「詭弁」と「論理学」②|ロジカルシンキングを学ぶ #2

f:id:lib-arts:20200301203354g:plain

連載の経緯は#1に記しました。
https://lib-arts.hatenablog.com/entry/logical-thinking1
演繹的な論理学から入ると導入としては抽象的で難しいものになりそうなため、#1では「詭弁」と「論理学」ということで、ロジカルシンキングがうまくいっていない例を見つつ、それを論理学的に整理を行いました。
Wikipediaに「詭弁」の例として29例が挙げられていましたが、#1では9例しか確認できなかったため、#2では12例、#3では8例を見た上で、#3で論理学的にそれぞれを整理し、回避するにはどうしたら良いかについても議論ができればと思います。

詭弁 - Wikipedia

以下目次になります。
1. 「詭弁」の具体例②
2. 論理学に基づいた「詭弁」の整理②
3. まとめ


1. 「詭弁」の具体例②
1節では#1に引き続き、「詭弁」の具体例についてご紹介していきます。Wikipediaには29の具体例が挙げられているので、今回は10番目〜21番目の12例について取り扱います。

f:id:lib-arts:20200302233346p:plain

10例目としては、誤った二分法(false dilemma)が紹介されています。XはYとZの二つのどちらかであるという前提が正しくないのにも関わらずそれを仮定し、二つのうちの一つを否定することでもう一つを主張しようという論法です。営業や交渉のテクニックなどでこの辺はよく用いられている印象で、二択もしくは幾つかの選択肢を提示することで、逆にそれ以外の選択肢に関する思考を行わないように誘導するような論理構成になっています。

f:id:lib-arts:20200302234518p:plain

11例目としては、隙間の神(God of the gaps)が紹介されています。#1で9例目として取り扱った未知論証の一つとして神の存在を持ち出して説得を行なっています。

f:id:lib-arts:20200302234739p:plain

12例目としては、論点のすりかえ(Ignoratio elenchi)が紹介されています。政治家の答弁などでよく見られる論法です。違う話題を提示することで元々の論点と違う議論にしようとします。日常でも時折見られるこの論点のすりかえですが、対処法としては、「簡潔にお話ください」や「一言で言うと何ですか」などで判別することができます。論点のすりかえは、情報量で聞き手の思考を混乱させる論法のため、「一言でまとめる」ことができません。こうなってくると大体のケースで論理破綻が生じます。

f:id:lib-arts:20200302235502p:plain

13例目としては、ストローマン(Straw man)が紹介されています。相手の主張を極論化し、元々の主張に含まれていない事柄を加えることで論点のすりかえを行う論法です。こちらについても非常によく目にする論法です。

f:id:lib-arts:20200302235528p:plain

14例目としては、対人論証(ad hominem abusive)が紹介されています。発言者の主張ではなく発言者自身に対して個人攻撃を行うことで反論を行う論法です。発言者の主張の論理的な正否と無関係な主張のため、論理的に正しい反論ではないです。マスコミやSNSなどのメディアでよく用いられている論法である印象です。これも論点のすりかえとされています。

f:id:lib-arts:20200302235957p:plain

15例目としては、連座の誤謬(guilt by association)が紹介されています。こちらは対人論証の一種とされています。

f:id:lib-arts:20200303000719p:plain

16例目としては、状況対人論証(circumstantial ad hominem)が紹介されています。こちらについても対人論証の一つとされています。

f:id:lib-arts:20200303000736p:plain
17例目としては、自然主義の誤謬(Naturalistic fallacy)が紹介されています。「である」と言う観察事実から「べきである」と言う指針を引き出す論法であり、「である」から「べきである」を引き出すことはできないという主張をヒュームの法則と呼んでいるそうです。

f:id:lib-arts:20200303000801p:plain

18例目としては、道徳主義の誤謬(Moralistic fallacy)が紹介されています。道徳や規範を持って事実の結果を否定するという論法になっています。日本人がよく使いがちな論法で、戦時中の軍部内や現代の政治のシーンなどでもよく用いられている印象です。17例目とは反対に「べきである」から「である」を導き出そうとしています。

f:id:lib-arts:20200303000821p:plain

19例目としては、同情論証(ad misericordiam)が紹介されています。マスメディアがよく用いている論法で、個別ケースへの同情を持って論点をすりかえようとする論法になっています。

f:id:lib-arts:20200303000907p:plain

20例目としては、伝統に訴える論証(Appeal to tradition)が紹介されています。こちらもよく使われる論法で、前提の状況が異なる際などは注意が必要です。

f:id:lib-arts:20200303000924p:plain

21例目としては、新しさに訴える論証(Appeal to novelty)が紹介されています。こちらもよく使われる印象で、「最新の」をキャッチコピーに無駄なものを買わせようとするケースなどはどの業界でも多いのではと思います。

 

2. 論理学に基づいた「詭弁」の整理②
今回は「論点のすりかえ」関連の論法が多い内容となっていました。下記に今回取り扱った例の分類について簡単にまとめておきます。

・命題(仮定と結論)についての論理や集合論
-> 前回に引き続き、10例目と11例目は集合論などで整理しておくと良いと思います。

・論点のすりかえ
-> 12例目として出てきた「論点のすりかえ」は様々な状況で用いられています。12〜16、19〜21は論点のすりかえと考えて良いと思います。また、14〜16の対人論証はよく見かける論法のため、注意が必要であると思います。

・「である」と「べきである」
-> 17と18は対になっており、自然を観測した結果の「である」と道徳や倫理としての「べきである」というものを、それぞれをもう片方の根拠として用いています。この辺の論理展開についてはかなり慎重な取り扱いが必要であると考えるべきであると思います。

今回取り扱った例は「論点のすりかえ」が非常に多くなっていました。例としても多いですが、あらゆるシーンで「論点のすりかえ」は起こりやすいので、非常に注意が必要です。


3. まとめ
#2では#1に引き続き、「詭弁」の具体例を12例確認しました。
#3では引き続き、8例を見た上で論理学的にそれぞれを整理し、29例を総括して回避するにはどうしたら良いかについて考察できればと思います。