Ch_7 競争優位のフィランソロピー【後編】|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #13

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#12では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の前編として、「競争環境の視点から見たフィランソロピー」までの内容を取り扱いました。

Ch_7 競争優位のフィランソロピー【前編】|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #12 - lib-arts’s diary

#13では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の後編として、「競合他社のただ乗りをどう考えるか」以降の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 競合他社のただ乗りをどう考えるか
2. 価値創造のフィランソロピー四原則
3. 競争優位のフィランソロピーに向けて
4. 社会と企業にとっての価値を最大化する
5. 感想・まとめ

 

1. 競合他社のただ乗りをどう考えるか(簡単な要約)
フィランソロピーによって競争コンテキストが改善されると、直接の競合他社を含めそのクラスターや地域に属する他の企業もその恩恵を受ける場合が多い。この際に「ただ乗りによって競争コンテキストを重視するフィランソロピー戦略的価値は打ち消されてしまうのでは」という疑問が生じるが、答えは「ノー」である。
フィランソロピーを実施する企業において、その競争上のメリットはただ乗りされてもなお大きく、以下に五つの理由をまとめる。

1) 競争コンテキストの改善によってメリットを享受するのは主にその場所に拠点を置く企業であるため、競争コンテキストの改善を行った企業は競合他社全般に対して、やはり優位を得ることになる。
2) フィランソロピーは集団活動に向いているため、競合他社も含めクラスターに属する他企業とコンテキストを分かち合えればただ乗り問題は大きく軽減される可能性がある。
3) 大規模なフィランソロピーを最も実践しやすい立場にいるのは業界のリーダー企業であるので、競争コンテキストの改善の大半のメリットを享受しやすい。
4) 競争コンテキストを改善することで得られる優位全てが競合他社にとって等しく同じ価値を持っているわけではなく、フィランソロピーが企業独自の戦略と緊密に調和していればいるほど、メリットがその企業に有利に配分されるようになる。
5) ある地域で最初にフィランソロピーに着手した企業はそれによって優れた評判やリレーションシップが築かれるため、多くの場合大きなメリットにつながる。

上記のように、フィランソロピーのメリットが競合他社にも共有されてしまう場合にも、やはりその活動を先行させた企業は優位に立つことができる。


2. 価値創造のフィランソロピー四原則(簡単な要約)
フィランソロピーと競争コンテキストの関係を理解すれば、寄付を集中させるべき「対象」を確認することができる。そしてフィランソロピーがどのように価値を生み出すのかを理解すれば、寄付を通じて最大の社会的・経済的インパクトを実現する「方法」も浮かび上がってくる。対象と方法は相互に強化し合う関係にある。

1) 最善の寄付対象を選択する
2) 他の寄付者にシグナルを送る
3) 寄付対象者のパフォーマンスを改善する
4) その分野における知識や慣行を進歩させる

6章で、上記のような慈善財団が社会的価値を生み出す四つの方法について取り扱ったが、これらの取り組みは相互にそれぞれの基礎をなしており、1)から4)へと段階を踏んでいくに連れて、ますます大きな価値が創造されるようになる。

3. 競争優位のフィランソロピーに向けて(簡単な要約)
企業が正しい方法で正しい社会的目標を支援すれば、好循環が形成される。競争コンテキストのうち、自らの業界や戦略にとって最も重要な条件に集中していれば、より大きな価値を生み出してくれる寄付対象者を支援するにふさわしい自社の能力を活用することができる。自社の活動分野において、フィランソロピーが生み出す価値を高めていけば、競争コンテキストも大きく改善される。そうなれば、企業自体も企業が支援する社会的目標も重要なメリットを享受することができる。
より「戦略的」に寄付を行うという目標を掲げる企業は確かに増えているが、長期的に見た際に競争力の改善につながる分野と寄付を結びつけている企業はほとんどない。自社の長所を生かして、フィランソロピーを行っている企業は少なく、むしろ社会的責任や社会的配慮を重んじる企業というイメージを培うために自社がどれだけの資金と努力を注いでいるかを宣伝することに気を取られている場合が多い。
フィランソロピーを進めていくにいくにあたっては、下記の五つの段階を経ることが重要である。

1) 重要な地理的拠点における自社の競争コンテキストを検証する
2) 現在のフィランソロピーポートフォリオを見直し、新たなパラダイムに適合するかどうかをチェックする
3) 価値創造の四原則に照らして、現在もしくは将来想定しうる寄付行動を評価する
4) クラスター内の他企業や他のパートナーとの集団的な活動のチャンスを探る
5) 成果を厳密に追跡・評価する


