Ch_4 戦略とインターネット(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #8

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#7では第4章の『戦略とインターネット』の前編として、「インターネットの神話」までの内容を取り扱いました。

Ch_4 戦略とインターネット(前編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #7 - lib-arts’s diary

#8では第4章の『戦略とインターネット』の後編として、「インターネット競争の未来」以降の内容を取り扱います(2001年時の論述を元にしているようなので、時代背景を踏まえた上で解釈が必要と思われます)。
以下目次になります。
1. インターネット競争の未来
2. インターネットと競争優位
3. 戦略の不在
4. 補完としてのインターネット
5. ニューエコノミーの終焉
6. 感想・まとめ

 

1. インターネット競争の未来(簡単な要約)
今後、インターネット技術によって各業界がどのように変わっていくかは業界によって異なる。しかし、業界構造に影響を及ぼす競争要因について検証していくと、インターネット技術の導入によって多くの業界で収益性が圧迫されることが見えてくる。
新規起業と既存企業の戦いに、低い参入障壁が加わることで、多くの業界では企業の数が増え、それゆえにインターネットが登場する以前より競争が激しくなるという傾向が見られる。顧客がインターネットに慣れてくれば顧客はスイッチングコストが低いことに気づき、サプライヤーへのロイヤリティも次第に薄れてくる。
インターネットが業界構造に与える影響を考える際には長期的な影響を検討することが重要である。最終的には参入障壁を築けるかどうかが決定的に重要である。

 

2. インターネットと競争優位(簡単な要約)
インターネットが原因で多くの業界で平均収益性が低下していくならば、平均的な企業より高い利益を実現するために、各社とも横並びを回避することが重要である。その唯一の方法が、持続可能な競争優位を確立することであり、そのためにはコストをさらに低下させるかプレミアム価格を設定するか、あるいはその両方が要求される。
コスト優位もしくは価格優位には二つの方法があり、一つが「業務効果」の向上であり、もう一つが「戦略的ポジショニング」である。インターネットは業務効果と戦略ポジショニングそれぞれに異なる形で影響を及ぼす。業務面で優位性を維持するのは難しいが、インターネットによって新たなチャンスが生まれたり、独自の戦略ポジショニングが強化されたりする。

・業務効果
業務効果を向上させるツールの中でインターネットは間違いなく最強である。インターネットによってリアルタイムの情報をより簡単、よりスピーディに交換できるようになり、その結果ほぼ全ての起業と業界を横断する形でバリューチェーン全体が改善された。
しかし業務効果を改善しただけでは競争優位は得られず、優位性を獲得するには競合他社よりも高い水準の業務効果を実現・維持しなければならない。インターネットアプリケーションはその性質ゆえに業務面で優位性を維持することをこれまで以上に難しくする。

・戦略ポジショニング
業務効果の面で優位性を維持するのが難しいとなると、戦略的ポジショニングがますます重要になる。ライバル以上の業務効果を得られない場合、高水準の経済的価値を生み出すには独自の方法によって競争することでコスト優位かプレミアム価格を実現するしかない。
戦略の実行にあたっては成長だけでなく収益性に、また独自のバリュープロポジション(提供価値)を定義する能力に、そして「何をすべきでないのか」に関するトレードオフの選択に焦点を絞らなければならない。
戦略はベストプラクティスの追求とは全く異なる。戦略には独自のバリューチェーン(製品やサービスの生産と提供に必要な一連の活動)を構築することも含まれる。
さらに、バリューチェーンは高次元に統合されていなければならない。ライバルが戦略を模倣しようとしても、自己強化的なシステムとして各活動が相互に適合していれば製品の特徴を一つか二つ、もしくはある活動のやり方を真似るだけではおよそ十分でなく、システム全体を再現しなければならないので模倣は困難になる。


