【考察】日本の国債残高はなぜ多いのか|マクロ経済を考える #4

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以前の記事では財政破綻問題について論じましたが、今回は日本の国債残高はなぜ多いのかについて考察を行いたいと思います。

ある程度上記の議論を参考にしていますので、詳しく考えたい方は上記も参照してみてください。
下記の目次に沿って考えて行きます。
1. 基本的な数字の整理(通貨発行量、国債残高、名目GDP
2. 仮説(家計の金融資産構成が原因では)
3. 今後の方針の整理・考察

 

1. 基本的な数字の整理(通貨発行量、国債残高、名目GDP
1節では基本的な数字の整理を行いたいと思います。

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円 (通貨) - Wikipedia

日本における通貨発行量は100兆円、国債残高は1,000兆円、名目GDPは500兆円を大体抑えておくと良いと思います。また、国債残高については年に20兆円〜40兆円ずつ増えているとざっくり抑えておくと良いです。
もちろん細かい数字はもう少し動いていますが、規模の大きな数字について見る際はなるべく端数は無視して数字のオーダーにのみ着目するのが良いかと思います。

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一応、インフレターゲットを2.82%にした際の物価上昇率は上記となるため、インフレ率に比例する指標である、通貨発行量、国債残高、名目GDPは概ねこの図と同様の伸びをしても問題ないとだけ把握しておいていただけたらと思います。

さて、日本の国債残高ですが、1000兆円に対しての2〜3%は20〜30兆円なので、現在の国債残高の伸び率はそれほどおかしくはないとして良いと思いますが、問題があるとすれば名目GDPの2倍となっており、これが他の国よりは多いという指摘です。貨幣流通量や国債残高は大きくなっているのに、名目GDPが伸びていないことの方が問題ではありますが、この辺は全て等比数列的に考える必要があるため、現状を基準にできるかの視点で見た方が良いと思われます。

そこで続く2節では現状の名目GDP比の国債残高を基準として今後の日本の財政を考えて良いかを考察するにあたって、「家計の金融資産構成」を元に考察を行えればと思います。


2. 仮説(家計の金融資産構成が原因では)
1節では大まかな数字について把握しましたが、その中で問題として出てきたのが名目GDP比の国債残高です。

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https://www.nissay.co.jp/enjoy/keizai/102.html
上記によると日本は概ね2倍となっており、参照記事では財政健全化の必要性が主張されているようです。

確かに図表を見ると日本の財政は良くないようにも見えます。ですが、ここで思い出していただきたいのがGDP=C+I+Gの式です。これは単年の式ですが、国内総生産は総消費としても読み替えることができるし、対外債務(外国からの債務)が無視できる場合はG(政府)の負債はC(家計)またはI(企業)の資産となります。

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以前の記事でも確認しましたように、日本政府の国債の大半は日銀が保有しており、対外債務はそれほど多くありません。ということは日本の家計や企業がその分資産を保持していると考えることができます。

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(資金循環の日米欧比較 日本銀行調査統計局)
そこで上記の図ですが、日本の家計の金融資産の54%の1000兆円ほどが現金や預金で保持されていることが確認できます。他の国々と比べて預金率が高いことから国債残高が多い分の説明がつくとして良いのではないかと思います(銀行の融資よりも投資の方がリスクヘッジコンプライアンスの観点からお金が回りやすいと思われます)。元々高度経済成長期などの戦後の復興経済は銀行中心の護送船団方式だったため、その名残りと考えても良いと思います。
ということは政府の国債残高は単に家計が預金として保持しているだけであることがわかります。

さて、概ね国債残高の増加については説明できそうですが、ここで考えるべきは、この状況を基準に今後の政策を行って良いかです。要するに、「現在の日本における預金率の評価をどうするか」について考える必要があります。ということで預金率が高いことによる問題について下記にまとめてみました。

・国際比較が行いにくくなる
・取り立て騒ぎが起きやすい
・経済政策の評価が行いにくい

簡単に挙げてみると上記です。家計(国民)が安定した形で貨幣を持ち過ぎると、ちょっとした社会不安によって取り立て騒ぎなどが起きる可能性があったり、経済政策の評価が行いづらいなどが生じると思われます。

大体の仮説についてはご紹介できたので、ここまでの内容を元に3節では今後の方針(案)の整理や考察を行いたいと思います。

 

3. 今後の方針の整理・考察
3節では今後の方針について整理と考察を行います。私見ですが、政治は基本的に2:6:2の中間6割に対して政策を打っていくべきと考えているので、ある程度現状の貯蓄率を肯定的に考えても良いのではと思います。なぜ中間層を重視するかというと、10人で8番を取る競争であればある程度見通しが持てますが、10人で2番となるとなかなか大変だからです。

社会全体の運営においてある程度所得の分配をどうするかの議論になると思いますが、労働者がそれなりに豊かに暮らせる状況を作れれば階級の移動がしやすくなります。たとえば生活保護の世帯が急に投資で成功するのは大変なので、自立にあたって「職を見つけて貯金をさせる」というところから少しずつステップアップさせるのが現実的だと思います。

投資は囚人のジレンマ(非協力ゲーム)になりやすいですが、労働は協力ゲームになりやすいので、基本的には「労働と貯蓄」を元に中間層の生活を確立するというのが安定した国家運営においては重要ではないかと思います。

「労働と貯金」は家計にフォーカスするなら重要ですが、問題はこの際の経済対策です。銀行を中心としたエコシステムがバブル崩壊以後機能しなくなっているので、この点については考える必要があります。特にゼロ金利、マイナス金利政策は銀行のモラルハザードを防ぐために必ず防ぐべきです。

一案ですが、逆に政策金利(日銀の公定歩合)を1%ほどまで引き上げ、銀行の日銀に対する預金を国債残高から引いた上で国際比較し、財政政策を行うのも良いのではと思います。(まだ練れてないので、一案としてお願いします)

少々議論が発散してしまったので、当記事については一旦こちらで締められればと思います。
(2節までの議論については概ね正しいと思いますが、3節については一旦まだ検討段階ということでご確認ください。)