Liberal Artsに基づく21世紀型民主主義の実現にあたって|Liberal Artsを考える #2

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21世紀は非常に難しい時代です。これまでの人類の歴史は発展の歴史として見ることもできますが、18〜19世紀の産業革命から20世紀を通して「需要」と「供給」の力関係が変わったというのが考察の難しいポイントだと思います。「需要」が大きく「供給」があれば売れるという時代から、「供給」が多過ぎて「需要」が追い付かないという時代に変わってきた、というのが昨今の流れではないでしょうか。
しかし、世の中の関心はいまだに「供給」に向いている印象で、結果デフレが続いていると見て良いのではないでしょうか。デフレ、インフレについては難しい解説が多いですが、単に「需要」>「供給」がインフレ、「需要」<「供給」がデフレと考えておけば理解しやすいです。

さて、デフレが続く状況ですが、社会全体が豊かになったはずが、上記で論じたように「自由に選べない」人が増えていないでしょうか。とはいえ、「結果平等」を求めてしまっては社会の停滞にもつながりかねませんし、それを懸念する方も多くおられると思います。

当記事ではこれらの背景を踏まえ、解決策として「Liberal Artsに基づく21世紀型民主主義の実現」を提唱したいと思います。解決策のポイントとしては、「社会」を「経済」ではなく一段高度な「政治」の視点から見るということですが、「政治」の取り扱いは非常に難しいです。「経済」は「売上」や「利益」などでKGIを数値化できますが、「政治」はそもそも「KGIを何にするか」から論じなくてはなりません。「王による圧政」、「エリート主義」、「衆愚政治」など、様々な失敗例があります。
「中間層(ラフに上位20%〜80%を指すものとします)が力を持った状態における、Liberal Artsに基づく民主主義」が「政治」の運用においては最も正統ではないかという考え方に当記事は基づき、21世紀型の民主主義の実現について論じてみようと思います。
以下、目次になります。
1. 民主主義が機能する条件とは
2. なぜ中間層が力を持つ必要があるのか
3. ケインズ経済学による中間層の強化
4. Liberal Artsに基づく民主主義の運用とは
5. まとめ

 

1. 民主主義が機能する条件とは
1節では民主主義が機能する条件について論じてみようと思います。簡単に列挙してみます。

有権者の大半(8割以上)がラフなレベルで政策の概要を正確に把握している(詳細を把握することよりも概要を正しく理解する方が重要)
・多様な有権者の意見を反映する制度であること(小選挙区制は少し疑問符)

上記のように列挙しましたが、「概要を正確に把握する」というのが特に重要だと思います。「1人1票」という大原則があるわけですから、いわゆる「知識マウント」のような議論はNGで、「運転免許のように30分〜1時間講習を受ければある程度わかるような粒度」で多数が理解するという状況が望ましいです。
また、「多様な意見を反映する制度であること」、ですが、現行の小選挙区制は「組織票」に脆弱であり、もう少しロバストな制度の方が望ましいかと思います。そういう意味ではかつての「中選挙区制」の方が権力が集中し過ぎず、良い制度だったかもしれません。

さて、二つの条件について見てきましたが、現状「政治」が難しく見えるものになっており、SNSではデマが飛び交ったりすることでさらに正確な情報へアクセスすることが難しくなっています。また、非正規労働などの増加により中間層に余裕がなくなっているというのもよくない傾向で、こちらについては続く2節で考えたいと思います。

 

2. なぜ中間層が力を持つ必要があるのか
1節では「民主主義が機能する条件」として二つまとめましたが、「有権者の大半(8割以上)が正しく政策の概要について理解する」というのはそれほど簡単なことではありません。投票率についても話題になりますが、興味・関心以前の問題として「内容がよくわからない」というのがあるのではないでしょうか。
ここで注意が必要なのが「正しく理解する」については「選抜試験」ではなく「通過儀礼」的なものであるべきであるということです。そのため、個々人の才覚に可能な限り依存せずに全員が政策に対して同様な「事実認識」を持てるかというのが非常に重要になります。ここで同様な「意見」ではなく「事実認識」としているのも重要な点です。「意見」は多様であっても良いですが、「事実認識」はある程度揃えないと「デマ」が飛び交う原因にもなり「集団における意思決定」は非常に困難になります。
ですが、この「事実認識」をある程度揃えるというのはかなり難しいです。ここで重要になるのが「中間層が力を持ち、豊かである」ということです。中間層がある程度豊かに暮らせているか、それとも周囲にとってマイナスになっても自分のプラスを追求するか、によって多数派の「事実認識」が異なってきます。人はある程度余裕がある時であれば客観的に考えられる話題でも、余裕がなければ「事実認識」に歪みが出ることが多いです。
このように中間層がある程度豊かであれば、「有権者の大半が正しい事実認識に基づいて意思決定」ができるようになると思います。

