政治学史から俯瞰する政治学

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昨今は価値観が多様化し、評価の難しい社会の状況となりました。ソーシャルメディアなどでは意見の多様化に伴い意見が極端になり、デマなども飛び交う状況が散見される印象です。
この状況において、「何が正しくて何が正しくないか」を判断するのは大変難しいです。多くの人は「誰の発言か」で決めがちである印象ですが、「発言者へのフォーカス」はある程度は良いものの、行き過ぎるとこれも弊害を生みます。
もちろん様々な意見の尊重も重要ですが、ある程度普遍的な「正しさ」については政治学を抑えると良さそうです。政治学は政治哲学と政治過程論に分けられるとされていますが、政治過程論はテクニカルな話題なので当記事では基本的には政治哲学にフォーカスしようと思います。一方で、政治哲学は評価の難しいものである故、政治学史から俯瞰することで大まかな概要の理解を行えればと思います。
基本的には下記のWikipediaの記載を参考に再構成し、考察を加えたいと思います。

政治学史 - Wikipedia

以下、今回の目次になります。
1. 政治哲学の概要
2. プラトンアリストテレス
3. コモン・ロー(common law)
4. 社会契約(social contract)
5. 現代政治学
6. まとめ・考察


1. 政治哲学の概要
1節では政治哲学の概要について取り扱います。

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政治学 - Wikipedia

まず政治哲学についてですが、上記のように政治学の「政治哲学」と「政治過程論」の二領域を考えた際の一つくらいにざっくり掴んでおくと良いかと思います。広義、狭義についての記載は概要を掴む上ではそれほど気にしなくて良いと思われるのでここでは流します。

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政治哲学 - Wikipedia

さて、「政治哲学」についてですが、政治哲学(Political philosophy)は「政治に関する哲学」と記載されています。ざっくりし過ぎているのでもう少し詳しく確認します。

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上記の記載は少し難しいですが、「政治哲学が扱う主題」についてフォーカスすることである程度理解が深まるかと思います。

① 国家の本質
② 政治と倫理の関係
③ 政治と自由の関係
④ 政治と法の関係
戦争と平和

上記の5点が挙げられていますが、憲法や集団安全保障、哲学などを考えることである程度俯瞰が可能であるかと思います。また、これまでの有名な学者などが挙げられているので、2節以降ではプラトンアリストテレスのような古代ギリシャの哲学や、ホッブズ、ロック、ルソーなどに代表される「社会契約」、現代政治学などについて政治学史の観点から主に取り扱っていきます。


2. プラトンアリストテレス古代ギリシャ
2節ではプラトンアリストテレスについて取り扱います。

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まず前提として、ポリス(polis)のような都市国家が形成されていたことについては抑えておく必要があり、古代ギリシャから共和制ローマにかけては都市国家とその同盟都市という形式で政治社会が形成されていました。代表的な哲学者としてはプラトンアリストテレスが有名で両名ともに古代ギリシャの哲学者ですが、共和制ローマの文化面は概ね古代ギリシャから引き継いでいるため、ある程度一括りにして考えるで良いかと思います。

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さて、プラトンアリストテレスの対比としては、理想論としてのプラトンと現実に基づいた考察が中心のアリストテレスと考えるのが良さそうです。

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また、アリストテレスは国制を大きく六分類しているので、こちらについても簡単に紹介だけしておきます。

プラトンアリストテレスについては現代とは状況がある程度かけ離れており、あまり詳しく考え過ぎるとわからなくなるので、2節についてはこのくらいとできればと思います。


3. コモン・ロー(common law)
3節ではコモン・ロー(common law)について取り扱います。コモン・ローは11〜12世紀頃のイギリスにおいて成立したとされています。

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まずこの頃の中世国家の特質としては「地域国家」というのがあり、現代社会における「暴力(軍隊、警察など)の独占としての国家」ではなく、国王や領主がそれぞれ軍事力を持ち、支配関係が流動的でした。また、教会にも権威があり、国家にある権力とバランスをとった上で成立していました。司法としては「伝統と慣習」が重んじられていたとされています。

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さて、コモン・ローについてですが、イングランド王国の一般慣習法から法曹院を通じて整理・体系化され、君主の権力に対する「コモン・ローの優位」が確立され、王権神授説に対する有力な対抗理論となり、名誉革命後の権利の章典につながったと理解しておくと良さそうです。
また、コモン・ローの特質としては下記の5点を抑えておくと良いかと思います。

