Ch.2_計画は左脳で経営は右脳で|『H.ミンツバーグ経営論』読解メモ #3

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課題本として、「H.ミンツバーグ経営論」を設定したので読み進めていきます。

H.ミンツバーグ経営論 | 書籍 | ダイヤモンド社

#1、#2では第1章のマネジャーの職務(その神話と事実の隔たり)についてまとめました。

Ch.1_マネジャーの職務(前編)|『H.ミンツバーグ経営論』読解メモ #1 - lib-arts’s diary

Ch.1_マネジャーの職務(後編)|『H.ミンツバーグ経営論』読解メモ #2 - lib-arts’s diary
#3では第2章の「計画は左脳で経営は右脳で」についてまとめられればと思います。
以下、目次になります。
1. ナスルディンのカギ
2. 第一の質問
3. 第二の質問
4. 第三の質問
5. 右脳による経営
6. 左脳への影響
7. 感想・まとめ

 

1. ナスルディンのカギ(簡単な要約)
中近東の民話のナスルディンのカギというものがある。カギを探すにあたって見当違いのところを探してしまっていたというのがナスルディンのカギの概要ではあるが、この軽い小噺は使い古されているようで時間を超越した不思議な力を持っており、2章でまとめられている内容とも大きく関連している。
この話について考察する前に、以下の三つの質問について考える。

1) なぜある人間が非常に有能であると同時に非常に鈍重でありうるのか。言い換えるのであれば、ある種の知的活動をマスターすることには極めて優れているのに、他のことでは無能であるのか。
2) 当然知っているはずの明白な事実を読むか聞くかした時、人々が時として非常に驚くのはなぜか。
3) 組織の中において、少なくとも方針決定のレベルにおいては、経営の理論や計画と、実戦との間にどうして大きなギャップがあるのか。計画と分析の手法が、トップマネジャーの働きにあまり効果をもたらさないのはなぜか。

2章ではこれらの三つの質問に一応の答えを出しながら、章のテーマである「計画は左脳で経営は右脳で」を取り扱う。


2. 第一の質問(簡単な要約)
大多数の人の左脳には論理的思考過程が見出される。左脳の活動形式は線形(linear)であるようである。左脳では情報は連鎖的に一つ一つ順序よく処理される。最も強く線形の性質を持つのは言語である。これとは全く対照的に、右脳は同時並行的処理を特徴としている。その活動はより全体論であり相関的である。最も特徴的な機能は資格的なイメージの把握である。
このことにより、第一の質問に答えることができる。ある個人は同時に愚者と賢者になりうる。それは単純にどちらか片方の脳が他方よりもよく発達しているためによってである。
ある人たち例えば弁護士、会計士、プランナーたちの多くは、左脳の思考過程が非常によく発達している。他方で芸術家や彫刻家それからおそらく政治家などは、右脳の思考過程がよく発達している。
したがって、芸術家は自分の感じていることを言葉で表すことはできないし、反対に法律家は絵を描く素質が全くないということがある。つまり、政治家は数学を学ぶことが苦手で、経営学者は政治的活動の波の中では絶えず翻弄されることになる。


3. 第二の質問(簡単な要約)
第二の質問についても右脳と左脳を考えることによって説明することができる。知識を右脳だけが持っていたと考えると説明がつく。左脳はそれまでそのことを知らず、右脳がずっと以前から知っていたことを左脳が明示的に知ることがあると、それは天啓のように思えるのである。


4. 第三の質問(簡単な要約)
第三の質問は計画と経営のギャップの問題である。今まで経営の研究者たちは、理論的な分析という明るさの中に経営のカギを探し求めてきたが、それは間違いなのかもしれない。
計画という形式的な行為と経営という非形式な行為との違いは、人間の脳の両半球の違いに似ている。計画や経営学の手法は連鎖的であり、系統的であり、そして明快な説明がついている。一定の形式に基づいた計画策定は、左脳の活動と似た思考過程を使うものと思われ、さらにプランナーや経営学者は系統的で秩序だった世界の人間で、相関的、全体論的な方法にはあまり重きを置かないものである。
一方で、「組織の重要事項についての方針決定過程においては、右脳の活動に代表される資質の働きに依存するところが大きい」とも思われる。計画と分析についての新しい手法が次々に出現したのにも関わらず、方針決定のレベルにおいてはほとんど成功を収めなかったことの理由をこれによって説明できる。


