Appendix_マネジメントのパラダイムが変わった②|ドラッカーを読み解く #10

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ビジネス本の名著とされているドラッカーですが、非常に良い本な反面、抽象的で読み解きにくいところもあるので読み解いた内容を元に諸々解説をまとめておければと思います。
エッセンシャル版を前提に読み解く上での参考になればということでまとめさせていただきます。
#9では付章の「マネジメントのパラダイムが変わった」の前半部分について取り扱いました。

 #10では同じく付章の「マネジメントのパラダイムが変わった」の後半部分について取り扱えればと思います。(#9でも注意書きしましたが、こちらの内容は1999年〜2000年頃に書かれた内容を元に追加された内容のため、これまでの内容と時代背景が異なることに注意が必要です)
以下目次になります。

1. マネジメントのパラダイムが変わった②(Appendix)
1-1. 技術と市場とニーズはワンセットか
1-2. マネジメントの範囲は法的に規定されるか
1-3. マネジメントの対象は国内に限定されるか
1-4. マネジメントの世界は組織の内部にあるか
2. まとめ


1. マネジメントのパラダイムが変わった②(Appendix)

1-1. 技術と市場とニーズはワンセットか
・本の内容の要約
技術と市場とニーズは不可分であるという前提が近代産業と近代技術を生み出した。また、19世紀のドイツの化学産業から1950年代のIBMにかけて企業内研究所が次々に生まれた。これらは技術と市場は不可分という前提の元にあったが、この前提が今日では通用しなくなってきている。
19世紀から20世紀の前半まではあらゆる産業にとって、自らの産業の外で生まれた技術はほとんど無関係といってよかったが、今日では自らの産業や企業に最も大きな影響をもたらす技術は、自らの世界の外からもたらされる技術であると考えねばならない。今日の技術は19世紀の技術のように、それぞれがそれぞれの世界に個別にあり続けるのではなく互いに交錯する。
今日の基本的な資源は情報であり、もはや特定の産業のための知識などというものはなく、あらゆる知識があらゆる産業にとって重要であり、重大な関わりを持つことを前提としなければならない。また顧客でない人たち(ノンカスタマー)が顧客以上に重要になり、変化は常にノンカスタマーから起こることは意識しておかねばならない。
技術も用途も基盤とすることはできず、それらのものは制約条件に過ぎない。基盤とすべきは顧客にとっての価値であり、支出配分における顧客の意思決定である。経営戦略はそこからスタートしなければならない。


・読んでみての感想、考察
非常に面白い考察でした。現代のビジネスシーンにおいては顧客にとっての価値が単純なスペックの良し悪しから違うものに移行してきているというのを意識せねばならないので、どこにフォーカスすべきかの意識付けにおいて参考になりそうです。
この辺はイノベーションのジレンマなども似たような考え方な印象でしたが、「顧客にとっての価値」を考えた上でいかにアプローチしていくかが重要だと感じる内容でした。

 

1-2. マネジメントの範囲は法的に規定されるか
・本の内容の要約
マネジメントは理論と実務のいずれにおいても、企業、病院、大学などを法人格を持つ事業体として扱う。マネジメントの範囲は法的に規定されるものであるとする。これは今日ほとんど普遍的ともいうべき前提である。このような前提が生まれたのは、当初マネジメントのコンセプトが指揮命令を基盤としていたためだった。
ところがすでに100年も前にマネジメントの範囲を法的に定義することは妥当でないことが明らかになった。系列を法的に関係において成長していったGMは系列は第二次世界大戦後に市場の競争相手が消えることによって部品事業部の競争力を担保する手立てがなくなり、高コスト構造をもたらしたことでその後25年の凋落の原因となった。その後は法的な支配の範囲に限定することなく経済的なプロセス統合による系列が増えたが、これにより系列を持たない企業に対して25%~30%のコスト削減を実現でき、産業と市場の支配権を手にすることができた。
一方で今日ではこの系列さえ十分ではなくなっている。従来の系列は調達側が圧倒的に大きな力を持っており、それらの系列は対等ではなく供給業者側の従属によって成り立っている。が、今日では経済連鎖のコンセプトの元に対等な力と独立性を持つ者との間に真のパートナーシップが生まれつつある。
今日必要とされているものは、マネジメントの範囲の見直しであり、理論と実務の双方において今後前提とすべきものは、マネジメントの範囲は法的にではなく実体的に規定されるということである。経済連鎖全体における成果と仕事ぶりに焦点を合わせなければならない。


