「投資」と「貯金」はどのように配分すべきか|マクロ経済を考える #7

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#4〜#6では「名目GDP比の国債残高」について考えるにあたって、パレート的な階級分けとその資産構成比、また、資産を持たないかつ所得のない層の「生存権」の取り扱いについて議論してきました。

議論が複雑になってきたので先にここまでの話の流れをまとめると下記になります。

・日本の名目GDP比の国債残高が国際比較で大きい(2〜2.5倍)のは貯蓄率が高いからである。
・近年名目GDP比の国債残高の比率が上がっているのは単に現役世代と年金世代の比率に起因するので、国家財政上のリスクは低いと思われる。
・資産にフォーカスしてパレート的に2:6:2の階級に分けて、人の移動はあっても良いが、階級ごとの資産保有率は基本的に一定として考察することにした。
・下位の2割は資産をほとんど持たないと仮定したが、それは「資産の有無」よりも「生存権」の方が優先される方が現実的だという考えに基づく。
・「貯蓄率の高さ」は中位層(一般労働者など)の資産形成を容易にするので、望ましい傾向だ。

上記がこれまでのまとめですが、「貯蓄率の高さは本当に中位層の資産形成に寄与するか」についてもう少し考察できればということで、#7では「投資」と「貯金」の望ましい配分について議論します。
以下、今回の目次になります。
1. 資産金額に応じた「投資」と「貯金」の配分について
2. マクロ経済的に「貯蓄率」を考える
3. 「社会保障を目的とする国債」の導入を検討する

 

1. 資産金額に応じた「投資」と「貯金」の配分について
1節では家計における「資産金額に応じた投資と貯金の望ましい配分について」考えます。まず「投資」と「貯金」についてそれぞれの特性を簡単にまとめてみます。

・投資
→ 大幅に増える可能性がある一方で大幅に減る可能性もある(ハイリスクハイリターン)
→ 手数料の多い投資信託などのように期待値の低い商材も存在する
→ 詐欺のリスクがある
→ 急な出費には向かない

・貯金
→ 大幅に増えることもなければ大幅に減る可能性も低い(ミドルリスクミドルリターン)
→ 銀行などには規制が多いため詐欺などは少ない
→ 急な出費の際も対応しやすい

上記の特徴から、「投資」と「貯金」の配分としては、資産額が100〜200万円程度までは「貯金」のみでも問題はなく、それ以上の場合は徐々に「投資」の割合を増やしていくというのが望ましい配分だと思います。一概にはまとめられないですが、資産額に応じた配分について簡単に計算してみようと思います。

200万円までは貯蓄のみ、200万円〜2,000万円までは半分貯蓄で半分投資、2,000万円以降は2割貯蓄で8割投資を行うとして簡単に計算してみます。

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グラフ化すると上記のようになります。数字そのものは適当に決めたので参考程度ですが、これについて#5で計算した各階級あたりの一人あたり資産の5,400万円:576万円:72万円について考えてみます。下位層は72万円を貯金、中位層は388万円を貯金し188万円を投資、上位層は1,780万円を貯金し3,620万円を投資すると単純に考えます(厳密な議論としては良くないですが、下位層と中位層の資産額の閾値を200万、中位層と富裕層の資産額の閾値を2,000万円と仮定するなら期待値を用いた議論でも計算の厳密性は失わないです。仮定を都合良く設定していますが、マクロな数字の議論が目的のためあまり気にしなくて良いと思います)。あまり考え過ぎると難しくなるので、一旦こちらを家計単位で見た際のある程度妥当な資産形成と考えて良いものとします。

この議論を前提にそれぞれの階層全体が保持する貯蓄445兆円:291兆円:18兆円となり、それぞれの階層が保持する投資905兆円:141兆円:0円となります。全部の総和を取ると1,800兆円となり、#5の試算の前提とした日本の金融資産の金額に一致します。

 

2. マクロ経済的に「貯蓄率」を考える
1節では資産金額に応じた「投資」と「貯金」の配分について簡単に試算を行いましたが、2節ではこの金額をマクロ経済的に考えます。

・貯蓄割合(階級ごと): 445兆円:291兆円:18兆円
・投資割合(階級ごと): 905兆円:141兆円:0円

こう考えた際に、家計の貯蓄の総和は754兆円、投資の総和は1,046兆円となります。

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上記は#4でも取り扱った家計の資産構成ですが、1節で行った試算以上に日本の貯蓄率は高いことがわかります。中位層を中心に堅実な資産形成が行われていると考えて良いのではと思います。また、銀行の社会的な意義としては、「数百万〜数千万のレベルの資産の管理を一々気にするのが面倒だ」ということを解消してくれることにあるのではないかと思います。

