「詭弁」と「論理学」③|ロジカルシンキングを学ぶ #3

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連載の経緯は#1に記しました。

演繹的な論理学から入ると導入としては抽象的で難しいものになりそうなため、#1では「詭弁」と「論理学」ということで、ロジカルシンキングがうまくいっていない例を見つつ、それを論理学的に整理を行いました。
Wikipediaに「詭弁」の例として29例が挙げられていましたので、#1では9例、#2では12例を確認しました。

「詭弁」と「論理学」②|ロジカルシンキングを学ぶ #2 - Liberal Art’s diary

#3では8例を見た上で、論理学的にそれぞれを整理し、回避するにはどうしたら良いかについても議論ができればと思います。

詭弁 - Wikipedia

以下目次になります。
1. 「詭弁」の具体例③
2. 論理学に基づいた「詭弁」の整理③
3. 論理的に「詭弁」を回避するには
4. まとめ


1. 「詭弁」の具体例③
1節では#1、#2に引き続き、「詭弁」の具体例についてご紹介していきます。Wikipediaには29の具体例が挙げられているので、今回は22番目〜29番目の8例について取り扱います。

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22例目としては、権威論証(ad verecundiam)が紹介されています。「権威」は正しさとイコールではないので注意が必要です。また、「その分野における権威」ならまだしも、「その分野に詳しくない有名人」の言葉を「権威」として応用されることもあり、この辺は非常に注意が必要です。逆に「権威」を用いると良いのが「言葉の定義」などについてはありだと思います。「言葉の定義」は自分で行っても良いですが、主張に直接関係なければ他人の言葉を借りる方が「言葉の定義」についての議論は起きづらくなるので望ましいと思います。

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23例目としては、論点回避(Begging the question)が紹介されています。こちらは論理の前提を曖昧なまま結論を主張しているとされています。

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24例目としては、論点先取(petitio principii)が紹介されています。論点先取は論点回避の一つとされており、前提と結論に同じ情報を用いているとされています。「勤勉な人だから仕事を怠けるはずがない」というのはそもそも「勤勉な人」であるという前提をおいていることに注意が必要です。

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25例目としては、循環論証(circular reasoning)が紹介されています。循環論証は論点先取の一つとされており、「前提が結論の根拠となり、結論が前提の根拠となる」形式の推論を循環論証としています。「詭弁だから間違っている」は「間違っているから詭弁」をその後に続けることができるので、論理が循環してしまいます。

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26例目としては、含みのある言葉(loaded language)が紹介されています。こちらも論点先取の一つとされており、「論理性ではなく語調に頼った主張」であるとされています。三つの例の中で厄介なのがCで、AとBはなんとなく違うのではという印象を含んでいる一方で、Cは注意していないと気づかない可能性があります。「大人としての振る舞いが必要」と言えばそれっぽい客観的で冷静な批判に聞こえてしまいます。

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27例目としては、脅迫論証(ad baculum)が紹介されています。「誤った二分法」、「未知論証」、「権威論証」、「多数論証」なども絡んでくる可能性があるとされています。立場の弱い相手に使うのは良くない一方で、「外交」や「交渉」など対等な立場が前提となるやりとりの際などはこの「脅迫論証」のような論法も時には必要だと思います。ZOPAやBATNAなどの交渉の用語もこの論法と関連づけて抑えておくと良いと思います。

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28例目としては、多数論証(ad populum)が紹介されています。「多数派は必ず正しい」という誤った前提を用いる論法となっています。

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29例目としては、多重尋問(complex question)が紹介されています。こちらも「誤った二分法」と同様にYes/Noのどちらで答えても回答者が不利になるようになっています。小説などでは尋問を行う際などにこの辺は使われているようです(実際にはこのような論法は行われていないと願いたいです)。

 

2. 論理学に基づいた「詭弁」の整理③
今回は「前提に未証明の命題を入れる」関連の論法が多い内容となっていました。下記に今回取り扱った例の分類について簡単にまとめておきます。

・前提に未証明の命題を入れる(論点回避)
-> 「X->Y」の論理を行うにあたって、YではなくXにも不確かな命題を入れるという論法です。23〜26はそれぞれ論点回避とされています。

・論点のすりかえ
-> #2で出て来た論点のすりかえですが今回も用いられています。22、28がその例となっています。

・誤った二分法
-> 27と29は誤った二分法と考えておくと良さそうです。

今回は「X->Y」のXに命題を入れる論点回避についての例が多くなっていました。特に日本ではコンテキスト(前提)を共有する文化が強いので、日本人はこの手の論理には弱いかもしれません。通じない相手がいたとしても「コミュニケーション能力がない」と言うことで論点をすりかえるケースが多いようです。

 

3. 論理的に「詭弁」を回避するには
まず、#1〜#3でまとめた29例について改めて整理を行います。#1〜#3で行った分類とは若干異なりますが、こちらが全体を通してのまとめとなります。(厳密さよりも把握しやすさを優先しています)

◆ 命題(仮定と結論)についての論理や集合論
・「逆」、「裏」、「否定」などの利用
-> 1、2、9、11
・部分集合のごまかし
-> 3、7
・誤った二分法
-> 10、27、29

◆ 論点のすりかえ
・論じるポイントをずらす
-> 12〜16、19〜22、28
・仮定に命題を組み込む(論点回避)
-> 23〜26

◆ その他
帰納法を証明せずに結論として用いる
-> 4、5、6
・言葉の定義
-> 7、8
・「である」と「べきである」
-> 17、18

上記を見ると、大体の「詭弁」は論理学的な手法における論じ方そのものを変更したり、「X->Y」において論点をぼかしたり、Xに命題を入れたりのパターンで話が進んでいます。したがって、集合論とそれに絡めて命題、逆、裏、対偶、否定、必要条件、十分条件などを抑えておくことで、大体見抜くことができると思います。

また、確実に見分ける質問としては、「一言で表すとどういう事になりますか」というのが便利です。「詭弁」は表現の複雑さで相手を騙す論法のため、逆に考えれば「一言で言うと」見抜くことが可能になってしまいます。この際にさらに長々と話す相手がいたら一切信用すべきではないと思います。重要なのはとにかく意味のない形容詞を抜き、主語と述語のみにして話の理解を試みるのが良いかと思います。

他にも便利な表現は「結論はなんでしょうか」なども便利です。大概の物事は「結論 ↔︎ 過程」、「全体 ↔︎ 部分」、「抽象 ↔︎ 具体」で成り立っています。ですので、こういった質問を行うことで話をシンプルにするのも良いです。

 

4. まとめ
#3では「詭弁」についての8例を見た上で、論理学的にそれぞれを整理し、回避するにはどうしたら良いかについても議論を行いました。とにかく冷静に話をシンプルにしようと試みるのが良いと思います。