メトロポリスヘイスティングス法における詳細釣り合い条件について|平衡(equilibrium)について理解する #2

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当シリーズは確率過程や化学反応など、様々な場面で出てくる平衡(equilibrium)について理解することを目的とし、作成しています。
初回の#1では比較的取り扱いやすいと思われた化学平衡(Chemical equilibrium)について取り扱いました。

#2ではメトロポリスヘイスティングス法における詳細釣り合い(detailed balance)条件について確認を行います。
1. メトロポリスヘイスティングス法について
2. 詳細釣り合い条件について
3. まとめ


1. メトロポリスヘイスティングス法について
1節ではメトロポリスヘイスティングス法[1970]について簡単に確認します。ある程度簡略に記述を行いたいのでメトロポリス法[1953]についてはある程度既知であるものとして話を進めていきます。以下、Wikipediaの内容を中心に確認します(https://ja.wikipedia.org/wiki/メトロポリスヘイスティングス法)。

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まず、簡単にだけメトロポリス法について確認します。上記のようにx_nを中心とした提案分布のQを考え、これに基づきサンプリングした値をx_{n+1}として採択するかしないかを考えるのがメトロポリス法です。

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一方で、メトロポリスヘイスティングス法は採択率の計算において、上記のように提案分布Qに関する比率を考えています。メトロポリス法の解説と文字の置き方は異なっていますが、ここでxx_nと考えた際にx'x_{n+1}の候補として検討していることを理解しておきましょう。なので、提案分布のQに関する比率は、x'xxx'で割っているということです。こちらについては2節で詳しく確認します。

その他は基本的にメトロポリス法と同様なため、1節はここまでとします。


2. 詳細釣り合い条件について
2節ではメトロポリスヘイスティングス法における詳細釣り合い条件について考えます。

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まず前提の認識として、P(x)に従ったサンプルの生成を行うにあたって、定常分布\pi(x)に収束するマルコフ連鎖を用いることを考えるとしています。この際に、「1.定常分布の存在」と「2. 定常分布の一意性」の二つの条件が満たされるとき、マルコフ連鎖は定常分布に収束するとされています。詳細釣り合い条件は「1. 定常分布の存在」について議論した条件です。#1における詳細釣り合い条件は「順反応と逆反応が起こる数が等しい」でしたが、ここではxx'の遷移確率がx'xの遷移確率と等しいことと対応しています。\pi(x)P(x'|x) = \pi(x')P(x|x')が#1で「順反応と逆反応の反応速度が等しい」としたことと対応しています。

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これをメトロポリスヘイスティングス法における採択率の計算に反映させたのが上記の解説です。この話の解釈としては、「提案分布が左右対称でないときには採択率に補正をかけることで詳細釣り合い条件を実現する」と抑えておけば良いかと思います。


3. まとめ
#2ではメトロポリスヘイスティングス法における詳細釣り合い条件について取り扱いました。「詳細釣り合い」と聞くと難しそうに聞こえますが、単に「平衡状態における量的な変化をなくす」というのが大元にあると把握しておけば良いかと思います。
引き続き#3ではハミルトニアンモンテカルロ法における詳細釣り合い条件について取り扱います。