4. 社会と企業にとっての価値を最大化する(簡単な要約)
競争コンテキストの改善と社会の改善に取り組むことに本質的な矛盾は何ら存在せず、実際にはこれまで見てきたようにフィランソロピーが競争コンテキストと密接に結びつけばつくほど、その企業の社会貢献度もますます高まる。
創出する価値を最大化するために体系的な取り組みを目指すなら、競争コンテキスト重視のフィランソロピーは企業に新たな競争ツールのパッケージを与えてくれる可能性がある。


5. 感想・まとめ
#13では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の後編として、「競合他社のただ乗りをどう考えるか」以降の内容について取り扱いました。競合他社のただ乗りに対する考察がなかなか視点として面白い印象を受けました。
#14では第8章の『戦略と社会問題(競争優位とCSR)』の内容について確認していきます。

Data Preparation〜Modeling|CRISP-DMを改めて考える #3

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当連載では1990年代後半頃に考案されたCRISP-DM(CRoss Industry Standard Process for Data Mining)というマネジメント技法について見ていくことで、マネジメントにおける注意すべきポイントなどを見ていければと思います。(CRISP-DMはデータマイニングにおけるマネジメント技法とされていますが、データサイエンスとデータマイニングはそこまで区別しなくても良いかと思われるので、当連載においては同様に取り扱うものとします)
#1ではWikipediaなどを元にCRISP-DMの概要を確認しました。

CRISP-DMの簡単な概要|CRISP-DMを改めて考える #1 - lib-arts’s diary

#2〜#4では下記のpdfを元にそれぞれの各フェーズについて確認していきます。

https://pdfs.semanticscholar.org/5406/1a4aa0cb241a726f54d0569efae1c13aab3a.pdf

#2ではBusiness Understanding〜Data Understandingについて取り扱いました。

Business Understanding〜Data Understanding|CRISP-DMを改めて考える #2 - lib-arts’s diary

#3ではData Preparation〜Modelingの内容を取り扱います。
以下、目次になります。
1. Data Preparation(データの準備)
2. Modeling(モデリング)
3. まとめ


1. Data Preparation(データの準備)
1節ではデータの準備(Data Preparation)について取り扱います。

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上図は参照pdfよりキャプチャを行っています。データの準備は主に5つのタスクから成り立っているとされており、下記に列記します。

①データの選択(Select data)
-> 分析に用いるデータを決める必要があるとされています。アウトプットとしては、分析に加えるデータと加えないデータのリストとその理由、があげられています。

②データのクリーニング(Clean data)
-> 分析手法に求められるレベルのデータの質にするためにデータのクリーニングを行う必要があるとされています。アウトプットとしては、データの質の問題に対してどのような対策を取るかについての記述、が必要であるとされています。

③データの構築(Construct data)
-> 派生的な変数(derived attributes)や新しいレコードの作成、既存変数の値の変換などが必要であるとされています。いわゆるデータの前処理にあたるところだと考えて良いと思われます。アウトプットとしては、1)area = length * widthのようなderived attributesの作成、2)購買なしの顧客のような状況において、該当レコードの作成、の二つがあげられています。

④データの統合(Integrate data)
-> (SQLのInner Joinのような)データの統合が必要であるとされています。アウトプットとしては、統合されたデータ、が必要であるとされています。

⑤データのフォーマット化(Format data)
-> データの意味を変えないようにモデリングツールに合わせたフォーマットにデータの形式を整える必要があるとされています。


2. Data Understanding(データの理解)
2節ではモデリング(Modeling)について取り扱います。

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上図は参照pdfよりキャプチャを行っています。モデリングは主に4つのタスクから成り立っているとされており、下記に列記します。

モデリング手法の選定(Select modeling technique)
-> 決定木やニューラルネットワークなどの分析に用いるモデリング手法を決める必要があるとされています。アウトプットとしては、1)分析に用いるモデリングの手法についてのドキュメント、2)それぞれのモデリング手法が持つ仕様上の前提の記述、の二つがあげられています。

②テストの設計(Generate test design)
-> データセットの分割などの分析結果のテストの設計を行う必要があるとされています。アウトプットとしては、テストの設計とされており、重要な点(primary component)としてデータセットの分割について言及されています。

③モデルの構築(Build model)
-> 準備したデータセットに対してモデリングツールを用いることで一つないしは複数のモデルを構築する必要があるとされています。アウトプットとしては、1)ハイパーパラメータの設定情報、2)実際に学習を行った後のモデル、3)結果として出力されたモデルとその解釈のレポート、の三つがあげられています。

④モデルのアセスメント(Assess model)
-> ドメイン知識やデータマイニングの成功の基準などに照らし合わせてモデルを解釈する必要があるとされています。アウトプットとしては、1)アセスメントの結果の要約、2)次のモデル構築に向けてのパラメータ設定の見直し、の二つがあげられています。

 

