Appendix_マネジメントのパラダイムが変わった|ドラッカーを読み解く #9

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ビジネス本の名著とされているドラッカーですが、非常に良い本な反面、抽象的で読み解きにくいところもあるので読み解いた内容を元に諸々解説をまとめておければと思います。
エッセンシャル版を前提に読み解く上での参考になればということでまとめさせていただきます。
#7、#8では第9章のマネジメントの戦略について取り扱いました。

 #9では付章の「マネジメントのパラダイムが変わった」の中から前半部分について取り扱えればと思います。
以下目次になります。

1. マネジメントのパラダイムが変わった(Appendix)
1-1. 前提とされてきたもの
1-2. マネジメントは企業のためのものか
1-3. 唯一絶対の組織構造はあるか
1-4. 唯一絶対の人のマネジメントの仕方はあるか
2. まとめ


1. マネジメントのパラダイムが変わった(Appendix)

1-1. 前提とされてきたもの
・本の内容の要約
社会科学では、前提や家庭がそのままパラダイム、すなわち支配的な理論となる。それらの前提は学者や評論家あるいは教師や実務家がほとんど無意識のうちに持っており、それが彼らにとっての現実となる。それらの前提は、その重要性にも関わらず、分析されず研究されず疑問を抱かれず明示されることがない。
1930年代にマネジメントの研究が始まって以来、学者、評論家、実務家の間でパラダイムとされてきた前提は以下にまとめる二組である。

1. 組織運営上の前提
- マネジメントは企業のためのものである
- 唯一絶対の組織構造がある
- 唯一絶対の人のマネジメントの仕方がある

2. 事業経営上の前提
- 技術と市場とニーズはワンセットである
- マネジメントの範囲は法的に規定される
- マネジメントの対象は国内に限られる
- マネジメントの領域は組織の内部にある

 

・読んでみての感想、考察
前提に着目しているのはさすがだと思いました。何かの論述にあたっては必ず前提が重要になるものの、ある分野について詳しく知れば知るほど前提というのを無意識に受け入れがちになるので、この辺は考察を始めるにあたって非常に重要だと思いました。
組織運営上の前提、事業経営上の前提について明示した上で以降の論述が行われていきます。

 

1-2. マネジメントは企業のためのものか
・本の内容の要約
「マネジメントは企業のためのものか」については、歴史的な背景に基づいて考えると良い。エポックとしては、世界大恐慌を通して企業不信が高まったのに付随してマネジメントが企業のものであるという形で言葉が制限されたのと、1950年代頃にビジネス・マネジメントが敬意を払うべきものになったというのがあり、これら二つは背景として抑えておくと良い。が、ビジネスマネジメントが社会的な地位を回復した一方で、マネジメントは企業のマネジメントを指し続けており、この長年にわたる誤解を正さねばならない。
我々はマネジメントが企業のマネジメントだけでないことを再度確認しなければならない。マネジメントについて当然とすべき第一の前提は、「マネジメントがあらゆる種類の組織にとっての体系であり、機関である」ということである。

 

・読んでみての感想、考察
確かにマネジメントと聞くと企業のイメージがありがちですが、歴史的な背景から論述されたのを読むのは初めてだったので非常に参考になりました。その時その時によって内容が色々と移り変わっていくというのは非常に興味深い話の印象を受けました。

 

1-3. 唯一絶対の組織構造はあるか
・本の内容の要約
マネジメントの研究は、19世紀、政府、常備軍、企業などの大組織が現れた時に始まった。以来、組織の正しい構造は一つであるとの前提に立ってきた。これまで職能別組織、分権組織、チーム型組織など様々な組織構造について提唱されてきたが、一方で我々はもはや万能の組織構造などというものは存在し得ないことを認識しなければならない。組織構造はそれぞれの状況において適合するだけである。組織構造は仕事の種類によって異なる。
一方で組織には下記の5つのような守るべきいくつかの原則がある。

1. 組織は透明でなければならない。誰もが組織の構造を知り、理解できなければならない。
2. 組織には最終的な意思決定者がいなければならない。危機においてはその者が指揮をとる。
3. 権限には責任が伴わねばならない。
4. 誰にとっても上司は一人でなければならない。
5. 階層の数は少なくしなければならない、情報の中継点は雑音を倍加し、メッセージを半減させる。

これらの原則は何をなすべきかについては教えない一方で、何をなすべきでないかを教える。これは建築家にとっての建築基準に似ており、いかなる建物を建てるべきかは教えないが制約条件を教える。
重要なこととしては、それぞれの組織構造の強みと弱みを知った上で、どのような仕事には「どの組織構造が適しているか」「仕事の性格の変化に応じて、いつ組織構造を変えるべきか」を知っておくことである。今日必要とされているものは、唯一絶対の組織構造の探求ではなく、それぞれの仕事に合った組織構造の探求であり発展であり評価である。


・読んでみての感想、考察
絶対的な組織構造の探索ではなく、組織構造は仕事の種類によって異なると主張されているのが非常に興味深い内容でした。どれが良いなどの視点になりがちですが、目的や職務内容に応じて設計するというのが非常に興味深い視点でした。

 上記記事でまとめた設計論について考える際の『設計(解決策)は問題に依存する』というのにも通ずる考え方の印象を受けました。

 

1-4. 唯一絶対の人のマネジメントの仕方はあるか
・本の内容の要約
人とそのマネジメントについての前提ほど、頑固に守られているものはない一方でこれほど現実に反しているだけでなく非生産的な結果をもたらしているものはない。具体的には、一つは「組織のために働く者は全てその組織に生計とキャリアを依存するフルタイムの従業員であるとの前提」、もう一つは「組織のために働く者は全て、その組織において誰かの部下であり、彼らのほとんどが取り立てて能力もなく言われたことをするだけの存在であるとの前提」である。これらの前提は第一次世界大戦の頃は現実に即し、意味を持っていたが今日ではいずれも無効になっている。
上記の前提を鑑みるに確かに今でも組織のために働く者の過半は従業員であるものの、アウトソーシング派遣社員、契約ベースで働く人たち、知識労働者なども増えており、必ずしも前提が成り立たなくなってきている。特に知識労働者は誰かの部下ではなく、同僚であるということを認識しなくてはならない。知識労働者は見習いの期間を過ぎれば、自らの仕事に対し上司より詳しくならねばならない。従来の上司と部下の関係ではなく、指揮者と楽器演奏者の関係に似た物として捉える必要がある。
人のマネジメントにあたってはだんだん仕事上のパートナーとしてマネジメントする形にシフトしてきており、パートナーシップの本質として命令と服従の関係ではなく対等の関係であることを意識しなければならない。
また、問題そのものを定義し直さなくてはならず、人の働き方についてのマネジメントではなく、成果についてのマネジメントの仕方について考えねばならない。ちょうどオーケストラやフットボールの中心が音楽や得点であるように、人のマネジメントの中心となるべきものが成果である。

 

・読んでみての感想、考察
仕事や人のマネジメント関連で客観的で納得できる情報はなかなかないのですが、非常に参考になる内容でした。
成果のマネジメントを中心に据え、それをベースに人のマネジメントを行うというのはスムーズなマネジメント方法だなと感じました。また、命令と服従ではなくパートナーシップを中心にするというのも非常に納得のいく考え方でした。

 

2. まとめ
時代に即した内容の印象を受けて、書かれた時期を見たところ2000年頃だったので、WWWなどからIT系の産業がどんどん出始めてきている頃の情勢を受けた上の論述になっているようでした。
ここ最近の数十年で産業構造が大きく変化してきているので、それを踏まえた上で読むと非常に参考になる内容の印象でした。