Ch_7 多国間交渉の難しさ ー 複雑な交渉を組み合わせる|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #8

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課題本として、「キッシンジャー超交渉術」を設定したので読み進めていきます。(国際政治ではなく、交渉術が本書のテーマのため、極力交渉術を中心にまとめていきます。あくまでアメリ国務長官の立場としての交渉のため視点に偏りがあるかもしれませんが、この点は論点としないものとします。極力交渉術のみにフォーカスするため、本の構成に沿わないで話を進めるところもあります。)

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#7では第6章の「ゲームを変える ー 合意・不合意のバランスを形成する」についてまとめました。

Ch_6 ゲームを変える ー 合意・不合意のバランスを形成する|『キッシンジャー超交渉術』読解メモ #7 - lib-arts’s diary

#8では第7章の「多国間交渉の難しさ ー 複雑な交渉を組み合わせる」について確認していきます。
以下、目次になります。
1. 冒頭部
2. 順序の決定と交渉キャンペーン
3. 感想・まとめ

 

1. 冒頭部(簡単な要約)
「いかなる場合も、交渉の相手は一国ではない」というのは、アメリカの優れた政治学者リチャードニュースタットがかつて鋭く指摘した言葉である。ローデシアにおける黒人多数支配の交渉やベトナム戦争に関連するパリの和平会談においてもキッシンジャーは多くの国や人と交渉を行っている。また、冷戦の緊張緩和と人権擁護を目的とする1975年のヘルシンキ合意につながる会談は明らかに多国間交渉であった。
多国間交渉の性質は二国間交渉の交渉とは本質的には異なり、参加する各国は合意を支持、あるいは反対するために連携したり離反したりする。当事者の数が増えるに従って、可能な連携や合意の組み合わせは指数関数的に増えていく。したがって多国間交渉では、ありふれた二者交渉に比べて、桁違いに高度な技術が求められる。交渉者はどのような連携が可能か、望ましいか、望ましくないかを予想し、それらを形成あるいは阻止するための戦略を考え出さなければならない。最近の交渉を見てもわかるように、多国間交渉で合意を得るために求められる交渉スキルの一つは多くの国を巧妙に扱うことだ。ヘンリー・キッシンジャーはこうした多国間交渉に通じていた。
キッシンジャーが極めて重要な役割を果たした多国間交渉に関わったのは、アメリカ、中国、ソ連の3カ国である。ソ連と中国をどう扱えば最大の利益が得られるかというキッシンジャーの算段の根っこにはかつてキッシンジャーが研究した、オットー・フォン・ビスマルクのアプローチがあるように思える。かつてビスマルクは他局的なヨーロッパ大陸プロシアを生きながらえさせた。キッシンジャーは1968年の論文で、「ビスマルクは他の列強が他のどの国とよりプロシアと近い関係になるよう、外交を操作し、そうやって他国をそれぞれ孤立させておけば、他国がプロシアの協力を求めた際に最高額を入札する国に協力を得ることができるようにした」と述べている。
三国間の交渉に限らず、キッシンジャーは常に多くの当事国とその利害の全システムを理解し、それに影響を与えようとしてきた。この際に公式の立場を進展させる前に、全ての当事者の立ち位置を注意深く調べる必要があるとキッシンジャーは述べている。交渉にあたっては「勝つための妨害」をいかに築き、「妨害するための同盟」をいかに阻止するかを考える必要がある。

 

2. 順序の決定と交渉キャンペーン(簡単な要約)
「勝つための同盟」を構築できるかどうか、そして「妨害するための同盟」を防いだり破ったりできるかどうかは、アプローチの順番にかかっている。成功のチャンスを最大にするためには最初に誰にアプローチするべきか、次はだれか、その次は..、と決めていく。つまり最終的な目標である合意にとって有利なように、一連の副次的な合意を積み上げ、舞台をセッティングする。そうした「勝つための同盟」を構築するための一連の交渉を、本書では「交渉キャンペーン」と呼ぶ。
キッシンジャーは最終的な目標である合意を定め、そこから遡って副次的な交渉を順次設定し、その各段階の交渉を最終的な目標にとってプラスになるように進めた。これらの交渉キャンペーンを成功させるにはどの集団がどの集団の決定に従うかを見極め、それらの国家間の影響力と敵対心のパターンを理解することが欠かせない。
合意を達成しようとする人は、「スポイラー(ぶち壊し屋)」と時に呼ばれる潜在的な敵と戦わなくてはならない。スポイラーは合意の形成や履行を阻止する力を持っており、交渉の途上では「妨害するための連携」が起きがちである。妨害に対処する戦略はいくつかあり、(1)スポイラーの一部を説得して味方につける、(2)利益や分前を約束して交渉の席に着かせる、(3)孤立させ恥をかかせる、(4)分裂させ征服するなどである。
一方で妨害者を無視するとか避けるといった戦略は失敗しがちである。「冷遇された」スポイラーの反応については、ドイツと連合国との戦争を終わらせた1919年のパリ講和会議を考えるとよく、1世紀前のウィーン会議と違って敗戦国のドイツはパリこうわ会議に招聘されず、結果としてベルサイユ体制は崩壊し、第二次世界大戦につながったとされている。キッシンジャーは何度も歴史に目を向け、強力な敵対につながる同盟の力学を深く調べた。そして、強国が小国に圧力をかけすぎると小国は連携して強国に対抗すると警告した。

これまでの章で見た特徴(戦略的、現実主義的、ゲームを変える)とともに、他国間交渉での鋭敏さはキッシンジャーが「ズームアウト」することを可能にした。キッシンジャーは一人一人の交渉相手と向き合いつつ、より大きな状況を分析し、自分に有利になるようにそれを形作っていった。次の問題は戦略レベルにズームアウトしながら、どうすれば面前の交渉相手にうまく「ズームイン」できるかである。


3. 感想・まとめ
#8では第7章の「多国間交渉の難しさ ー 複雑な交渉を組み合わせる」についてまとめました。国際政治などの分野でも出てきますが、多国間交渉というのは非常に複雑なものだなと思われました。交渉キャンペーンにおいては順序の決定が重要であるとされており、この観点が非常に参考になりました。
#9では第8章の「キッシンジャーの対人アプローチと戦術」について確認していきます。