3. まとめ
#3では各フェーズについての詳細を確認していくにあたって、Data Preparation(データの準備)と、Modeling(モデリング)の内容を取り扱いました。
#4ではEvaluation(評価)以降の内容を取り扱っていきます。

Ch_7 競争優位のフィランソロピー【前編】|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #12

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#11では第6章の『フィランソロピーの新しい課題』の内容を取り扱いました。

Ch_6 フィランソロピーの新しい課題|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #11 - lib-arts’s diary

#12では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の前編として、「競争環境の視点から見たフィランソロピー」までの内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. フィランソロピーの現状
2. 企業はフィランソロピーに関わるべきか
3. 経済的目標と社会的目標は対立しない
4. 競争環境を形作る四つの要素
5. 競争環境の視点から見たフィランソロピー
6. 感想・まとめ


1. フィランソロピーの現状(簡単な要約)
フィランソロピー(企業の社会貢献活動)が低迷している。理由としては、経営幹部にとって「板ばさみ」の状況がますます深刻になっているからだと思われる。「企業の社会的責任」の一層の拡大を求める企業批判と、当座の利益の最大化を求めて容赦無くプレッシャーをかけてくる投資家によるジレンマが生じている。
このジレンマを受けてフィランソロピーをもっと戦略的に進めていこうとする企業が増加している。今増加しつつあるのは、フィランソロピーを広報や宣伝の一形態として活用し、コーズ・マーケティング(社会的な意義を伴うマーケティング)や注目度の高いスポンサーシップなどを通じて企業やブランドのイメージを高めようとする動きである。


2. 企業はフィランソロピーに関わるべきか(簡単な要約)
フィランソロピーはその成果に対して疑念を抱かれることもある。これについて考えるにあたって、「企業はフィランソロピーに関わるべきか」という根本的な命題に立ち返る方が良いと思われる。
経済学者のミルトン・フリードマンが「企業の社会的責任とは、株主の利益を増大させることだけである」と主張したが、この主張の根底には下記の二つの前提がある。

・社会的目標と経済的目標は明確に区分されており、社会的支出は経済的業績を犠牲にするという前提
・企業は社会的目標のために個人の寄付者が提供する以上のメリットを提供できないという前提

この二つの前提が通用するのは、企業による寄付の焦点が絞り切れておらず、個々がバラバラに行われている場合である。しかし、フィランソロピーにはもう一つ別の真の意味での戦略的な考え方が存在する。その考え方とは、「企業は自らの『戦略的コンテキスト(自社が事業を展開している立地における事業環境の質)』を改善するためにフィランソロピーを活用できるという考え方」である。
戦略的コンテクストの向上に取り組む企業は単にお金を出すだけでなく、自社の能力や組織や人とのつながりを提供して社会的慈善事業を支援することができる。
この新しい方向を選択するには寄付プログラムへの取り組み方を根本的に変えなければならず、自社のフィランソロピーの焦点を合わせるべき「対象」と寄付をする際の「方法」を考え直す必要がある。


3. 経済的目標と社会的目標は対立しない(簡単な要約)
昔から、経済的目標と社会的目標は別物であり多くの場合は相反するものとして見られてきたが、このような二分法は間違っている。オープンで知識ベースの競争が展開される世界においてはますます時代遅れになりつつある。
企業は自社を取り巻く社会から孤立して機能しているわけではないので、事業を展開している地域の環境に強く依存している。社会的な改善とビジネスの関連が深ければ迂回ほど、経済的なメリットにつながる度合いも強くなる。
具体的に考えるなら教育の改善があげられ、教育の改善は一般には社会問題と考えられているが、地域の労働者の教育水準は当該企業の潜在的な競争力に本質的な影響を与える。このように、経済的目標と社会的目標は対立するものではない。

4. 競争環境を形作る四つの要素(簡単な要約)
競争コンテキストはこれまで戦略面において常に重要だった。スキルが高く、やる気のある労働力が使えることや、道路などの地域インフラの効率性、地元市場の規模と成熟度などの競争コンテキスト上の変数は、企業の競争力に常に影響を与えてきた。
競争コンテキストの重要性はますます高まっており、競争の基盤がどれだけ低コストのインプットを得られるかという点から、どれだけ優れた生産性を実現できるかという点に移りつつある。
競争コンテキストは地域社会の事業環境に含まれる、下記の四つの関連し合う要素から成り立っており、これが潜在的な生産性を左右する。

1) 要素条件(入手可能な生産インプット)
2) 需要要件
3) 企業戦略と競合状況
4) 関連産業や支援産業

また、競争コンテキストで重要な点として特定の「クラスター」に固有の側面である。ここで、クラスターは特定分野に属する企業、サプライヤー、関連産業、専門機関が地理的に集中し、相互に関連している状況を指している。


