Ch.6_マネジメントの技能|ドラッカーを読み解く #4
ビジネス本の名著とされているドラッカーですが、非常に良い本な反面、抽象的で読み解きにくいところもあるので読み解いた内容を元に諸々解説をまとめておければと思います。
エッセンシャル版を前提に読み解く上での参考になればということでまとめさせていただきます。
#1では第1章、#2では第3章、#3では第5章について取り扱いました。
#4では第6章のマネジメントの技能について取り扱えればと思います。
以下目次になります。
1. 6章を読み解く上での前提
2. マネジメントの技能(Ch.6)
2-1. 意思決定(Section27)
2-2. コミュニケーション(Section28)
2-3. 管理(Section29)
2-4. 経営科学(Section30)
3. まとめ
1. 6章を読み解く上での前提
6章ではマネジメントにあたって重要な位置を占める意思決定やコミュニケーションなど諸々についてまとめられています。そこまで前提知識が必要な章ではない印象なので、そのまま読んでみるで良いのではと思います。
2. マネジメントの技能(Ch.6)
Section27では日米の意思決定の違いから意思決定について論じられています。Section28ではコミュニケーションについて言葉の定義、説明とそれを企業に応用するには目標管理が重要だと述べられています。Section29では管理手段の特性と要件についてまとまっています。Section30では経営科学の研究対象や公準を定義し、マネジャーが経営科学に期待すべきことについて論じられています。
2-1. 意思決定(Section27)
Section27では日本企業と欧米企業の対比を元に意思決定についてまとめられています。それぞれのマネジメントスタイルの違いとしてはSection27の冒頭部分に欧米企業は『問題に対する答えに置く』一方で、日本企業は『合意に基づいて意思決定を行っている』と述べられています。そのため、意思決定は行動ありきでされているというような記述が見受けられます。(というよりも日本企業には意思決定という概念があまりないのかもしれません)
日本的な意思決定のエッセンスは次の5つであるとまとめられています。
① 何についての意思決定かを決めることに重点を置く。答えではなく問題を明らかにすることに重点を置く。
② 反対意見を出やすくする。コンセンサスを得るまでの間、答えについての論議は行わない。あらゆる見方とアプローチを検討の対象とする。
③ 当然の解決策よりも複数の解決案を問題にする。
④ いかなる地位の誰が決定すべきかを問題にする。
⑤ 決定後の関係者への売り込みを不要にする。意思決定のプロセスの中に実施の方策を組み込む。
これらはいかなる状況でも使えるものではないが、基本はどこでも使えるものであるとされています。以下それぞれのプロセスにおいて汎用的な内容に関してまとめられればと思います。
①については、何についての意思決定かを明らかにするために、問題に対する認識を合わせねばならないとされています。②については、意見の対立を促すことで不完全な意見に騙されることを防ぐ、代案を手にできる、自分自身や他の人の想像力を引き出せるというメリットがあるとされています。③ではなぜ意見が違う人がいるのかについて明らかにせねばならないとされています。④については後ろの言及が少ないようです。⑤については実行に当たって行動を促す必要がある相手をあらかじめ意思決定の論議に参加させることでセールスを行わないで良くするという風にまとめられています。
Section27は合議制的な意思決定のエッセンスを参考にしようというのが主旨なのではないかと思います。
とはいえ少々時代が変わった印象を受けており、現代のビジネスシーンでは重厚長大的な話よりも小回りが利いて意思決定が早いというのが全世界的な流れなのではないかと思います。
ある程度安定した企業におけるマネジメントとしては機能する方法なのかなと思うのですが、瑣末な意思決定に1ヶ月も2ヶ月もかけていてはビジネスチャンスを失ってしまいます。欧米的なマネジメントスタイルへのアンチテーゼとして捉え、こういう視点もあると客観的に捉えておくのが良いのかなという印象を受けました。
2-2. コミュニケーション(Section28)
Section28ではコミュニケーションについてまとめられています。
コミュニケーションは①知覚であり、②期待であり、③要求であり、④情報ではない。
上記をコミュニケーションの四つの基本としてまとめてくれています。それぞれ後ろの方でまとめてくれていて、①の『知覚である』というのは、『コミュニケーションを成立させるのは受け手である』と補足されています。そのため、コミュニケーションは受け手の言葉を使わなければ成立しないとされています。
②の『期待である』というのは、『人間の心は期待していない者を知覚することに対して抵抗し、期待するものを知覚できないことに対しても抵抗する』と書かれています。
③の『要求である』というのは、『コミュニケーションは受け手に何かを要求する。受け手が何かをすること、何かを信じることを要求する』とされています。
④の『情報ではない』は『コミュニケーションは知覚の対象であり、情報は論理の対象である』とされています。
ここまでの内容を元に、企業におけるコミュニケーションについて後半部分で議論されています。