さて、ここまでは家計の目線からの議論でしたが、マクロ経済的な視点からは「貯蓄率」をどのように考えると良いのでしょうか。
「貯蓄率」が高いということは「銀行」中心にお金があるということですが、銀行には出資規制などがあるため、基本的には「融資」によって収益を出すことになります。昨今ではゼロ金利政策やマイナス金利政策が取られることで銀行の収益性が悪化する一方で、バブル崩壊以後のデフレにより貸出先がなかなか見つからないという状況であると一般論として解釈して良いかと思います。

この状況をマクロ経済の目線でどのように解釈するかですが、「貯蓄率が高い」一方で、「融資先が少ない」ことで「銀行の収益が良くない」状況では行政(主に中央銀行やその株主の政府)はどのような対応を取るのが良いでしょうか。時折銀行の再編などの話も挙がりますが、銀行は社会インフラであり半官半民で考える方が良いと思いますので、それほど競争させても仕方がないと思われます。そのため、ゼロ金利政策やマイナス金利政策は行わずに、政策金利は1〜2%に設定すべきではないかと思います。この際にインフレターゲットよりも低く設定する一方で、名目としては利益を出せるように設定するのが良いかと思います。
これにより、「家計の預金」に対しては名目的には0.5%ほどの金利をつけつつ実質的にはインフレ税として資本税のような課税が可能です。
この際に問題になるとするなら、緩やかなインフレがなぜ起きないかです。原因としては中位層の中心を占める労働者層にお金が回らない政策を行なっているからではないかと思われます。#6で「生存権」関連の話題について確認しましたが、社会保険料が60兆円ほど徴収されていることで労働者の手取りが年々下がっています。

格差社会」を論じる論者などは消費税の増税法人税の減税などについ目が行きがちで議論がされることが多いですが、#6で確認したところ消費税以上に社会保険料の徴収の方が金額としては大きいです。これによって労働者の手取りが低くなることで全体の購買力が下がり、物価が上がらないという状況が続いていると思われます。
これを解決するにあたっては、社会保障を目的とする国債を考えて、現役世代と年金世代の比率に応じて名目GDP比の国債残高とは別で管理するというのも一案なのではないかと思います。ということで、この社会保障を目的とする国債について3節で詳しく議論したいと思います。

 

3. 「社会保障を目的とする国債」の導入を検討する
3節では「社会保障を目的とする国債」の導入について考察したいと思います。現役世代と年金世代とざっくり分けて議論してきましたが、この比率次第によって名目GDP比の国債残高が変わるのは当然だと考えて良いと思います。というのも年金世代の方が働いた分の貯蓄があり、かつ、年金だけでは賄えない分の生活費を貯金を少しずつ切り崩しながら生活するためです。
この際に現役世代が年金などの社会保障を全て負担するというのは現実的ではありません。

ということで、大元から発想を変える必要が生じます。ここで提唱したいのが「社会保障を目的とする国債」の導入です。現役世代としては労働価値の上がるインフレの方が望ましいし、年金世代としてはインフレによって貯金の価値が減ることよりも安心して生活できる状況の方が望ましいはずです。

であれば、現役世代と年金世代の比率に応じて、名目GDP比の国債残高の発行の余地を定義するのがマクロ経済的な解決策になりうると考えて良いと思います。現役世代と年金世代の人口の比率を社会保障指数」と定義し、「名目GDP比の社会保障関連国債残高の発行」の基準にすると良いかと思います。

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(総務省平成28年版 情報通信白書|人口減少社会の到来)
上記における比率を参考に、現役世代と年金世代の比率として80%:20%の場合(80%割る20%で4)を「社会保障指数」の基準(2000年を基準)としてみようと思います。

\displaystyle 社会保障目的の国債の名目GDP比 = \frac{1}{2}(4-社会保障指数)

この時上記の数字で国債の名目GDPを評価するというのは一案なのではないかと思います。これであれば2020年では大体社会保障指数が66%割る33%で2のため、計算式は1となり、名目GDPと同額の国債社会保障目的として良いと考えることができます。

ここまでの議論によりもし500兆円分の社会保障目的の国債が正当化されると考えるなら、国家財政についてより健全な議論が行えるのではないでしょうか。数式についてはまだ適当なので、各論なども考慮しつつ調整していければと思います。とりあえず、現役世代と年金世代の人口比に基づいて「社会保障指数」を定義する意義だけ、ご理解いただけたらというのを当記事の結論としたいと思います。