5. 競争環境の視点から見たフィランソロピー(簡単な要約)
競争コンテキストの要素を注意深く分析すれば、社会的価値と経済的価値がオーバーラップし、企業自体の競争力、あるいはその企業が属するクラスターの競争力を最大化してくれるであろう分野を確認できる。
そのため4節でまとめた四つのそれぞれの要素の視点から、クラスターの競争力を上げてくれる分野を探すと良いと思われる。


6. 感想・まとめ
#12では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の前編として、「競争環境の視点から見たフィランソロピー」までの内容について取り扱いました。戦略的状況を変えるにあたっての手段としてフィランソロピーを捉えるというのはなかなか面白い考え方でした。キッシンジャー外交における交渉術に出てきた考え方と似ている印象を受けました。
#13では第7章の『競争優位のフィランソロピー』の後編として、「競合他社のただ乗りをどう考えるか」以降の内容について確認していきます。

Bicycle GAN(概要の把握)|DeepLearningを用いた生成モデルの研究を俯瞰する #2

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当シリーズでは生成モデルの研究や実装にもフォーカスをあてられればということで、進めていきます。

GitHub - eriklindernoren/PyTorch-GAN: PyTorch implementations of Generative Adversarial Networks.

上記に様々なPyTorch実装や論文のリンクがまとめられていたので、こちらを参考に進めていくのが良いのではと思っています。
#1では"Conditional Image Synthesis With Auxiliary Classifier GANs"の概要について取り扱いました。

#2ではBicycle GAN(Toward Multimodal Image-to-Image Translation)について取り扱います。

[1711.11586] Toward Multimodal Image-to-Image Translation

以下目次になります。
1. Bicycle GANの概要(Abstract、Introductionの確認)
1-1 Abstractの確認
1-2 Introductionの確認(Section1)
2. 論文の重要なポイントの抜粋
2-1. Related Work(Section2)
2-2. Multimodal Image-to-Image Translation(Section3)
2-3. Implementation Details(Section4)
2-4. Experiments(Section5)
2-5. Conclusions(Section6)
3. まとめ


1. Bicycle GANの概要(Abstract、Introductionの確認)
1-1 Abstractの確認
まず1節では論文の概観を掴むにあたって、Abstractを確認していきます。

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[1711.11586] Toward Multimodal Image-to-Image Translation

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以下簡単にAbstractを要約します。
要約:『多くの画像変換(image-to-image translation)の問題は曖昧であり、一つの入力画像が複数の出力画像を取りうる。この研究では生成モデルの設定に条件を与えることで複数の出力の分布を出力できるように取り組んでいる。マッピングの曖昧さは低次元(low-dimensional)の潜在空間(latent vector)の蒸留される。Generatorは与えられた入力を潜在空間の情報を与えることで出力にマッピングすることを学ぶ。また、明示的に出力と潜在空間の情報(latent code)を反転可能(invertible)にすることで、モデルの性能を向上している。様々な実装を試したが、提案する手法は潜在空間のエンコーディングと出力の間の全単射の一貫性をもたらすものになっている。他の類似の手法と知覚的な現実性と多様性の双方の点から比較を行っている。』


1-2 Introductionの確認(Section1)
1-2ではIntroductionの確認を行っていきます。以下パラグラフ単位でリーディングを行なっていきます。

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第一パラグラフでは、条件付き画像生成(conditional image generation)におけるDeepLearningの技術の急速な発展がある一方で、多くの手法が単一の結果(single result)を生成することにフォーカスしていることについて述べられています。また、そのことに対しこの研究では取りうる結果の分布(distribution)を考え多くの状態を持つ(multimodal)問題としてモデリングしているとされています。

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multimodalな出力としては上記のFigure1のような結果が得られるとされています。一つのドメイン(ここでは夜の風景)に属する入力画像が与えられることで、ターゲットドメイン(ここでは昼間の風景)の画像を複数得ることができるとされています。ここでdistributionは直訳すると分布ですが少々意味が取りづらいので、複数の出力を取りうることだと解釈しておくのが良いかと思います。

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第二パラグラフでは、高次元の入力(ここでは画像)から高次元の複数の出力(ここでは複数のパターンの画像)をマッピングするのはchallengingだとされています。この辺の問題についての解決策について論文はフォーカスしていると抑えておくと良いです。

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第三パラグラフでは、論文のスタートとしてオーソドックスな画像の変換(image-to-image translation)に対する手法である、pix2pixのフレームワークから始めたことについて言及されています。pix2pixでは誤差関数として、(1)正解画像(ground truth image)と生成した画像の誤差、(2)Discriminatorが画像がground truthなのか生成画像かを見分けれているかの誤差、の二つを設けているとされています。ここにはドメインを司る低次元latent-codeが含まれていないので、論文ではこの点に対してアプローチを行っているとされています。

