「詭弁」と「論理学」①|ロジカルシンキングを学ぶ #1

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今日世の中の至る所で様々な議論が繰り広げられていますが、首を傾げるような主張を聞いたり見かけたり、またそれを納得する人がいたりと様々なケースがある印象です。
その中でロジカルシンキングというのは普段は意識しないですが、実は非常に重要なのではないかということで、新シリーズとしてロジカルシンキングについて取り扱っていければと思います。
演繹的な論理学から入ると導入としては抽象的で難しいものになりそうなため、#1では「詭弁」と「論理学」ということで、ロジカルシンキングがうまくいっていない例を見つつ、それを論理学的に回避するにはという視点で見ていければと思います。
以下目次になります。
1. 「詭弁」とは何か、「詭弁」と「誤謬」の違い
2. 「詭弁」の具体例①
3. 論理学に基づいた「詭弁」の整理①
4. まとめ


1. 「詭弁」とは何か、「詭弁」と「誤謬」の違い
1節では「詭弁」とは何かについて取り扱います。

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詭弁 - Wikipedia

上記がWikipediaの記述の冒頭ですが、詭弁(sophism)は、「命題の証明の際に説得を目的として、実際には誤っている論理展開が用いられる推論で、誤っていることを正しいと思わせるように仕向けた議論である」とされています。ここでポイントとしては、(1)説得を目的としている、(2)実際には間違った内容を正しいと思わせる、の2点を意識しておくと良いと思います。また、「誤謬」との違いとしては、「詭弁」も「誤謬」もどちらとも間違っているという意味で(2)にはあてはまりますが、「誤謬」は意図的でないため、(1)にはあてはまらないということです。

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英語でsophismとされているのは、古代ギリシアソフィストを語源としており、修辞学や哲学、公教育としても実施されているなど肯定的な意味を持つこともあり、日本語の「詭弁」と必ずしも一致するものではないとされています。また、sophisticated(洗練された)もソフィストが語源のため、この辺は英語のニュアンスと日本語のニュアンスの違いについては注意が必要のようです。今回は「詭弁」について取り扱うので、肯定的なニュアンスについては考慮しないものとします。

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「詭弁」の解説としては、論理展開が(1)明らかに間違っている場合、(2)一見正しいように見える場合、の2つあり、(2)の正しいように見える場合は論理的には違反しているものの、間違った結論でも説得力が増してしまうとされています。このため、上記については、説得や交渉、プロパガンダ、マインドコントロールのテクニックとして用いられれることがあるとされています。

概要については概ね抑えられたので、1節はここまでとし、2節では具体的な例をご紹介していきます。


2. 「詭弁」の具体例①
2節では「詭弁」の具体例についてご紹介していきます。Wikipediaには29の具体例が挙げられているので、今回は最初の9項目について取り扱います。

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1つ目としては、前件否定の虚偽(denying the antecedent)が紹介されています。数学における論理として考えた際には、命題の「裏」を論証なく用いることを意味しています。命題が真であることは命題の「対偶」が真であることと同義ですが、「逆」と「裏」は命題の真偽とは必ずしも一致しないことに注意が必要です。

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2つ目としては、後件肯定の虚偽(affirming the consequent)が紹介されています。1つ目の前件否定の虚偽では命題の「裏」について着目していましたが、後件肯定の虚偽では命題の「逆」について着目しています。

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3つ目としては、媒概念不周延の虚偽(fallacy of the undistributed middle)について紹介されています。これはZがXの部分集合でないと成り立たない論理です。

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4つ目としては、早まった一般化(hasty generalization)が紹介されています。少ない例から普遍的結論を導こうとする論述で、帰納的に導いた結論を普遍的な結論として用いるのは間違っているとされています。生存バイアスがかかった議論などが同様な結論に行き着きやすいので、注意が必要だと思われます。

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5つ目としては、合成の誤謬(fallacy of composition)が紹介されています。「全体に対しての部分」にのみ着目して誤った結論に至るという点が特徴とされています。

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6つ目としては、分割の誤謬(fallacy of division)が紹介されています。5つ目の合成の誤謬の反対のパターンであると考えておけば良さそうです。

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7つ目としては、媒概念曖昧の虚偽 (fallacy of the ambiguous middle)が紹介されています。「S->M->PだからS->Pである」と論じているが、Mの使い方に一貫性がないため、論理的に破綻しているとされています。この辺は言葉の定義の明確化に気をつけた方が良さそうです。

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8つ目としては、連続性の虚偽 (Continuum fallacy)が紹介されています。「砂山」や「高額」などの言葉の定義が量に関して曖昧であることが指摘されています。例えば3kg以上を「砂山」と定義することで、この議論は回避することができます。

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9つ目としては、未知論証 (ad ignorantiam)が紹介されています。命題の「否定」が成立しないことを理由に命題が成立するとする論法になっています。

 

3. 論理学に基づいた「詭弁」の整理①
2節では9つの「詭弁」についてご紹介しました。これらを回避するにはどうしたら良いのでしょうか。今回だけで9つもあり、全部で29個も把握するとなると大変です。そこで、2節で取り扱った9つについて分類してみようと思います。

・命題(仮定と結論)についての論理や集合論
-> AならばBであるや、AはBであるための必要条件であるなどの論理で表現できる問題です。命題が真の場合、「対偶」も真ですが、「裏」と「逆」は真とは言えません。また、これらについては集合の含む含まれるなどを用いて全て表現できます。複雑な場合はベン図などを用いて図示すると良いです。これらの考え方を用いているのが1、2、3、7、9です。

帰納法を証明せずに結論として用いる
-> 帰納法を用いた際にその結論を普遍的な結論として取り扱う際は、必ず証明をする必要があります。数列などと関連して数学的帰納法の話が出ていた際は、必ず証明した上で結論を使っていたことを思い出していただけたらこの辺はしっくりくるのではと思います。この考え方を用いているのが4、5、6です。

・言葉の定義をずらす
-> 言葉の定義を曖昧にしてずらしているのが7、8です。7は言葉の定義を曖昧にした上で命題にあてはめているので、ここでもあてはまっています。

このように、2節で紹介しただけだと多くありそうに見えた「詭弁」の例ですが、このようにいくつかの視点に着目することでグルーピングを行うことができます。


4. まとめ
#1では「詭弁」の概要についてと、「詭弁」の例、また論理学の知見を背景にそのグルーピングを行いました。
#2では引き続き「詭弁」の例を見つつ、裏側の論理学について考察を進めていければと思います。