Ch.1_量子ビット系の量子力学|『量子情報科学入門』読解メモ #1

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量子コンピューティングの勉強会をした際に物理系の方にたくさん来ていただき話が非常に楽しかったので、今年は力を入れて勉強していこうと考えています。

詳しく勉強されておられる方に聞いたところ、上記の「量子情報科学入門」が良いとのことでしたので、こちらの本の読解メモをまとめていければと思います。
#1では1章として設けられている『量子ビット系の量子力学』の読解メモをまとめます。
以下目次になります。

 

1. 第1章_量子ビット系の量子力学
1.1 はじめに(1.1)
1.2 準備(1.2)
1.3 量子ビット系(1.3)
2. まとめ


1. 第1章_量子ビット系の量子力学
0章については文章が長くて読むのが大変そうだったので飛ばしました。0.5が本の構成でしたので、毎回最初に0.5節に戻るのが良いのではと考えています。1章の内容としては「簡略化されたベクトルと行列演算から成る量子論の定式化について扱う」とされています。物理学科の量子力学では歴史的な経緯や解析力学などから入るらしいのですが、量子情報科学の前提ではさほど必要ないそうなので省略してくれています(この辺からやると大変なので助かります)。具体的には、物理系、状態、物理量などの量子論の基礎概念について述べた後に量子ビットに限った量子論の定式化について取り扱うとされています。
1章内の構成としては、1.1のはじめにで概論を述べた上で、1.2では基礎概念の準備ということで物理系、状態、物理量の測定などについてまとめてくれています。1.3では量子ビット系を通じた量子力学の見方について話を展開してくれており、この辺から少しずつ雰囲気が出てくるような印象です。


1.1 はじめに(1.1)

ここでは概論や基本的な考え方についてまとめられています。非常に興味深かった記述として「量子情報科学を学ぶためには情報理論はもちろんのこと、量子力学を身につけることが必須となる。しかし、そのために必ずしも伝統的な教科書を紐解く必要はない。むしろ情報理論への応用を念頭に『どのような状態や測定が実現できるか?』、『どのような時間変化を実現できるのか?』という問題意識に基づいて量子力学の理論的構造を包括的に捉える方が望ましい」と書かれているところです。以前この辺勉強するにあたって古典力学シュレディンガー方程式の流れで入ろうとして時間がなくてざっくりの理解で終わってしまったので、やはり目的ありきでシンプルに学ぶ方が良さそうです。本では操作主義的な観点から、量子力学を一種の確率論として説明してくれています。この考え方は量子力学の解釈として最も有名なコペンハーゲン解釈(Copenhagen interpretation)に沿ったものであるそうです。

ある状態状態の下で、ある物理量の測定を行った時、どのような確率で測定値が得られるか?

本の流れとしては上記の命題(確率規則)を基本軸として、量子系の状態や測定の理論的記述を学ぶことが重要とされています。こちらの考え方は1章の中でも1.3で出てきます。

1章では最も簡単な量子系である量子ビット系(qubit system)を通じて量子力学の中でも、量子情報科学に必要なところをピックアップして解説してくれています。ざっくりとした説明として、いささか奇妙な規則で説明される確率論であるとされています。

上記で大体の基本的な考え方がつかめたので、1.2に移ります。

 

1.2 準備(1.2)

こちらの節では物理に精通していない読者のために様々な物理概念を導入してくれています。まずは1.2.1で述べられている重要なキーワードについてまとめます。

・物理系(physical system)
-> 物理学は自然現象を理解、記述、予言することを目的にしており、従ってまず前提として「何を対象としているか」を定める必要がある。その際の対象とする集まりを物理系と呼ぶ。

量子力学系(quantum mechanical system)
-> 物理系の中でも量子力学的効果が表れる物理系を量子力学系と呼び、典型例としては原子系、電子系、光子系がある。

・合成系(compound system)
-> 複数の物理系をまとめて対象とする場合を合成系と呼ぶ。

・物理量(physical quantity)
-> 物体の物理的性質を表す様々な量。具体的には粒子の位置、運動量、エネルギー、角運動量など。

・状態(state)
-> 感覚的には日常的に用いる「状態」をイメージすれば良いが、量子力学のように測定の確率的な予言を行う理論においては状態は「あらゆる物理量の測定を行ったときの測定値の確率分布を定めるもの」として定義される。

1.2.2ではベクトルや行列をベースにした数値演算の表記法についてまとめてくれています。Diracの表記法に基づいて列ベクトル[A]、共役な行ベクトル[B]、内積[C]、行列[D]について導入してくれています。Diracの表記法は数学界隈から評判が悪いらしいのですが、研究者レベルでの話なので気にしないで受け入れるで良いと思います。初等的な線形代数の知識があれば問題ないようなので、さほどハードルは高くないのではと思います。難しく感じる方は線形代数の前半だけでも先に軽く抑えた方が良いかもしれません。
ここではDiracの表記法の導入が主なので、「| >」をket、「< |」をbraと呼ぶことだけ抑えればあとは特に苦戦しないと思います。


1.3 量子ビット系(1.3)

1.3では量子ビット系(qubit system)を通じた量子力学の解説がされています。後ろの章との関連で読んだ方が良いため、ざっと読んだ感じですが1.1で出てきた「ある状態状態の下で、ある物理量の測定を行った時、どのような確率で測定値が得られるか?」を(1)~(5)で言い換えているようなので、一旦はここだけ抑えておくだけで十分だと思います。(この手の本の読み方として、全体の論旨と部分の対応を意識して構成で読むと早く読めるためこのような読み飛ばしは個人的には有用だと考えています。一番重要なのは全体の論旨を掴むことで細部は後から必要であれば振り返るで十分です)
以下、(1)~(5)についてまとめます。

(1) 状態は \mathbb{C}^2の単位ベクトル|ψ>で表される
(2) 測定は \mathbb{C}^2の正規直交基底{|φ_{0}>,|φ_{0}>}で表される
(3) 確率は確率振幅の二乗の形で与えられる
(4) 時間変化はユニタリ発展(unitary evolution)で記述される
(5) 測定過程は射影測定で記述される

一旦はこの辺を抑えておくで十分と思われました。追々必要になったら戻ってきたいと思います。


2. まとめ

ハードルが高いかも的な話が出ていたので少々身構えていたのですがここまでざっと見た感じ、結構読みやすそうです。一応学部生の講義から派生してまとめられたもののようなので、難易度的にもちょうど良さそうで続きが楽しみです。

もう少し読み進めたら構成見えそうなのでそのタイミングで一気に俯瞰できればと思います!