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第四パラグラフでは、当論文の研究の目的を達成するにあたって、cVAE-GAN(Conditional Variational Autoencoder GAN)とcLR-GAN(Conitional Latent Regressor GAN)のアプローチを参照しています。

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それぞれ上記のように図示されています。

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第五パラグラフでは、評価や実装コードについて言及されています。実装のコードは下記で公開されています。

GitHub - junyanz/BicycleGAN: Toward Multimodal Image-to-Image Translation


2. 論文の重要なポイントの抜粋
2-1. Related Work(Section2)
今回は省略します。


2-2. Multimodal Image-to-Image Translation(Section3)
Section3ではモデルの立式について行われています。

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まず、3.1ではベースラインとして「pix2pix+noise」を定式化しています。こちらについてはpix2pixの式を参照している形になります。

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次に、3.2では、cVAE-GANについて取り扱われています。Introductionのところで貼った図と対応させながら理解すると良さそうです。

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3.3では、cLR-GANについて取り扱われています。Introductionのところで貼った図と対応させながら理解すると良さそうです。

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3.4では、3.2と3.3のlossを足し合わせる(hybrid)ことでlossを設定していると考えると良さそうです。


2-3. Implementation Details(Section4)

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ネットワーク構造としては、GeneratorとしてはU-Net、DiscriminatorとしてはPatchGAN discriminatorを用いたとされています。


2-4. Experiments(Section5)

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Figure5では手法間の質的な比較(Qualitative method comparison)を行っています。「BicyvleGANがリアルで多様な結果を生成している」とコメントされています。

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また、Figure6では、手法を定量化して比較を行っています。グラフの縦軸がRealismの軸、横軸がDiversityの軸とされています。


2-5. Conclusions(Section6)
今回は省略します。


3. まとめ
#2ではBicycle GAN(Toward Multimodal Image-to-Image Translation)について取り扱いました。類似研究をあまり読み慣れていないため若干粒度の粗い記載となっていますが、シリーズが進むにつれてより詳しい記述を追加していければと考えています。
#3ではDualGAN(Unsupervised Dual Learning for Image-to-Image Translation)について取り扱います。

[1704.02510] DualGAN: Unsupervised Dual Learning for Image-to-Image Translation

Ch_6 フィランソロピーの新しい課題|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #11

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#10では第5章の『競争戦略から企業戦略へ』の後編として、「企業戦略の四つのコンセプト」以降の内容を取り扱いました。

Ch_5 競争戦略から企業戦略へ(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #10 - lib-arts’s diary

#11では第6章の『フィランソロピーの新しい課題』の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 慈善団体という存在
2. 価値創造という義務
3. 助成によって社会的利益を生む四つの方法
4. 慈善財団にも戦略が必要である
5. 慈善財団の活動の実態
6. 新しい課題に取り組む
7. 感想・まとめ


1. 慈善団体という存在(簡単な要約)
過去20年間で米国の慈善財団の数は二倍に増え、所有する資産の価値は12倍以上にまで増加した。とはいえ、米国は一つの社会としてこれほどの注力に見合うだけの成果を出しているだろうか。
慈善財団とは、財団に資金を寄付する個人と、その資金を使って財団が支援する様々な社会的事業との間を結ぶ仲介役であるが、もし財団の役割が受け身の中間業者だとすればそれは本来果たせるはずの役割の一部に過ぎず、社会が財団に抱く大きな期待にほとんど応えていないことになる。財団は政治的圧力を受けないため、政府には決して持てない独立性を保ったまま社会問題の新しい解決方法を探ることができる。
しかしながら慈善財団がその潜在能力を十分発揮しているかどうかには疑問の余地があり、自分たちの自由になる資源をどのように使えば社会に最大の価値を生み出せるのかを戦略的に考えている財団はそれほど多くない。


2. 価値創造という義務(簡単な要約)
個人が社会的事業にお金を寄付すると、寄付金の全ては社会的利益を生み出す仕事に使われる一方で、個人が慈善財団にお金を寄付すると寄付金のほとんどは表舞台に出ない「縁の下の力持ち」になる。財団が慈善のために一年間に寄付する金額は、平均すると財団の資産のわずか5.5%であり、残りは社会的利益のためではなく金銭的利益を得るために投資される。
我々は普段、慈善事業に直接寄付することと、財団を通して寄付することの違いを改めて考えることはほとんどないが、その違いは驚くほど大きい。
永続的な資産基盤があるということは、社会問題に立ち向かい、得意分野で専門性を高めるのにふさわしい長期的な時間軸を持てることを意味する。それゆえ、同じ金額でも、個人による寄付や政府支出よりも財団を通したほうがより大きな社会的インパクトをできる可能性があるため、財団が価値創造できるようにするにはどうするのかを考えることには意義がある。


