Ch_1〜2 イノベーションと企業家精神etc|『イノベーションと企業家精神』読解メモ #1

f:id:lib-arts:20190403170719p:plain

上記のドラッカーの「マネジメント」のエッセンシャル版の付章を読んで、他の著作も時代背景を踏まえながら読んでみたいと思ったので、1985年頃の著作である「イノベーション起業家精神」を読みながら読解メモをまとめていきます。

イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】 | P.F.ドラッカー 著/上田惇生 編訳 | 書籍 | ダイヤモンド社
#1ではPart1の「イノベーションの方法」から、Ch.1の「イノベーションと企業家精神」とCh.2の「イノベーションのための7つの機会」について取り扱えればと思います。
以下目次になります。

1. イノベーションと企業家精神(Ch.1)
1-1. 企業家の定義
1-2. 変化を利する者
1-3. 企業家精神のリスク
1-4. Ch.1を読んでみての感想、考察
2. イノベーションのための7つの機会
2-1. イノベーションとは何か
2-2. イノベーションの体系
2-3. 七つの機会
2-4. Ch.2を読んでみての感想、考察
3. まとめ

 

1. イノベーションと企業家精神(Ch.1)
1-1. 企業家の定義(本の内容の要約)
1800年頃にフランスの経済学者のJ・B・セイは「企業家は、経済的な資源を生産性が低いところから高いところへ、収益が小さなところから大きなところへ移す」という形で「企業家(entrepeneur)」という言葉を作った。が、一方で言葉ができて以来、いまだに企業家と企業家精神の定義は確立していない。リスクを冒すという定義の仕方も、政治家や軍の将校など意思決定を行う人間にはリスクが付きまとうので厳密ではない。
とはいえ、意思決定の本質は不確実性にあり、不確実性に伴いリスクを冒した上で意思決定を行うことができる人ならば学ぶことによって、企業家的に行動することも企業家となることもできる。企業家精神とは気質ではなく行動である。
企業家精神の基礎となるのは勘ではなく原理であり方法である。


1-2. 変化を利する者(本の内容の要約)
あらゆる仕事が原理に基づいており、企業家精神も同様に原理に基づく。企業家精神の原理とは、「変化を当然のこと、健全なこととすること」である。シュペンターが明らかにしたように、企業家の責務は「創造的破壊」である。
企業家や企業家精神の定義は、「変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用する」と考えることができる。


1-3. 企業家精神のリスク(本の内容の要約)
一般には企業家精神には大きなリスクが伴うと信じられている。成功しないかもしれないというリスクはあるが、多少なりとも成功すればその成功はいかなるリスクをも相殺して余りあるほどに大きいので、単なる最適化よりもはるかにリスクが小さいと考えることができる。
イノベーションが必然であって大きな利益が必然である分野、すなわちイノベーションの機会がすでに存在する分野において、資源の最適化にとどまることほどリスクの大きなことはない。論理的に言って、起業家精神こそ最もリスクが小さく、企業家精神のリスクについての通念が間違いであることを教えてくれる企業家的な組織はAT&TIBM、P&G(85年の著作なので3社とも当時の時代背景を加味して言及されていることは注意が必要)など身近に色々とある。上記の3社の企業は低いリスクのものにイノベーションを成功させてきた、企業家的な企業のごく一部に過ぎない。偶然とするには、あまりに多くの企業がイノベーションを成功させている。


1-4. Ch.1を読んでみての感想、考察
1-2の「変化を利する者」で企業家の定義として言及されている、「変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用する」というのがCh.1のキーメッセージだと思われました。安定していているものではなく、大きく変化しているものに着目するとしているのが興味深かったです。
数理最適化などについて諸々学習していると、変化の値(微分)を用いて考察することなども多いので、そういうのと関連のイメージで捉えていくのもありだなと感じました。どの分野でも変化に着目するというのは意味のある考察ができるので非常に重要であると思います。

 