5. 右脳による経営(簡単な要約)
経営に関する研究の結果から考えると、右脳思考の特徴が強く存在することがわかる。研究の中で何回も繰り返し出てくる事実として、経営という行為の重要な部分が計り知れぬほど複雑であり、奇怪だということである。
以下10項目にわたっての調査の結果をまとめる。

1) 観察した5人のCEOは、コミュニケーションの手段として書類の読み書きよりも、会議などの口頭の手段に依存することを強く望んだ。
2) マネジャーが受け入れる情報の多くはソフト(不確定)で、推測の入ったものである。一方で非常に分析的な情報、すなわち記録、報告書など全般的にハード(確定的)なデータは、多くのマネジャーにとってあまり重要ではないと考えている。マネジャーは情報を分析するのではなく、むしろ総合するのだと思われる。
3) マネジャーは組織の中で最も多くの情報を持っているが、その情報をなかなか従業員に流せない。したがって、すでに仕事をたくさん抱え込んだマネジャーが新たな事態に直面した場合、マネジャーはジレンマに陥る。
4) マネジャーの情報利用法は行動に結びつけることであって、思考ではない。
5) マネジャーの10の機能のうち最も重要性の高いのは、リーダー的役割、リエゾン的役割、および障害排除者であるということができる(他の7つは看板的役割、監視者、散布者、スポークスマン、交渉者、企業家、および資源配分者である)。
6) 戦略的意思決定の方法に関しては、七段階の「通常の手順」があり、それは「認識、診断、研究、設計、審査、評価・選択、認可」の七段階である。
7) 戦略的意思決定過程は重要な動的プロセスであり、意思決定はしばしば邪魔が入って中断されたり、タイミング(時間調整)のために繰り上げられたり、遅らされたりし、その結果脇道にそれたり同じ場所に戻ることを余儀なくされる。
8) 重要な問題についてマネジャーが多くの手段の中から慎重に選ばなければならない際は、基本的には三つの方法が挙げられる。この三つの方法としては、分析、判断、及び交渉である。
9) 戦略決定は、計画理論の文献がくどくど説明しているような整然とした、連続的で系統立った仕事ではなさそうで、最も一般的なケースでは非連続な仕事であって、手当たり次第に発作的に進めるものである。
10) 仮にある組織が戦略を持たないとすると、環境に対して一定の方法で対応することができず、新しい圧力が加わるたびに単に反応するだけになってします。この時に生み出される創造的で統合された戦略は、おそらく単一の頭脳の単一の右脳の産物である。

これら10項目の調査結果の結論としては、「組織の重要事項についての決定過程では、右脳の活動に代表される資質の働きに依存することが大きい」ということを裏付けるように思われる。

 

6. 左脳への影響(簡単な要約)
分析的な人間の集団は、多くの組織の実務部門や中間層では不可欠なものとなっているが、真の問題は方針決定レベルにある。ここでは理論的分析が直感と共存する(あるいは直感をリードする)ことを要求される。多くの分析者やプランナーにとってこれは容易に受け入れがたいことである。
この際に下記の二点を考えておくと良い。

1) プランナーは特別な状況においてのみ計画を作るべきである。
2) 方針決定レベルで有効な意思決定を行うには、良い分析的情報のインプットが必要であり、それをトップに供給するのがプランナーや経営学者の仕事である。マネジャーはソフトな情報を入手するという点では非常に有能であるが、往往にして同様に重要な分析的情報を過小評価しがちである。

 

フレデリックテーラーが前世紀末に実験を始めて以来、我々の組織を進歩させたのは、直感の領域から離脱して意識的分析を強めていくという活動であった。しかしマネジャーまたはマネジャーのそばで仕事をする人間は、分析的手法で扱うものと、直感の領域に残しておくべきものを注意深く区別する必要がある。当分の間、我々は経営のための失われたカギをその直感の分野に求めなければならない。


7. 感想・まとめ
#3では第2章の「計画は左脳で経営は右脳で」について取り扱いました。興味深い論述の印象でした。
#4以降では第3章について取り扱っていきます。