3. 助成によって社会的利益を生む四つの方法(簡単な要約)
圧倒的多数の慈善財団は助成先という他者を通してその役目を果たしている。助成型の財団は、支援する組織から社会的利益を買っていると考えることができるが、これは個人や政府も同様である。従って、財団が価値創出したと言えるのは、その活動を通して助成金の購買力だけでは得られない社会的利益を生み出した時である。
それを実現するためには下記の四つの方法がある。

・最もふさわしい助成先を選ぶ
・他の資金提供者にシグナルを発する
・助成先のパフォーマンスを改善する
・その分野における知識や慣行を前進させる


4. 慈善財団にも戦略が必要である(簡単な要約)
3節で取り扱った価値創造の四つの方法は、実践の場において相互に補強し合い、メリットが累積していく。しかし四つの方法の何を採ろうとも、価値を創造するには本物の戦略が必要になる。
フィランソロピーの目的はビジネスとは違うかもしれないが、その基底を成す戦略の考え方は同じである。企業のように市場で競争するのではなく、財団は寄付金という希少資源を使って自らの潜在能力を最大限に発揮し、いかに社会貢献するかという事業を営んでいる。より少ない資金で同等の社会貢献ができた時、財団は価値を創造したと言える。
ビジネスであろうとフィランソロピーであろうと、戦略とは下記の四つの原則を守ることである。

・特定分野での成果を目指す
・独自のポジショニングを選ぶ
・戦略の基盤は独自の活動である
トレードオフを伴うポジショニング

 

5. 慈善財団の活動の実態(簡単な要約)
慈善財団の取り組みなどについて包括的な調査研究は行われていないが、知る限りではこれまで述べた内容を基準に考えるとなかなか現状はうまく行っていないと思われる。
戦略には集中が必要だが、財団は概して自らの資源(人的資源と資金の両方)をあまりにも広く拡散し過ぎている。断片化した助成を数多く行うことが常態化し、個々の助成要請の対応に常に追われているため、財団の専門性を高めたり、助成先に手を貸したり、社会問題を徹底的に調査したりする時間はほとんどない。


6. 新しい課題に取り組む(簡単な要約)
これまでの各ポイントをまとめ、整合性の取れた一つの仕組みにするためには、戦略を策定しその戦略に沿うよう組織運営を変え、きちんと戦略に沿った運営が行われているかを効果的に監視できるよう、財団のガバナンスにも手を加える必要がある。
フィランソロピーの成果を改善すれば慈善財団はいまよりはるかに大きな影響を社会に及ぼすことができると思われる。社会に対する責任を引き受け、社会的価値を創造するという責務を引き受けるまで、慈善財団は成功も失敗も存在しない世界で活動を続けることになるので、こちらについては考慮する必要があると思われる。


7. 感想・まとめ
#11では第6章の『フィランソロピーの新しい課題』の内容について取り扱いました。あまり考えることの少ない話題だったので、考え方として非常に参考になりました。
#12では第7章の『競争優位のフィランソロピー』について確認していきます。

Business Understanding〜Data Understanding|CRISP-DMを改めて考える #2

f:id:lib-arts:20191115190651p:plain

当連載では1990年代後半頃に考案されたCRISP-DM(CRoss Industry Standard Process for Data Mining)というマネジメント技法について見ていくことで、マネジメントにおける注意すべきポイントなどを見ていければと思います。(CRISP-DMはデータマイニングにおけるマネジメント技法とされていますが、データサイエンスとデータマイニングはそこまで区別しなくても良いかと思われるので、当連載においては同様に取り扱うものとします)
#1ではWikipediaなどを元にCRISP-DMの概要を確認しました。

#2〜#4では下記のpdfを元にそれぞれの各フェーズについて確認していきます。

https://pdfs.semanticscholar.org/5406/1a4aa0cb241a726f54d0569efae1c13aab3a.pdf

以下、目次になります。
1. Business Understanding(ビジネスの理解)
2. Data Understanding(データの理解)
3. まとめ

 

1. Business Understanding(ビジネスの理解)
1節ではビジネスの理解(Business Understanding)について取り扱います。

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上図は参照pdfよりキャプチャを行いました。ビジネスの理解は主に4つのタスクから成り立っているとされており、下記に列記します。

①ビジネス目的指標の決定(Determine Business Objectives)
-> ビジネス的な側面から顧客が何を成し遂げたいと考えているかを読み取る必要があるとされています。この際のアウトプットとしては、1)ビジネス上の背景情報(background)のレポーティング、2)ビジネス的な側面からのクライアントの主要な(primary)ビジネス目標の記述、3)ビジネスの側面からの有用な結果の評価基準の記述、の三つがあげられています。

