてほとんど何も知らない。我々はすでに明らかになっている道具の歴史でさえ無視する有様である。
道具、工程製品についての歴史的な研究が不要というわけではなく、我々はさらに多くを知る必要がある。しかし、仕事そのものの歴史こそ、技術を学ぶ者が本腰を入れて取り組むべき報いの大きい研究分野である。技術史が古物収集に止まることなく真の歴史となるには、仕事の歴史についての研究が不可欠であるということである。


1-6 生きた存在としての技術
最後にもう一つ問題がある。仕事についての研究と理解なくして、いかにして技術の理解に到達しうるかという問題である。我々に必要なのは、多様で複雑な道具を体系化するためのコンセプトである。
技術は人類学にいう文明のコンセプト、すなわち要因間のバランスによって理解することはできない。活力ある文明とは、それらの要因の方向性と相関関係において、自律的に変化する能力を持つ文明ある。
言い換えるならば技術とはシステムであり、すなわちあらゆる部分とあらゆる活動が互いに絡み合う有機体である。


1-7 技術の理解はその歴史に学べ
我々は1-6で述べたようなシステムが、あらゆる要因を識別可能とし、かつシステム自体の複雑さを統合する焦点を持つとき、はじめて研究し理解することができることを知っている。
我々が技術と呼ぶ複雑なシステムの理解に必要な焦点を、道具、工程、製品そのものについての研究がもたらすことはないが、仕事についての研究ならば、そのような焦点をもたらす。互いに依存関係にありながら、あくまでも独立した存在である諸々の要因の統合を可能とする。技術そのものと、技術の役割、価値、制度、社会との関係やそれらに対する影響の理解を可能にする。
我々は技術としての理解、理論、モデルを切実に必要としている。これにあたって歴史は我々自身を理解する助けとなり、あるべき未来をつくる助けとならなければならない。統治を学ぶために政治史を学び、美を学ぶために美術史を紐解くように、我々は技術を理解するために技術史を調べなければならない。
技術とその歴史についての焦点を「もの」ではなく「仕事」に合わせることなくして、こうしたコンセプトを発展させることは難しいように思われる。


2. 感想、考察、まとめ
Ch_1は「仕事と道具」がテーマでまとめられていました。抽象的な話が多かったですが、全体を通した印象として目的と手段の対比で技術を見ると良いのではと思われました。技術が手段であれば目的は仕事になるので、手段と目的の対比で読み解いていけそうです。
また、技術を理解するにあたっては「技術とはシステムである」という言説が出てきたのが非常に興味深かったです。システムという言葉はここでは文明の説明における「要因の方向性と相関関係において、自律的に変化する能力」の言い換えとして出てきており、各構成要素の関連性によって生み出される変化だと捉えておくと良さそうです。システムの内部はカオス(複雑)系のため、目的に対してのアウトプット(貢献)を見ることで把握できるとされているのではと思われました。
#2ではCh_1について取り扱いましたので、#3ではCh_2について取り扱っていければと思います。