① 法の支配
司法権の独立
陪審
判例法主
⑤ ローマ法からの疎隔

コモン・ロー - Wikipedia
また、コモン・ローは「慣行(usages)と慣習上の準則(customary rules)で成り立ち、私人間の正義(private justice)と公共の福祉の一般原理が加えられたもの」としても抑えておくと良いかと思います。

3節のざっくりとしたまとめとしては「コモン・ローは主に慣習に基づいて成立した法」と抑えておけば良いかと思います。


4. 社会契約(social contract)
4節では社会契約(social contract)について取り扱います。ルソーの「社会契約論」が主に話題にあがりがちな一方で、「社会契約」という概念自体はトマス・ホッブズジョン・ロックなどがルソーの前に取り上げているので、当記事では「社会契約論」ではなく、「社会契約」として取り扱うこととしました。

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社会契約 - Wikipedia

「社会契約」については、「ある国家とその市民の関係についての契約」に関する用語であり、国家の正当性を示す理論展開がされます。ホッブズの「リヴァイアサン(1651年)」に記載される「万人の万人に対する闘争(決定的な能力差の無い個人同士が互いに自然権を行使し合った結果として生じる争い)」のような状況を回避するために、「社会契約」が必要であるというのが主な論理の流れです。またこの時、国家の正当性は「社会契約」に基づいて成立していると考えるため、王権神授説に基づく君主主権は否定されます。

詳細の理論展開には多くの類型があるようですが、ホッブズ、ロック、ルソーなどを主に抑えておけば概ね十分そうです。


5. 現代政治学
5節では現代政治学について取り扱います。

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まず先駆けとして、イギリスにおける選挙法改正による労働者階級への選挙権の付与の反面、政治的無関心状況に陥ったことをもとに、「制度として民主主義が確立した一方で、実際の状況が民主主義の本質とはかけ離れていること」が危惧されていました。この状況で先駆的な著作としてウォーラスの「政治における人間性(1908年)」が発表されました。
また、現代政治学は様々な議論がなされていますが、「政治哲学」の面で非常に興味深いのがジョン・ロールズの「正義論(A Theory of Justice, 1971)」です。

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上記の記載のように、ロールズホッブズ以来の「社会契約論」を再構成し、功利主義に変わって「公正としての正義」を唱えました。「不平等の存在を前提としつつも自由と平等の調和」を考え、均等な機会のもと自由競争を行い、その結果を国家の再分配によって調整するというのがロールズの主張です。

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正義論 (ロールズ) - Wikipedia
ロールズの「正義論」の原理は上記とされており、それぞれ「公共の福祉(他者の人権への配慮)」、「適切なレベルの不平等であること(勤労意欲を可能な限り失わせないように調整する必要性)」、「機会平等(誰にでもチャンスがある)」と解釈するのが良いかと思います。

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また、この原理を実現するにあたっては、「原初状態」を考え、制度の議論にあたっては「無知のヴェール」がある前提で議論すると良いとロールズは提案しました。

現代政治学では様々な研究がなされていますが諸々の確認をすると難しくなるので、5節はここまでとします。

 

6. まとめ・考察
6節ではまとめと考察を行います。まずまとめですが、政治哲学とは「政治に関する哲学」であり、「何が良くて何が良くないのか」を可能な限り客観的に考察するため、「正義」とも近しい概念です。現代的な観点で俯瞰するなら社会契約に基づいてロールズの正義論について考えると、大まかに把握できるのではないでしょうか。
もちろんロールズの正義論には、マイケル・サンデルアラスデア・マッキンタイアといったコミュニタリアンからや、ノージックなどリバタリアニズムからなど様々な指摘があがっていますが、大枠としてはある程度ベースとして良いのではないかと思います。もちろん状況によって修正は必要ですが、ベースの理論としては使えるのではないかと思います。また、ロールズは指摘などを受けて「政治的リベラリズム(1993年)」で「重なり合う合意」(overlapping concensus)や「公共的理性」(public reason)などを論じているのでこれも抑えておくと良いかと思います。

以下、考察になります。

・公共の福祉
・適切なレベルの不平等
・機会平等

上記を「無知のヴェール」に基づいた「原初状態」をもとに考えることで概ね公正な社会が実現できるのではないかと思います。行き過ぎた資本主義はレントシーキングのようなモラルハザードを引き起こすし、行き過ぎた社会主義は労働意欲の減少を伴う可能性があります。これらについて程よく調整したのが「正義論で論じられた公正」なのではないかと思います。

ここまでの話を基本原理として、様々な制度や政治に見ていくことでより本質的な洞察が得られるのではないかと思われました。