②状況のアセスメント(Assess Situation)
-> プロジェクトに関する全てのリソースの詳細の事実の洗い出しを行う必要があるとされています。ここで、リソースとしては、制約条件(constraints)、前提(assumptions)やその他の要素が該当しています。アウトプットとしては、1)人、データ、計算機資源、ソフトウェアなどの利用可能な資源のリスト、2)スケジュールなどを含む、プロジェクトにおける全ての制約のリスト、3)プロジェクトを進めるにあたってのリスク要因のリスト、4)プロジェクトの用語集、5)ビジネス視点からのプロジェクトの費用対効果、の五つがあげられています。

データマイニングの目標の決定(Determine data mining goals)
-> 「既存顧客のカタログセールスを増加させる」のようなビジネスの目標に対して、「顧客の購買情報やデモグラ情報を元に顧客がどのくらいの購買を行うか予測する」のようなデータマイニングにおける目標を立てる必要があるとされています。アウトプットとしては、1)ビジネスの目的を達成するためのプロジェクトの望ましいアウトプットの記述、2)予測の正答率などの技術的な見地からのプロジェクトの成功の基準の記述、の二つがあげられています。

④プロジェクト計画の策定(Produce project plan)
-> データマイニングの目標を達成し、それによりビジネスの目的を達成するにあたって、プロジェクトの計画の策定を行う必要があるとされています。アウトプットとしては、1)期間、必要リソース、インプット、アウトプット、依存関係など、プロジェクト実行における段階のリスト、2)データマイニングにおいて用いるツールや技術のアセスメント(評価)、の二つがあげられています。

 

2. Data Understanding(データの理解)
2節ではデータの理解(Data Understanding)について取り扱います。

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図2-2は参照pdfよりキャプチャを行っています。データの理解は主に4つのタスクから成り立っているとされており、下記に列記します。

①初期データの収集(Collect initial data)
-> データにアクセスし読み込む(load)することで利用可能な状態にすることが必要であるとされています。アウトプットとしては、初期のデータの収集と収集にあたってのトラブルなどのレポート、があげられています。

②データの記述(Describe data)
-> 獲得したデータの全体(gross)の、または表面上(surface)の属性を記述し、レポーティングすることが必要であるとされています。アウトプットとしては、データのフォーマット、データの量、などを含むデータの情報を記述したレポート、があげられています。

③データの探索(Explore data)
-> 簡単な初期分析について必要だとされています。アウトプットとしては、初期段階としての発見や仮設、その後のプロジェクトへの影響などを記載したレポート、があげられています。

④データの質の検証(Verify data quality)
-> データの質の検証を行う必要があるとされています。アウトプットとしては、レポートに加え質的な問題が見つかったデータには解決策のリスト、が必要とされています。また、データの質の問題に対しては一般的にはデータとビジネス知識に関して大きく依存することが多いとされています。

 

3. まとめ
#2では各フェーズについての詳細を確認していくにあたって、Business Understanding(ビジネスの理解)と、Data Understanding(データの理解)の内容を取り扱いました。
#3ではData Preparation(データの準備)以降の内容を取り扱っていきます。

Ch_5 競争戦略から企業戦略へ(後編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #10

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」を読み進めていきます。

[新版]競争戦略論Ⅰ | 書籍 | ダイヤモンド社

過去の読解メモについては下記などを参照ください。

Ch_5 トレードオフ ー 戦略のかすがい|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #8 - lib-arts’s diary

Ch_6 適合性 ー 戦略の増幅装置|『[エッセンシャル版]マイケル・ポーターの競争戦略』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#9では第5章の『競争戦略から企業戦略へ』の前編として、「企業戦略が満たすべき三つの基準」までの内容を取り扱いました。

Ch_5 競争戦略から企業戦略へ(前編)|『[新版]競争戦略論Ⅰ(by Michael Porter)』読解メモ #9 - lib-arts’s diary

#10では第5章の『競争戦略から企業戦略へ』の後編として、「企業戦略の四つのコンセプト」以降の内容を取り扱います。
以下目次になります。
1. 企業戦略の四つのコンセプト
2. どのコンセプトを選択すべきか
3. 目指す方向を定める
4. 感想・まとめ

 

1. 企業戦略の四つのコンセプト(簡単な要約)
#9で取り扱った、魅力度基準、参入コスト基準、補強関係基準の三つの基準は、多角化を成功させる上で、いかなる企業戦略においても満たされなければならないものである。一方で、この基準を満たすことは難しく、多角化の試みの多くが失敗に終わっている。多角化の指針となる企業戦略に具体的なコンセプトが欠けていたり、三つの基準を満たしていないコンセプトを追求している企業が少なくない。
企業戦略は下記の四つのコンセプトに基づいて実施されていると考えることができる。