・読んでみての感想、考察
系列・関係会社の考察にあたって、「法的関係->持ち株などを通した緩い支配関係->パートナーシップとそこから出てくる成果を前提とした対等な関係」という形でシフトしてきているという論述でした。
今後の企業アライアンスにあたってのマネジメントにあたっては法的にではなく実体的に規定せねばならないというのは意識しておきたいなという印象を受けました。

 

1-3. マネジメントの対象は国内に限定されるか
・本の内容の要約
今日に至るも、マネジメントの理論は企業とそのマネジメントが対象とすべき範囲は、国境によって仕切られた国内経済であることを前提としている。が、現代の時代においてそのようなマネジメントをしている企業はほとんどない。医薬品産業や情報産業のように第二次大戦後成長した産業では国内事業と国際事業の区別がない。かつて多国籍企業にとって経済の現実と政治の現実は一致しており国が経済単位だったが、しかし今日のグローバル企業や変身中のかつての多国籍企業にとって国はコストセンターに過ぎなくなっている。
マネジメントの対象と国境は一致しなくなっており、もはやマネジメントの対象を政治的に規定することはできない。国境自体はマネジメントにとって重要な意味を持ち続けるが、今後前提とすべきは国境は制約条件に過ぎないということである。現実のマネジメントを規定するのは、政治ではなく経済の実体である。

 

・読んでみての感想、考察
従来の多国籍企業と今日のグローバル企業の対比で見ると非常に興味深い内容でした。また、Section42のグローバル化のマネジメントで書かれている内容と比較すると、国家とグローバル企業の関係性への言及において国家の占める割合が少々減っている印象でした。これを元にSection42が書かれた1974年頃と付章が書かれた2000年頃の約25年を照らし合わせるとなかなか興味深いなと感じました。

 

1-4. マネジメントの世界は組織の内部にあるか
・本の内容の要約
付章で述べた間違った前提全てから得られた大前提が、マネジメントの領域は組織の内部にあるというものだった。この前提があるために、マネジメントと起業家精神の区別などというわけのわからないことが起こった。マネジメントと起業家精神がコインの裏表であることは、そもそもの初めから認識してしかるべきだった。
また、マネジメントの領域は組織の内部にあるなどということが前提とされてきたために、組織の内部における努力に焦点を合わせるようになってしまった。組織の内部に存在するものは努力だけであり、内部で発生するものはコストだけである。成果は組織の外部にしかありえない。大企業が際立つ存在として登場した頃は組織内部のマネジメントが問題だったが、マネジメントの領域は組織の内部にあるという前提は当時は意味があったとしても今日では意味をなさない。そもそも組織の本質と機能に反し、マネジメントは成果に焦点を合わせなければならないからである。
付章で述べた内容は結論を出すよりも問題を提起する意図で書かれている。基本とするテーマは一つであり、「今日の社会、経済、コミュニティの中心は、技術でも情報でも、生産性でもなく、成果をあげるための社会的機関としての組織であり、この組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関がマネジメントである」ということである。そしてもう一つ前提があるなら、マネジメントが責任を負うものは、成果と仕事に関すること全てである。

 

・読んでみての感想、考察
マネジメントパラダイムの変化を記述しており、非常に参考になる内容でした。日本の「失われた20年」についての論述に対し防ぐ方法はなかったのかなど色々と違和感を感じることが多かったのですが、この辺のマネジメントパラダイムの変化によってかつての成功パターンが当てはまらなくなったというのがバブル崩壊の影響よりも大きいのではと感じました。パラダイムシフトがしっかり言語化されており、非常に参考になりました。

 

2. まとめ
付録程度に考えてなんとなく読み始めてみた付章だったのですが、2000年頃の時代情勢を踏まえた上での論述で非常に参考になりました。時代の変化を受けての論述のちょっとした違いなども垣間見えて良かったです。
次に読むビジネス本を何にするのかで悩んでいたのですが、付章を読んだ感じもう少し同時代の記述を読みたくなったのでドラッカーの著作から次の本を選んでみようと思いました。一冊全体を通して考察が深く、読み応えがあり、非常に満足のいく一冊でした。