上から下では、いかに懸命に行おうともコミュニケーションは成立しない。『何を言いたいか』に焦点を合わせているからである。コミュニケーションを成立させる者は発し手であると前提しているからである
前半部分を読んで日本的な印象を受けていた(何が正しいかの議論ができない場合があり、技術系のディスカッションなどでは危険)のですが、ここを読んだ際に指示出しの際のジレンマについての言及なのかなという印象を受けました。確かに、自分の言いたいことだけを話して、実際に実行する側に注意を払わないマネジメントを行われるケースもあったなと考えると、そういう意味では妥当なのではと思いました。
また、後ろの方では企業におけるコミュニケーションの前提として『目標管理』を挙げられていました。
目標管理においては部下は上司に『組織にいかなる貢献を行うべきか』について明らかにする必要があるし、それによって上司と部下の知覚の違いを明らかにするのが目標管理の最大の目的であるとされています。
この部分の記述は非常に納得でした。リモートワークが叫ばれる昨今ですが、打ち合わせまでリモートにすると正直効率が悪く、この理由が知覚の違いにあるのではと考えるとしっくりきます。チャットツールだけではどうしても期待値のすり合わせなどのコミュニケーションが非常に難しいと感じます。
Section28を全体を通してはコミュニケーションを目標管理に落としているのは面白い着眼点だなと思いました。
2-3. 管理(Section29)
Section29の管理では組織における管理手段の特性についてまずまとめられています。
① 管理手段は純客観主義でも純中立主義でもありえない
② 管理手段は成果に焦点を合わせなくてはならない
③ 管理手段は、測定的な事象のみならず、測定不能な事象に対しても適用しなければならない
それぞれ言葉通りではあるのですが、①の純粋な意味で客観的でも中立的でもないというのは意識しておくと良いのではと思いました。何かの数字を必要以上に重要視されるケースなどもあり、その際は本質的でない議論に行き着く印象です。
また、管理手段は七つの要件を満たさねばならないとされています。
① 管理手段は効率的でなければならない
② 管理手段は意味のあるものでなければならない
③ 管理手段は測定の対象に適していなければならない
④ 管理手段の精度は、測定の対象に適していなければならない
⑤ 管理手段は、時間間隔が測定の対象に適していなければならない
⑥ 管理手段は単純でなければならない
⑦ 管理手段は行動に焦点を合わせねばならない
こちらも言葉通りだと思います。印象的だったのは、④と⑦です。④はデータ分析をしているとよく細かいところの精度をについて確認されることが多いのですが、そもそも事象の特性よりも複雑な分析を行うとビジネス的にミスリードを生んでしまうというケースがあります。ですので、分析を行う際には必ずビジネス背景をしっかり把握した上で分析を行わなくてはなりません。
また、⑦も興味深いです。情報収拾や調査が目的の仕事はダメで、必ずアウトプット(成果物)を意識する必要があるというのは仕事を進める上で非常に重要な観点となります。
2-4. 経営科学(Section30)
Section30では経営科学についてまとめられています。全体の論旨としては、経営科学の誕生の経緯から欠点を述べた上で諸々論述がまとまっています。
まず、経営科学の誕生の経緯として、物質系の研究のための数学的な手法のいくつかから発展したため、経営科学の仕事のほとんどが、『企業とは何か』、『マネジメントとは何か』、『企業とそのマネジメントに必要な者は何か』に関心を払わずに進められたとされています。なので、経営科学の対象として、『企業とは人から成るシステムである』という理解を含まねばならないと論じられています。
『企業は人から成るシステムである』前提に基づいて、経営科学の公準についてまとめてくれています。
① 企業とは社会的、経済的な生態システムの一員である
② 企業は人(顧客)が価値があるというものを生み出す存在である
③ 企業は測定のシンボルとして金銭という特有のシンボルを使用する
④ 企業にとってリスクを冒すことは基本的な機能である
⑤ 企業は新しい状況に適合する進化の能力を持つと同時に、周囲の状況に変化をもたらす存在である
これを元に、『経営科学の主な目的は正しい種類のリスクを冒せるようにすることでなければならない』とされています。また、マネジャーは経営科学を生産的にするために以下の四つを経営科学に期待、要求せねばならないと述べられています。
① 仮定の検証
② 正しい問題を明らかにする
③ 答えではなく代替案を示す
④ 問題に対する公式ではなく理解に焦点を合わせる
Section30を解釈すると、マネジャーは経営科学を用いてビジネス課題を把握し整理するために用いるべきだというのがここでの結論なのではと思います。日本人はコンサルタントを使うのが下手な印象があるので、その辺に話が繋がってくるかなという印象でした。
3. まとめ
マネジメントを行うにあたってのスキル的な話として、意思決定、コミュニケーション、管理、経営科学の観点から論述されていました。コミュニケーションを目標管理に適用したり、経営科学を問題の整理に使ったりなど面白い視点はいくつかあったのですが、全体的にはもう少しテクニカルな分析が欲しいなという印象ではありました。
後日今回の内容をベースに別文献をあたってみたいと思います。