ポートフォリオマネジメント
-> 企業戦略における四つのコンセプトの中で最も広く用いられているのがポートフォリオマネジメントであり、このコンセプトは主に買収による多角化によって成り立っている。企業は健全で魅力的な事業を買収し、ポートフォリオマネジメントに長けた経営者は各事業単位をその将来性に応じて分類する。
-> ほとんどの国でポートフォリオマネジメントが有効な企業戦略であった時代は終わっており、資本市場が発展を遂げる中、まともな経営陣を擁する魅力的な企業は誰の目にも止まるようになり、買収プレミアムを物ともせず投資資金が群がるようになった。一方、開発途上国は大企業が少なく、資本市場が未発達でありマネジメント能力も希少であるため、ポートフォリオマネジメント戦略が有効である可能性がある。

リストラクチャリング
-> リストラクチャリングを企業戦略のコンセプトとして採用する場合、各事業単位の再構築を推し進めるという積極的な役割を担うことになる。新規事業は必ずしも既存事業との関連がなくても構わないが、事業にポテンシャルがあるかどうかである。
-> 適切に実施されるならリストラクチャリングは魅力度基準、参入コスト基準、補強関係基準の三つの判定基準をクリアする有効なコンセプトであると言えるが、事業が成功して好転し始めると事業単位を手放すことが惜しくなり、最終的にはポートフォリオマネジメントと同様になってしまうことがあるので注意が必要である。

・スキルの移転
-> スキルの移転は事業単位間の内部リレーションシップの活用に依拠するコンセプトである。スキルの移転を採用する場合は「シナジー」という概念について考える必要があり、バリューチェーンと絡めて考えると良い。
-> スキルの移転によって競争優位が得られるのは、事業単位間の類似性において、1.各事業単位の活動が類似している場合、スキルの移転が競争優位にとって重要な活動に関係している場合、3.移転されるスキルが受け取る事業単位にとって競争優位の源泉となる場合、の三つの条件が満たされる場合である。

・活動の共有
-> 活動の共有では、バリューチェーンにおける活動を複数の事業部間で共有することに基づく。一方で活動の共有が必ずしも競争優位に結実するわけではないので注意が必要である。

ここで、ポートフォリオマネジメントとリストラクチャリングの二つは各事業単位間の連携を必要としないが、スキルの移転と活動の共有は各事業単位の連携を前提としている。
正常な環境の下であれば、これら四つのコンセプトのうちどれを用いても成功できるが、今日ではそれぞれの有効性には差が生じているので注意が必要である。


2. どのコンセプトを選択すべきか(簡単な要約)
企業戦略のコンセプトが違えば株主価値を創造する手法も違ってくる。四つのコンセプトのどれを選んでも成功することが可能だが、そのためには下記の要件をクリアしなければならない。

・企業の役割と目標を具体的に定義する
・選択したコンセプトの遂行に必要なスキルを揃える
・企業戦略と適合する形で多角化された事業を管理できる組織体制を構築する
・自社にふさわしい資本市場の状況を見つける

どのような企業戦略を用いるのかはその企業の歴史にある程度左右される。また、企業戦略の選択は一発勝負ではなく、将来性のあるビジョンに基づいていなければならない。長期的に望ましいコンセプトを選び、その出発点から現実的な歩みで前進していくべきである。


3. 目指す方向を定める(簡単な要約)
株主価値を創造する上で、企業の方向性を打ち出すことは賢い方法といえる。しかるべき方向性を設定することで、各事業単位の努力をまとめ上げ、事業単位間の協力をより促すだけでなく、これを新規参入すべき事業を選択する時の指標にすることもできる。
競争戦略から企業戦略へという移行は企業にすれば冒険に見えるが、企業戦略が失敗する背景にはほとんどのコングロマリットが「自分たちはどのように付加価値を創造しているのか」という視点を失ってしまっている現実がある。
競争優位を実質的に強化する企業戦略こそ、乗っ取り屋への最善の備えとなる。多角化を成功させる三つの判断基準に十分注意を払い、覚悟を持って企業戦略における四つのコンセプトのいずれかを選択することで、多角化は目に見えて改善されると思われる。

 

4. 感想・まとめ
#10では第5章の『競争戦略から企業戦略へ』の後編として、「企業戦略の四つのコンセプト」以降の内容についてまとめました。どのコンセプトを選択すべきかについてはより詳細な記述があったのですが、具体的には臨機応変に考える方が良さそうだったので飛ばしました(詳しく気になる方は本を参照ください)。
#11では第6章の『フィランソロピーの新しい課題』について確認していきます。