化学平衡と詳細釣り合い条件について|平衡(equilibrium)について理解する #1

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MCMCを用いたサンプリング関連の手法を確認していると、メトロポリスヘイスティングスハミルトニアンモンテカルロ法のように詳細釣り合い(detailed balance)条件の話題が出てくることがあります。「過程と逆過程の頻度が等しい」ことが詳細釣り合い条件ですが、平衡や均衡(equilibrium)といった意味合いで様々な文脈で登場します。
そのため、こちらのシリーズでは様々な文脈を踏まえながら平衡(equilibrium)についていければと思います。
#1では比較的取っ付きやすいと思われる化学平衡(chemical equilibrium)について取り扱います。
以下、目次になります。
1. 化学平衡の概要について
2. 平衡定数について
3. まとめ


1. 化学平衡の概要について
1節では化学平衡の概要について取り扱います。一般的な内容がつかめれば十分なため、主にWikipediaを参照していきます(https://ja.wikipedia.org/wiki/化学平衡)。

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まず、化学平衡(Chemical equilibrium)の概要としては上記のように「可逆反応(行ったり来たりが可能な反応)」において、順方向と逆方向との反応速度が釣り合って、組成比が巨視的に変化しないことを指すとされています。A→Bしかない場合は「非可逆」と呼び、この際B→Aは起こりえないものと考えます。

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具体的な可逆反応の例としては、上記のような「酢酸の解離」がWikipediaでは紹介されています。この際の反応式を下記のようにも書きます。

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化学平衡とは上記の反応式において、「左から右への変化」と「右から左への変化」が釣り合っている状態のことを指します。

化学平衡について大体のイメージがついたので1節はここまでとし、2節でこれを元に平衡定数や反応速度定数について確認していきます。


2. 平衡定数について
2節では化学平衡について平衡定数や反応速度定数を元に、簡単な数式を用いて確認していきます。

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まず、1節で確認した「酢酸の解離」の例だと、平衡定数のK_cは上記のようにモル濃度を用いて表します。平衡定数のざっくりとしたイメージとしては、左から右の反応(順反応)が右から左への反応(逆反応)に比べてどのくらい起きやすいのかの度合いを示していると理解すれば良いです。

ここでどのくらい起きやすいかを考えるにあたって「反応速度」なども考えると便利です。

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上記では「反応速度」や「反応速度定数」、「平衡定数」の関係性について記載されています。正反応(順反応)も逆反応のどちらの「反応速度」も、それぞれの物質の濃度に「反応速度定数」をかけて表現しています。ここで、「平衡状態」においては反応速度が等しくなる(v_1=v_2)ことから、\displaystyle K_c = \frac{k_1}{k_2}が両辺のモル濃度の比に一致し、これを平衡定数(濃度平衡定数)として呼んでいます。

ここで注意したいのが、左→右と右→左の起こりやすさが違っても、平衡状態では順反応と逆反応の速度は一致するということです。反応自体の速度が一致する代わりに、それぞれの濃度が異なることで均衡となります。もう少しわかりやすくするなら、A→Bが起こりやすくてB→Aが起こりにくい場合、k_1k_2に比べて大きくなり、Bの濃度がAの濃度よりも大きくなります。

このような状態のことを詳細釣り合い(detailed balance)として表します。


3. まとめ
#1では化学平衡を題材に詳細釣り合い(detailed balance)について確認を行いました。
#2では、#1の内容を踏まえてメトロポリスヘイスティングス法における詳細釣り合いについて確認します。