3. 戦略の不在(簡単な要約)
インターネットの導入にあたって多くの企業はトレードオフを軽視して思い付く限りの製品やサービスを提供することだけに集中してしまった。この際に多くの企業が戦略をないがしろにしたせいで業界構造はおかしくなり、競争は収斂に向かい、どの企業も競争優位を獲得することが難しくなった。結果として破滅を招くようなゼロサム競争が始まり、顧客の獲得と収益力の向上が混同されるようになった。
独自の戦略に注力し、独自の活動を整え、その適合性を高めることにおいて、インターネットは全世代のITよりも優れた技術プラットフォームを提供する。インターネットアーキテクチャーができたところでITは以前に比べて戦略にとって強力なツールになった。
バリューチェーン全体を網羅したITプラットフォームを導入すればインターネットアーキテクチャーとその規格をてこにして、一元化とカスタマイズの両方を施したシステムが構築され、活動間の適合性が一層強化される。
このような優位性を獲得するには箱を開けてそのまま使える、ありきたりのパッケージソフトを利用するのをやめ、その代わり自社独自の戦略に合わせてインタネット技術を導入・調整する必要がある。これこそ競争優位の持続可能性をもたらすものである。

4. 補完としてのインターネット(簡単な要約)
インターネットは既存事業とカニバリゼーションを起こしやすく、これまで積み上げてきた優位性を全て覆してしまうなどと言われているが、これは誇張された話である。インターネット技術は既存チャネルとカニバリゼーションを起こすことはなく、むしろ既存チャネルにこれまで以上のチャンスをもたらす可能性がある。
実際、インターネットを利用する活動は、顧客への情報発信、取引の処理、投入資源の調達など、競争に決定的な影響を及ぼす類のものではない。また、優秀な人材、独自の製品技術、効率的なロジスティックシステムなど、企業にとっての重要な資源も変わらない。
インターネットは従来の活動や競争のやり方と衝突するのではなく、むしろ補完するケースが多い。インターネットがもたらすチャンスの規模を現実的に評価するには、ネット事業を展開している業界と同じような特徴が見られる業界を調べてみると良い。インターネットを利用した活動とこれまでの活動の間に相互補完性が生まれる理由はいくつかあり、下記にまとめる。

1) ある活動にインターネットアプリケーションを導入すると、バリューチェーン内の様々な物理的活動を調整する理由が生じる。
2) ある活動でインターネットを利用すると、活動システム内の因果関係ゆえに、新たな活動や活動の改善が必要になる。
3) 従来の手法と比較すると、インターネットアプリケーションの大半がなんらかの限界を抱えている。

実際インターネットの利用と従来の手法は互恵関係にあることが多い。インターネットについて、カニバリゼーションを起こす存在と考えるのではなく、補完するものと考えられるようになれば全く異なる方法でオンライン事業を提供できるようになる。既存事業から隔離するよりも主力部門全てがその責任を負うべきであり、インターネットを成功裏に導入するという意欲が組織メンバー全員に欠かせない。


5. ニューエコノミーの終焉(簡単な要約)
インターネットは既存の業界や企業を破壊するものではなく、業界において最も重要な競争優位の源泉を台無しにすることもまずない。むしろ多くの場合、競争優位の源泉をより強化する。
あらゆる企業がインターネット技術を使うようになればインターネット自体が競争優位の源泉ではなくなり、ゲームの「掛け金」のようなゲームを続けるには必須だが、持っているだけでは何も得られないものになる。
揺るぎない競争優位は、従来からの強み(自社ならではの製品、独自性の高いコンテンツ etc)などから生まれてくる。インターネット技術は、各活動を独自の活動システムにまとめ上げることで、これらの優位性を強化するが、取って代わることはない。最終的には多くの業界において、インターネット、従来からの競争優位、競争のやり方の三つを統合する戦略が主流となるべきである。
我々は「インターネットはどのように違うのか」ばかりを考えてきたが、そのせいで「インターネットはどのくらい同じなのか」という点を見落としてきた。新しいやり方で事業を運営できるようになったとはいえ、競争の基本条件はなんら変わらない。インターネットを全体の戦略に統合することによってのみ、この新しい強力なツールは競争優位を生み出す強力な力に変わる。


6. 感想・まとめ
#8では第4章の『戦略とインターネット』の後編として、「インターネット競争の未来」以降についてまとめました。道具を使いこなせるように組織全体を変化させていくことは重要だが、道具そのものが強みにはならないということを言っており、非常に良い考察だと思われます。実際現代ではインターネットがあたり前のように普及したことで、書かれてある通りになっているように思われます。
#9では第5章の『競争戦略から企業戦略へ』について確認していきます。