上記では古代ローマにおけるポエニ戦争を取り扱っていますが、この当時のローマが強かったのは「市民」を中心とした統治に一因があったと考えて良いと思います。

それでは、中間層を豊かにするにはどのようにするのが良いでしょうか。3節ではこの鍵になる考え方としてケインズ経済学について考えます。

 

3. ケインズ経済学による中間層の強化
経済学は様々な流派があり、詳しく見ていくと大変ですが、概ね下記の3つに分けられるかと思います(出典などはなくいい加減でラフな理解ですが、何も知らないよりは8割わかる方が良いという意味での分類です)。

・古典派経済学(ミクロ経済、セイ、フリードマン新自由主義、金融政策)
ケインズ経済学(マクロ経済、有効需要、財政政策)
マルクス経済学

よく見かけるのが、「フリードマン経済学」と「マルクス経済学」の対比で、「資本主義」と「社会主義」の比較としての議論ですが、これはそれほど有意義な議論にはならないように見ています。「マルクス」はどうしてもかつてのソ連(スターリン)などのイメージも強く、あまり論じない方が良いのではと思います(マルクスについては学術的な論考としては触れる方が望ましいですが、一般向けの解説としては望ましくなさそうです)。
なので、現代社会においては「需要」にフォーカスする「ケインズ経済学」と「供給」にフォーカスする「フリードマン経済学」の対比で考えると良いのではと思います。

上記の5節で論じたように、「ケインズ経済学」の方が基本的に運用しやすい経済学で、「(有効)需要」を中心に考えることで「実体経済」を中心に世の中が周り、結果「中間層」の強化になると思います。この「ケインズ経済学」は「大恐慌」の頃の1930年頃〜1970年代まで世界の中心であり、高度経済成長〜Japan as No.1までの繁栄を実現した、日本と非常に相性の良い経済学だったと思います。ソ連ゴルバチョフが来日時に「日本は最も成功した社会主義国である」と述べたのが関連で非常に興味深い話です。ケインズ経済学は「資本主義」をベースにした考え方でありながら対比される考え方である「社会主義」的な理想も同時に実現できるという非常にロバストな経済学と考えて良いのではないかと思います。(ここでゴルバチョフが言及した「社会主義」はイデオロギーというよりは、中間層が豊かに暮らせる社会をイメージしていたのではないかと思います; https://ja.wikipedia.org/wiki/日本型社会主義
ゴルバチョフ来日頃の日本社会は一種の理想形であり、これを実現した当時の政治家(特に基盤を構築した1960〜1970年代の政治家)や官僚たちはもっと評価されるべきなのかもしれません。

 

4. Liberal Artsに基づく21世紀型民主主義の運用とは
3節では「ケインズ経済学による中間層の強化」について論じました。3節では「ケインズ経済学」の良い点を中心に論じましたが、もちろん「ケインズ経済学」も万能ではなく、考え方だけでなく運用も重要です。この辺も含め、豊かになった中間層がどのように「集団的な意思決定」を行っていけば日本国における社会や、国際社会にプラスになるのかを議論せねばなりません。
特に、「環境問題」が「有効需要」をベースとする「ケインズ経済学」における課題になりそうで、「持続可能性」の議論がどうしても必要不可欠になります。「ケインズ経済学」は運用しやすいマクロ経済学である一方で、「持続可能性」はその対極に近いところに存在するのではと思います。「適切な自省」が求められる訳ですが、なかなか多くの人がそれに気づくのは大変かもしれません。
そこで考え方として「Liberal Arts」を基盤にする必要があると、ここでは主張したいと思います。

#1でも論じましたが、大局観を持つには特定の分野だけではなく、様々な分野の知見を組み合わせる必要があり、その基盤として「Liberal Arts」が役に立ちます。
「持続可能性」に限らず、様々な複雑な問題が現代社会では生じますが、「Liberal Arts」的な見方は問題が複雑になればなるほど必要になることを強調しておきたいと思います。

 

5. まとめ
#2では「Liberal Artsをベースとする21世紀型の民主主義の実現」について論じました。「民主主義」において重要なのが「構成員1人1人が正しい事実認識に基づいて自由に意思決定をする」ということです。また、「1人1人が正しく事実認識をする」上で最も重要なのが、中間層がある程度豊かに暮らせる社会を作るということです。

ケインズ経済学をベースとする中間層の強化
Liberal Artsを元にした大局的思考、判断の強化
・持続可能性を実現しつつ豊かな社会を享受する民主主義の実現

上記に基づく社会の実現を考えるのは少し理想論かもしれませんが、こちらが21世紀における望ましい民主主義の運用ではないかというのが筆者の見解です。