2. イノベーションのための7つの機会
2-1. イノベーションとは何か(本の内容の要約)
イノベーションは富を想像する能力を資源に与える。それどころか、イノベーションが資源を想像する。ここで注意すべきは「人が利用の方法を見つけ経済的な価値を与えない限り、何ものも資源とはなりえない」ことである。
イノベーションは技術に限らず、モノである必要さえない。それどころか社会に与える影響力において、新聞や保険をはじめとする社会的なイノベーションに匹敵するものはない。例えば割賦販売は経済そのものを供給主導型から需要主導型へと変質させるなどで、イノベーションを起こしている。
イノベーションとは、技術というよりも経済や社会に関わる用語であることに注意が必要である。


2-2. イノベーションの体系(本の内容の要約)
19世紀における技術史上最大の偉業は、発明の発明であるとされている。第一次世界大戦が勃発した1914年ごろにはすでに発明は開発研究すなわち目的とするせいかと実現可能な成果について計画を立てる体系的な活動になっていた。
イノベーションについもこれと同じ発展が必要である。今や企業家は体系的にイノベーションを行わねばならない。企業家として成功する者は、その目的が金であれ力であれ好奇心であれ、価値を創造し社会に貢献する。価値と満足を創造し、単なる素材を資源に変える。あるいは新しいビジョンのものに既存の資源を組み合わせる。この新しいものを生み出す機会となるものが変化である。イノベーションとは意識的かつ組織的に変化を探すことである。
誤解されがちだが、ライト兄弟による飛行機の発明のような技術的イノベーションはむしろ例外に属し、実際には成功したイノベーションのほとんどが平凡である。従ってイノベーションの体系とは、具体的処方的な体系である。それは変化に関わる方法論で、企業家的な機会を提供してくれる典型的な変化を体系的に調べるための方法論である。


2-3. 七つの機会(本の内容の要約)
具体的にはイノベーションの機会は7つある。
最初の四つは企業や公的機関の組織の内部、あるいは産業や社会的部門の内部の事象である。従って内部にいる人たちには良く見えるものである。第一が「予期せぬことの生起」、第二が「ギャップの存在」、第三が「ニーズの存在」、第四が「産業構造の変化」である。
残りの三つの機会は、企業や産業の外部における事象である。第五が「人口構造の変化」、第六が「認識の変化、すなわちものの見方、感じ方、考え方の変化」、第七が「新しい知識の出現」である。
これら7つのイノベーションの機会は截然とわかれているわけではなく互いに重複する。それはちょうど七つの窓に似ており、それぞれの窓から見える景色は隣り合う窓と余り違わないが部屋の中央から見える七つの景色は異なる。七つの機会それぞれが異なる性格を持ち、異なる分析を必要とする。
七つの機会の順番には意味があり、信頼性と確実性の大きい順に並べてある。一般に信じられていることとは逆に、発明発見特に科学上の新知識はイノベーションの機会として、信頼性が高いわけでも成功の確率が大きいわけでもない。新知識に基づくイノベーションは目立ち重要ではあっても、信頼性は低く成果は予測し難い。
これに対し、日常業務における予期せぬ成功や予期せぬ失敗のような、不足のものについての平凡で目立たない分析がもたらすイノベーションの方が、失敗のリスクや不確実性ははるかに小さい。またそのほとんどは成否は別として、事業の開始から成果が生まれるまでのリードタイムが極めて短い。


2-4. Ch.2を読んでみての感想、考察
2-1の「イノベーションとは何か」で言及されている、イノベーションを技術的な側面ではなく、経済や社会に関わる用語として捉えているのがまず最初に注目すべきだと思われました。「技術革新」と訳されることが多く、技術的な側面で認識されがちなので注意が必要だなと思いました。「価値を生み出す」というのにより注意を向けるべきだと思われました。
また後ろの方では、成功したイノベーションの中で派手な例もあるもののそういった例は稀で、産業や社会的部門の内部の事象をベースとする平凡なイノベーションの方が多いとされており、こちらも意識が必要だなと思いました。派手な例が注目されがちなので、こういった考え方は非常に重要だと思いました。


3. まとめ
企業家とは「変化をマネジメントする者」、イノベーションとは「経済的社会的価値を生み出すこと」の二点がCh.1〜Ch.2の中で最重要なキーセンテンスだと思われました。
この辺は様々な意味で使用されることも多いので、言葉の使用にあたっては注意が必要だと思われました。